経済制裁のダメージで苦しむロシアと、地獄に堕ちる中国と北朝鮮

経済制裁のダメージで苦しむロシアと、地獄に堕ちる中国と北朝鮮

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は巧妙で独裁的な政治運営で、盤石の基盤を築き上げてロシアを安定化させてきた。

しかし、2014年にウクライナに侵攻してから欧米の経済制裁を受けて経済成長は頓挫、ロシアの通貨ルーブルも価値を吹き飛ばした。この経済制裁は2016年に延長された。

そこで、プーチン大統領は、この経済制裁を押したオバマ大統領の影響力を排除するために2016年のアメリカ大統領選挙の行方をフェイクニュースで操作した。

プーチン大統領自身もロシアの諜報部隊であるKGB出身だが、ロシアは昔からこうした裏工作を得意とする国だ。

この2016年のロシアの選挙介入の目的は、オバマ大統領の政策を維持する大統領候補ヒラリー・クリントンが当選しないように妨害することだ。

それと同時に、キワモノ候補であったドナルド・トランプ候補を祭り上げてアメリカを混乱させることだ。

この工作はうまくいくかどうかは未知数だったが、フェイスブックで流されたフェイクニュースは思った以上に効果を発揮して、アメリカの大統領選は大番狂わせとなって結実した。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

経済制裁と年金受給年齢引き上げで苦境に堕ちるロシア

しかし、アメリカのエスタブリッシュメントが意図しない大統領選の結果は、そこにロシアのフェイクニュース工作があったことがすぐに発覚した。

これによって、ロシアはアメリカのエスタブリッシュメントを全員敵に回すことになった。

では、ドナルド・トランプ大統領は親露だったのか。いや、トランプ大統領個人はプーチン大統領に拒絶感を持っていないのだが、トランプ大統領はあくまでも「アメリカ第一」を優先する大統領だった。

自身がロシアの支援を受けて大統領になったという疑惑を持たれながらも、トランプ大統領はロシアに対する制裁をより強化する方向で走り出していく。

これはプーチン大統領の誤算だった。ヒラリー・クリントンを排除したら制裁は収束に向かうという目論見は砕け散ってしまったのである。

トランプ大統領は2018年4月6日に、「ロシアが世界各地でありとあらゆる有害な活動に関わっている」と述べてロシア政府高官や新興財閥の資産を凍結する制裁に出たのだが、これによってロシアのローブルはより暴落することになった。

このアメリカの制裁に、ロシアは対抗措置としてアメリカ製品の輸入禁止などを行った。ところが、これで首が締まったのはアメリカではなくて、むしろロシアの方だった。

ただでさえ経済制裁されて物資が不足しているところに、信頼あるアメリカの製品が買えなくなるのだから、ロシアの国民はアメリカよりもむしろプーチン大統領に不満を持つようになっていった。

2014年から始まったアメリカの経済制裁は、数年かけてロシア経済をじわじわと追い詰め、そして2018年現在、いよいよロシアのプーチン大統領への政治手腕への不信感が芽生えるようになってきている。

このプーチン大統領に対する不信をさらに悪化させたのは、「年金支給年齢引き上げ案」だ。ロシアもまた社会保障費が膨らんでいる。財源はとっくに枯渇している。

これを打開するためには、年金支給額を下げるか受給年齢を引き上げるしか手がない。

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プーチン大統領に裏切られたという気持ちを持つ

ロシアでは、現状では男性は60歳、女性は55歳から年金をもらえる。これを男性65歳、女性63歳に段階的に引き上げるというのがロシア政府の出した案だ。

この「年金支給年齢引き上げ案」は2018年6月に出されたのだが、ここで一気にプーチン政権に対する反発が危険なまでに膨れ上がっていった。

「アメリカの経済制裁はロシアには効かない」というのは2014年からずっと言われていたのだが、経済制裁はじわじわと国の経済を追い詰めていく。

最初は小手先で粘ったとしても、制裁が長期に渡って続くと、国民生活は大きなダメージを受けるようになり、やがてどこかのタイミングで政権不信になって爆発する。

ロシアの国民は当初、「我々に試練を課しているのは欧米で、プーチン大統領は雄々しく戦っている」という解釈を持ってダメージを受けたロシア経済を耐える姿勢を示していた。

ルーブルの価値が吹き飛ぶ中で数年耐えたというのは、「我々は欧米の制裁の被害者だ」という意識があったからだ。

しかし、2018年6月にプーチン大統領が年金受給年齢の引き上げ案を出したことから様子が変わった。

ロシア国民は、「経済制裁の中で耐えたのに、これでは弱り目にたたり目だ」と思うようになり、プーチン大統領に裏切られたという気持ちを持つようになっている。

この年金受給年齢の引き上げに端を発するロシア国民の不満の爆発は、ロシア各国で数千人ものデモが続出する騒ぎとなっていきプーチン大統領の支持率を50%台にまで引き下げた。

これを見たプーチン大統領は慌てて「女性の年金受給を60歳にする」と修正案を出したが、ロシア国民の怒りは収まっていない。「年金受給年齢に手を付けるな」というのがロシア国民の要求だ。

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徹底的な経済制裁の結果は、政情不安につながる

2014年から始まった経済制裁は、ドナルド・トランプ大統領になってからより強化されていき、ロシア経済は今どん底の状態にある。

2014年からエネルギー価格も暴落に次ぐ暴落で、エネルギーに依存するロシアは二重にも三重にもダメージを負った。通貨ルーブルの価値も吹き飛んでいき、ロシア政府の財源もロシア国民の生活も急激に悪化していった。

そして、社会保障費が枯渇したロシア政府はやむを得ず「年金支給年齢引き上げ案」を出したのだが、これによって今度は政情不安も発生するようになっていった。

今までプーチン大統領は、自分自身に対して批判的なジャーナリストや野党や経営者をロシアから追放したり、毒殺したり、暗殺したりして闇に葬ってきた。

今でも、こうしたダーティーな手法をプーチン大統領は多用している。

しかし、広く広がったプーチン大統領に対する国民の不満は、もはやこうしたピンポイントでの排除では間に合わなくなってきている。

プーチン大統領がこの苦境を乗り切れるのかどうかは分からないのだが、ひとつ言えることがある。

アメリカが本気になって徹底的な経済制裁をしたら、その国は遅かれ早かれ大きなダメージを受けて政情不安が起きるということだ。

狡猾で老練な独裁者ウラジーミル・プーチンでさえも、経済制裁が続く中ではじりじりと苦境に追いやられている姿を見ても分かる。経済制裁を徹底したら、その国の政権に巨大なダメージを与えることができる。

こうした状況を見つめながら世界を俯瞰すると、次にどこの国がダメージを受けるか見えてくるはずだ。それは言うまでもない。

中国と北朝鮮である。

経済制裁のダメージで苦しむロシアと同じく、中国と北朝鮮はこれから地獄に堕ちることが約束されている。

特に巨大な人口を持つ中国は、いったんダメージが深まると収拾がつかなくなる恐れがある。果たして中国はアメリカの経済制裁にどこまで対抗できるだろうか?(written by 鈴木傾城)

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狡猾で老練な独裁者ウラジーミル・プーチンでさえも、経済制裁が続く中ではじりじりと苦境に追いやられている姿を見ても分かる。経済制裁を徹底したら、その国の政権に巨大なダメージを与えることができる。

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