コロナ禍で増えるうつ病と自殺者。しかしコロナ以前に現代社会は残酷だった

コロナ禍で増えるうつ病と自殺者。しかしコロナ以前に現代社会は残酷だった

複雑化する社会、安定なき雇用、激しい競争が生み出す「脱落の恐怖」は、すべて現代人に密接に関わり合っていて、そのすべてが人々に激しいストレスを与え、じわじわと心を削いでいく。心が壊れていく人がこれからも増えていったとしても、まったく不思議ではない。そして、誰が追い込まれても不思議ではない。これをコロナ禍が深刻化させている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

コロナ以前から最初からそうだった

2020年はコロナによって社会が激変した。先が見通せない中で、自殺者も増えているのだが、それと同時に「精神疾患」にかかる患者が世界中で急増している。精神疾患の代表はうつ病だが、このうつ病がコロナ禍で大きく増えているのだ。

コロナ禍によって多くの人が失業や休業や給料減に見舞われているのだが、それだけでなく人と人の接触が減ったことによる孤独感や、「これからどうなるのだろうか」という不安感なども合わさって、人の心を陰鬱にさせている。

「コロナうつ」「コロナ・ストレス」とも呼ばれる症状だ。日本もそうだが、世界中で増え続けるうつ病が大きな社会問題となっている。

米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」も、2020年9月20日にアメリカ国内のコロナ蔓延に伴い、『国民のストレスの度合いやうつ病の症状が絶え間なく増加している』との研究結果を発表した。

自殺も増えている。日本も2020年に入ってから自殺が増えているのだが、特に特筆すべきは女性の自殺が増えていることだ。女性は追い込まれているのだ。(ブラックアジア:コロナ禍は、風俗という「女性の最後のセーフティーネット」も破壊した

コロナとは関係なく、自殺の半数はうつ病が誘発していることは世界保健機関の調査でも分かっている。

コロナはまだ収まることはない。精神的な疾患により医療機関にかかる人々は年々増えていく一方で、先進国はおろか新興国まで患者の増加が止まらない。コロナ禍が全世界の人間に激しいストレスを与えているというのも事実であり、見過ごせないほど深刻化している。

もっとも、コロナが収束してもその瞬間にうつ病や自殺が消えるわけではない。人々は現代社会で精神を病む。現代社会は「精神を病む人」を絶えず生み出す社会なのである。無防備に生きていると、やがて精神を蝕まれ、破壊されていく。

コロナがどうなろうが、最初からそうなのだ。それにしても、現代社会の何が私たちを追い込むのか……。

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誰もが現代社会を見通せなくなった

現代社会が人々の精神を破壊していく。そして、うつ病や自殺に追い込まれる人たちを大量に生み出す。なぜなのか。これには4つの要因がある。

まず、最初に指摘されるのが「社会の複雑化」である。物事が複雑化すると、人々はその複雑さに対して対応を迫られることになる。ありとあらゆる分野が細分化され、それを理解するためには深い専門知識が必要となる。

しかし、人間の能力はそのすべてに対応できるはずもなく、現代社会には私たちの理解できない「ブラックボックス」が大量に生まれていく。

要するに、私たちは誰もが現代社会を見通す能力がなくなっている。知らなければならないことが大量にあって、しかもそのどれもが人間の能力の限界を超えている。

今でもそんな状態なのに、テクノロジーはさらに進歩していき、そのたびに多くの人が出遅れる。大勢が、社会から置いてけぼりにされてしまう。テクノロジーの進歩についていけない。これが人々のストレスになる。

社会の動きについていくのに精一杯なのに、追いついたと思った頃にはまた社会の方が新しい変化を見せる。変化についていけないと、自分の存在そのものが時代遅れになってしまい、適応できないと転職するにしても有利な転職ができない。

企業そのものも、テクノロジーの変化に乗り遅れると、あっという間に淘汰されて消えていく。現代社会は、人々に複雑化した社会の対応を迫るのだが、これが人々の心に絶え間ない緊張感を与えることになり、激しいストレスを感じさせるようになる。

コロナもまた社会を複雑化させた。ステイホームが推奨され、リモートワークが急激に進んで行く社会になったが、それは新たなテクノロジーへの対応を人々に強制するものだった。

社会はどんどん複雑化していく。もともと複雑だった社会をコロナはより複雑化させていった。そんな中で、一部の人は「もう変わってしまう時代に自分がうまく適応できるかどうか分からない」と絶望していく。

社会が複雑化すればするほど、脱落者は激増する。

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グローバル化がもたらした激しい競争

「安定なき雇用」も、人々を激しいストレスに追いやる大きな原因となる。

現代社会はグローバル化を加速させ続けており、企業は全世界から激しい競争を強いられるようになる。インターネットでは常に「他よりも安い」企業が出現し、すべての企業がコスト削減を強いられるようになっていく。

そのコスト削減は、非正規雇用をどんどん促進させていくのだが、これは「人間の使い捨て」である。企業は労働者を必要な時に集めて歯車のひとつにして、壊れたら使い捨てにする。

グローバル化がもたらした激しい競争は、「安定なき雇用」を生み出しているのである。これは、働く側から見れば、いつクビを切られるのか分からないということである。今日は働けても、明日にはクビになっているかもしれない。

逆に雇用を死守する企業は、環境が変わったときにクビを切れない社員が重荷になって会社ごと消えてしまう可能性もある。そうなれば、クビではなくても路頭に迷うという点では同じである。

安定なき雇用は、もちろん働く人間に強く深刻なストレスを与えることになる。生活が安定せず、将来に対する不安はずっと消えることがない。生活が安定しないのだから、これほどのストレスはない。

人々は、クビにされないために、他人よりも多くの資格、勉強、仕事をして、何とか生き残ろうとする。賃金をもらえない長時間労働に追い込まれる人も珍しくない。

多くの人がいっせいにそれをするので、結果的に安定なき雇用は人と人の間に「激しい競争」を生み出す。同僚は仲間ではなく、競争相手になる。すなわち、蹴落とす相手になっていくのである。

相手を蹴落とさなければ、自分が蹴落とされるかもしれない。

皮肉なことに、コロナもまた「安定なき雇用」を生み出す元凶となった。ほとんどの企業はコロナによって収益構造が破壊されてしまったので、雇用が維持できなくなって非正規雇用者から切り捨てるしかなくなった。

そして、人を雇うにも正社員では雇えなくなった。コロナによって「安定なき雇用」はどんどん加速している。

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永遠に逃れられない競争

「複雑化する社会」「安定なき雇用」は、激しい競争を生み出す。この「激しい競争」が、人々を強いストレスに追い込む3つめの要因となる。自分の給料やクビがかかっているので、企業に勤める人々は、もう立ち止まることは許されない。

永遠に逃れられない競争の中に放り込まれ、足を引っ張り合い、死ぬまで競争させられる。回し車の中でクルクル回っているネズミと同じで、働いても、働いても、一向に終わりのない競争に駆り立てられる。これは死のラットレースである。

世の中には、このような競争が死ぬほど好きな人もいる。しかし、多くの人はこのラットレースで疲れ果てて心を病む。

そして、時間が経つとポツリポツリと誰かが精神的に壊れて脱落していくのだが、脱落するとどうなるのか。今度は社会のどん底(ボトム)に落とされて、そこから這い上がれなくなる。

「脱落の恐怖」もまた人々に大きなストレスを与える要因となる。競争から脱落したり、蹴落とされたり、病気になったりすると、競争社会から叩き出される。そして、たちまち生活に困窮することになる。

人間にとって、食べて行けないというのは、最大のストレスだが、脱落したら本当に食べていけなくなるので、誰もがそんな状態に恐怖する。

しかし、競争があるということは、脱落してしまう人もいるということである。不運は誰の身にも降りかかる。自分が絶対に脱落しないとは誰にも言えないのである。

複雑化する社会、安定なき雇用、激しい競争が生み出す「脱落の恐怖」は、すべて現代人に密接に関わり合っていて、そのすべてが人々に激しいストレスを与え、じわじわと心を削いでいく。

心が壊れていく人がこれからも増えていったとしても、まったく不思議ではない。そして、誰が追い込まれても不思議ではない。これをコロナ禍が深刻化させている。

勘違いしたらいけないのは、コロナ以前に現代社会は「最初から残酷だった」という事実だ。

複雑化する社会、安定なき雇用、激しい競争、脱落の恐怖……。

コロナが収束してもしなくても、自殺者やうつ病を増やす構造そのものは相変わらずそこにある。永遠に逃れられないストレスを私たちは感じている。とすれば、次に窮地に追いやられるのは私たちかもしれない。

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