
中国恒大集団(エバーグランデ)が経営危機だが、10月12日には3度目の社債利払い見送りという結果となっている。この企業の債務は約33兆4000億円、凄まじい額である。この企業がどのような末路を辿り、それが中国そのものに何をもたらすのか注視すべき時が来ている。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
知的財産を強奪できなくなる中国
中国恒大集団(エバーグランデ)が経営危機に陥っていて、2021年10月12日には3度目の社債利払い見送りという結果となっている。来週にはデフォルトするかもしれない。この企業の債務は約33兆4000億円、凄まじい額である。
問題は、この企業だけではないことだ。今、中国の不動産業者は多くが莫大な負債を抱えて苦境に落ちているので、これが中国経済を破壊する爆弾となるかもしれない。
いよいよ、中国の時代も中国恒大集団と共に吹き飛ぶのだろうか……。
中国べったりのジャーナリストや評論家は、10年以上も前からアメリカの時代が終わり、これからは中国の時代が来ると言い続けてきた。その声は小さくなったが、今も相変わらず言っている。
欧米の金融システムがリーマン・ショックで大混乱した後、「これからは中国の時代が来る」と高らかに宣言し、返す刀で「アメリカはもう終わりだ」と嘲笑した。ドルの価値も崩壊し、この世からドルが消えるとも言った。
そして、中国が世界に君臨するのだと彼らは言った。
ところが、アメリカが脅威の粘り腰で崩壊から踏みとどまって経済回復していき、やがてアメリカは中国のやっている「不正」を激しく糾弾するようになっていった。
中国は世界中の知的財産を強奪し、その強奪によって自国の経済発展を成し遂げてきた「泥棒国家」である。知的財産を強奪するためにスパイを放ち、重要な技術を持つ企業や大学の情報を根こそぎ盗み、それぞれの国の政治家を買収し、ワイロやハニートラップでワナにかける。
中国は、国家から国策企業までもが、そのような不正手段を常習化させていた。アメリカが中国に対して激しい貿易戦争を仕掛けるようになったのは、中国のこうした不正をもはや許さないことに決めたからだ。
知的財産の強奪が封じられると、中国はもう成長できない。中国は新しいイノベーションを生み出せるような国にはなっていないからである。今後、中国の経済成長の時代は終わり、中国は世界的に国家影響力を失っていく時代に入る。
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徹底的に監視するディストピア社会
「中国の時代が来る」というのは、中国がきちんと民主化し、情報統制を解いてオープンになり、選挙で政治家を決め、イノベーションを促進できるような民主国家になったらの話だ。
中国が経済発展していくと恐らくそうなると世界は思い、欧米の投資家もそこに賭けたのだ。しかし、今の段階ではそのどれも実現していない。実現する気配もない。
中国は民主国家になる気などさらさらなく、中国共産党政権が支配する独裁国家がハイテクを使って国民を徹底的に監視するディストピア社会へと突き進んでいる。
一国二制度であると言われていた香港でさえも強権の対象と化し、今や香港人の全員が監視され、民主派は次々と社会からも抹殺されている。中国に従わない人間は、不可解な死を遂げていくようになっている。
中国共産党は一党独裁で代わりを認めず、激しい情報統制を強いて国民の反論を押しつぶし、他国に侵略して圧政を広げ、イノベーションを起こすことができずに盗むことばかりを考えている。
国内では拝金主義と汚職が蔓延し、自分の金儲けのためには他人を犠牲にすることすらも厭わない。
そして、そんな卑劣な詐欺手法が綿々と書かれた『孫子の兵法』みたいなマニュアルを礼賛して、それを現代版に置き換えた「超限戦」を他国に仕掛ける。
そんな国が次世代の覇権国家になれると考える方がどうかしている。中国人すらも、そんな戯れ言は何一つ信じていないので、富裕層はみんな国家を捨てることを考えて行動している。
国民もいずれ来るはずの中国崩壊を見越して、子供たちには別の国籍を与えようと必死になっており、人民元も信じないで仮想通貨に金を移していた。そのため、中国共産党は2021年9月には仮想通貨を全面禁止にしてしまった。
ところが、部外者の中国大好きジャーナリストや評論家だけが「次の時代は中国」とか言うのだ。もはや本気で話を聞く人もいないし、失笑されるだけとなっている。
欧米の金融機関も失望して中国を見捨てており、逆に「中国はこれから衰退していく」という観測すらも口にしている。時代は、とっくに変わっている。
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GDPの数字ですらも粉飾されている中国
中国の時代は来ない。アメリカが覇権を継続する。アメリカは今でもイノベーションの波が押し寄せている国であり、今後も数十年は間違いなく新たなイノベーションで時代を牽引していく潜在能力を秘めている。
すべての技術革新はアメリカで生まれ育ち、アメリカで巨大ビジネスとなって世界を席巻していく。
コンピュータのOS、スマートフォンのOS、検索エンジン、人工知能、ドローン、3Dプリンター、電気自動車、自動運転……。次世代のイノベーションのどれを見てもアメリカがリードしており、他国の追随を許さない。
また、地球を覆い尽くすほどの巨大な多国籍企業も、ほとんどすべてがアメリカ企業である。客観的に見ると、とても簡単な話だ。アメリカが今も変わらず世界を支配しているのである。
アメリカの政治がどのように混乱しても、アメリカの影響力は依然として強く世界を動かす。貧困や格差は過激なものになっているが、それはグローバル化を取り入れたすべての国が抱えた闇である。アメリカと比較すると中国の方がはるかに深刻だ。
どの観点から見ても、そして誰がどう見ても、中国に賭けるよりもアメリカに賭けた方が勝率が高い。
アメリカが史上最強の金融システムを持ち、史上最強のイノベーションを持ち、これが今後も続くという現実は揺るぎのないものである。中国がアメリカに取って変わるようには見えない。
中国はGDPの数字ですらも粉飾されているような国家運営である。
さらに人口統計もまた嘘である可能性が高く、中国の人口増加は2018年で終わったと見ている研究者もいる。人口の増加が終われば、今後は中国も高齢者が社会を覆い尽くしていくことになり、莫大な人口が逆に中国の重荷になる。
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終わるのは中国の国家体制の方だ
2008年9月15日のリーマン・ショックは、金融システムを破壊する寸前だった。それ以後も不安定な状況が続き、アメリカも莫大な金融緩和が行われてやっとのことで危機を逃れた。
「アメリカの時代は終わった」というのはリーマン・ショックから2013年頃まで真実味を持って話されていた内容である。しかし、2013年に入った頃から、政治的にも経済的にもアメリカがこの危機を乗り切ったことが明らかになった。
そして2014年からは、アメリカに取って代わろうとしていた新興国をアメリカがまとめて追い抜いて、今もアメリカの株式市場は一人勝ちの様相を呈している。
もっとも、アメリカ経済と言えども決して盤石でもない。
民主主義特有の政治的混乱は今も相変わらず続いているし、テーパリングや中国経済の失速や、インフレ懸念などがすべて重なっている。それこそ近いうちに中国恒大集団のデフォルトを契機に、悲観一色となって株が暴落しても不思議ではない状況でもある。
しかし、勘違いしてはいけないのは、金融市場が「次の経済ショック」に見舞われても、金融システムの完全崩壊が起きているわけでもないということだ。
金融市場は生き物であり、暴騰もあれば暴落もあるのは当然のことである。これを「金融市場の破綻だ」とか「終わりだ」とか「アメリカの終わりだ」と解釈するのは間違っている。
金融市場はいつでも好きなときに乱高下するが、市場が乱高下する中で淡々とビジネスに邁進している企業は、いずれ株価を戻して成長した分だけ上昇していく。
終わるのは金融市場ではない。何かが終わるとすれば、それは金融市場ではなく中国の体制の方だ。「アメリカの時代が終わる、アメリカの金融市場が終わる」という中国のプロパガンダには惑わされないように気を付けるべきだ。
金融市場は絶えず揺れ動くが、破綻もシステムの変更もない。終わるのは、中国の方なのだ。ひとまず、中国恒大集団がどのような末路を辿り、それが中国経済に何をもたらすのか注視すべき時が来ている。
来週は要注意だ。
