
コロナによって財源は極度に悪化し、政府は増税や社会保障費の削減に走る可能性が高い。社会保障費が削減されたら直接的にダメージを受けるのは高齢層だ。高齢層の多くは、社会保障費の削減で経済的危機に落ちる。見捨てられる覚悟すらもしなければならない時代となるのか? (鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
コロナ以後は、経済的に荒涼とした社会が広がる
中国発コロナウイルスによって完全失業者数はじわじわと増え、5月の段階で197万人、休業者(潜在的失業者)は423万人で、非正規雇用者の中には「もう家賃が払えない」「生活ができない」という声が相談所に殺到している。
生活保護受給者は4月の段階で申請件数が2万1486件となり、前年同月に比べ24.8%増えている。
2ヶ月近い緊急事態宣言の中でコロナが収束すれば良かったのだが、現実はそうならなかった。全世界でコロナの新規感染者は激増し、日本でも7月に入ってから「もう第二波が来ているのではないか」と言われるほど感染者が増えてきている。
そうであれば自粛傾向は長引き、体経済はますます萎縮する。このような状態で推移すれば、どん底(ボトム)に落ちてしまう経済的弱者はどんどん膨らんでいくことになる。
コロナ以後は、経済的に荒涼とした社会が広がる。
すでに日本はコロナ以前から非正規雇用が常態化して、学歴や職歴のない若年層が貧困から這い上がれなくなっているのだが、中流(ミドルクラス)も追い詰められるだろうし、年金で暮らしている高齢者も危険な時代になるだろう。
そもそも、高齢者は年金で暮らしている人が多いから安泰だというわけではない。生活保護世帯の半数以上は高齢者であり、彼らは体力的にも能力的にもフルタイムの仕事ができない以上、いつまで経っても生活保護から脱することができない。
高齢者がいったん貧困に落ちると、死ぬまで貧困なのである。生活保護を受けていない高齢層でも、国民生活基礎調査を見ると、高齢者で「生活にゆとりがある」と考えている層は4%しかおらず、50%以上の層は「生活が大変苦しい」「やや苦しい」の中に入っている。
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地方の運営は今のままでは成り立たなくなる
コロナによる自粛・休業・ステイホームが続くと、中小企業・小規模事業者の体力が持たなくなって、次々と倒産し、雇用は極度に消えていく。
そうなると、仕事が見つからない数百万人もの人たち、あるいは短期の仕事で食いつないでいた930万人もの人たちは、なけなしの貯金を取り崩し、年金で細々と食いつなぐしかない。
しかし、社会情勢の悪化が長期化して定着すれば、急激に貯金が乏しくなって困窮の度合いは深まる。
ちなみに、現在の50代では5割近くが国民年金未納である。未納はますます増えていくことになるだろう。それが貧困をより深刻なものにする。
国や地方は、コロナによってますます財源不足に陥る。すでに財源不足で深刻な事態になっている県もある。財源の萎縮はコロナ前から限界スレスレまで来ているので、地方の運営は今のままでは成り立たなくなる。
そうなると高齢者は必然的に見捨てられる。見捨てるというよりも、養いきれなくなると言った方が正解かもしれない。コロナの問題は長引く可能性が高まっている。コロナが終わっても、財源は急に増えるわけではない。
社会保障費はとめどなく増え続け、政府はさらなる消費増税や社会保障費の削減に走る可能性が高い。
税金が上がり、社会保障費が削減されたら直接的にダメージを受けるのは高齢層だ。高齢層の多くは、社会保障費の削減で経済的危機に落ちる。貧困にあえいで見捨てられると覚悟しなければならない。
生活は苦しい。貯金を取り崩していると、そのうちに消えてなくなってしまう。年金は少ない。しかも徐々に徐々に年金の額は減らされていく。そして、税金の引き上げによって、長い目で見ると物価は必ず上昇する。
高齢者は真綿で首を閉められるように経済的に追い詰められていく。
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一部の高齢者は「万引き」に走ることになる
コロナによる経済危機が日本を覆い尽くすと、高齢層の貧困と苦境は地獄のような惨状を呈することになる。高齢者の行動に関して、いくつかの深刻な現象がより顕著になっていくはずだ。
今でもそうだが、こうした社会情勢の中で高齢者の多くが危機感を抱いている。そして、「どうにかしなければ」と思って藁にすがるかのように買っているものがある。それは、宝くじである。
宝くじはなかなか当たらないことは誰もが知っているが、それでも多くの高齢者が今日も、明日も宝くじに群がる。そして、1億円でも3億円でも当たった日を夢想して、それを3000円から買う。
「夢を買う」「買わなければ当たらない」というが、宝くじの勝率は非常に悪くて、当選確率は日本で典型的な年末に行われる宝くじで言うと一等はたった0.0000001%程度しかない。
確率が低いなら、そんなものに賭けないというのが正しい判断だが、高齢者はふらふらと宝くじに引き寄せられる。どのみち外れても3000円程度の損であり、それくらいならば食事を抜くとか他の部分で節約すれば何とでもなると考える。
宝くじくらいしか高齢層にはすがる夢がない。だから、高齢者が列をなして宝くじを買い集める光景はずっと続く。しかし宝くじは当たらず、「何とかしたい」というもがきは、やがて絶望と化す。
社会保障費の削減は続き、宝くじも当たらず、世間から孤立し、絶望的な中で長い余生が続く。そうなると、何が起きるのか。一部の高齢者は「万引き」に走ることになる。万引きは高齢層が手を染めることが多い犯罪である。
そのため、いまや刑務所は万引きで逮捕された高齢者たちの老人ホームと化している。犯罪者と言えば、私たちはヤクザや半グレのような若者を思い浮かべる。しかし、将来の日本の犯罪者は、高齢者が大半を占めるかもしれない。
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高齢層の貧困は死ぬまで終わりがない
実は、高齢者の万引きは一概に「貧しいから」で説明できるものではない。たとえば、地域社会からの孤立や疎外感がそれを引き起こしていると説明されることも多い。
高齢層は大人しくしていると誰からも相手にされない。しかし、問題を起こすと大勢が自分を構ってくれる。自分の話を聞いてくれる。
そのため、高齢者の中には孤独と疎外感から逃れるために、わざと万引きして問題を起こすこともあるのだ。だから一概に「経済的に苦しいから」という理由だけで高齢層が万引きに走るわけではない。
しかし本来であれば、ゆとりがあれば万引きも考えることはないわけで、こうした犯罪は「無意識の経済的な不安」が引き金になっていることも多い。
コロナ以前から、日本では経済的に追い詰められた高齢層がこうした考えに至り、問題行動を起こしていた。高齢者がより追い詰められるのであれば、コロナ以後はより顕著になるだろう。
高齢層の貧困は死ぬまで終わりがない。高齢ともなれば分別もあり人生経験も長いのだから、万引きのような愚かなことをするわけがないというのは間違いだ。的確な判断は逆に喪失していくと考えるべきである。
こうした高齢者の判断能力の低下を見越した詐欺も爆発的に増えていく。すでに日本国内で仕事をなくした中国人留学生が次々と「高齢者を標的とした詐欺」に乗り出して逮捕されたりしているのだが、コロナ以後はもっとひどくなるはずだ。
コロナによる経済的ダメージが長期化すると、ほぼ全世帯が苦境に追いやられて「どん底」に落ちてしまうことになる。中でも高齢者社会の日本では、ことさら高齢者の地獄が目に見えて大きく、悲惨なものになっていくものだと私は見ている。
日本のどん底(ボトム)は壮絶なものになる。