新型コロナウイルスのグローバル経済に与えるダメージは、2003年のSARSとは比べものにならないほど巨大なものになっている。中国は2003年からずっと成長してグローバル経済に占める割合が大きくなったからでもある。しかし世界は今、中国という国に依存することに対するカントリーリスクを強く意識するようになってきている。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
新型コロナウイルスは中国の国内問題で終わらない
新型コロナウイルスはワクチンが開発されれば劇的に収束していく。しかし、それはいつになるのかは分からない。中国はすでに新型コロナウイルスの封じ込めに失敗しているので、感染の拡大はしばらく続く。
今のまま推移すると2月も拡大の一方で3月になってやっと感染者のピークが来るのではないかという状況である。
しかし、感染者が減り始めたら問題は収束するわけではない。すでに新型コロナウイルスは人から人への感染が確認されているので、感染者が自由になれば再び感染は拡大していくのだ。
そのため、ワクチンが開発されるまで中国経済の底なしの悪化は避けられない。
春節明けの2月3日には、中国の株式市場が8%近い暴落に遭っているのだが、8%ですんだのは中国政府が空売りを規制し、さらに18兆円近い金額を市場に供給したからである。実際には、もっと下落しても不思議ではなかった。
すでに中国経済は新型コロナウイルスが発生する前の米中貿易戦争で大きなダメージを受けていた。もともと弱っていたところに新型コロナウイルスが来ているので、言って見れば弱り目に祟り目の状態である。2020年。中国経済は轟沈する。
問題は、新型コロナウイルスは中国の国内問題で終わらないことである。
中国はグローバル経済の生産拠点であると同時に、消費地点である。その両方が新型コロナウイルスによって停止して甚大なダメージを受けるのだから、グローバル経済も大きなダメージを受ける。
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新型コロナウイルスの悪影響が企業にもダメージを与える
世界の多国籍企業は、その多くが中国に生産拠点を持っている。
日本の自動車メーカーも中国にエンジンや完成車の工場を持っているのだが、新型コロナウイルスの蔓延で春節が明けても稼働できない状況になっている。マツダ、スズキ、トヨタ、ホンダ、三菱自動車のすべては操業再開ができていない。
自動車メーカーだけでない。パナソニックもダイキンもヤマハ発動機も日立製作所もTOTOもアイリスオーヤマも京セラも富士通ゼネラルも、あるいは食品会社のカルビー、江崎グリコ、森永製菓、明治なども操業延期を余儀なくされている。
多くのアパレルメーカーも工場が止まったことによって、納入ができない状況になっている。
アメリカの企業も同様で、アップルやインテルやテスラの納入に影響が出て来ている。供給が減ると当然のことながらこれらの企業の売上と決算に悪影響が及ぶ。
これらは生産拠点の悪影響だが、中国の内需を取り込んでいる企業もまた甚大なダメージを食らうことになる。
中国のユニクロは130店舗が休業を余儀なくされている。アメリカのスターバックスは2000店舗が休業している。グーグルも中国の全オフィスを閉鎖した。アップルも中国のアップルストアを休業している。
当たり前だが、こんな時期に中国に観光するような外国人はいないわけで、中国のツアーはことごとくが中止されており、これによって観光業も大打撃を受けている。航空会社もまた減便している。
1月20日から10日間で、日本航空は予約の25%がキャンセルされたと述べている。インバウンドにも影響が出てきている。中国人旅行者などの宿泊予約のキャンセルが相次いでいるのである。
その結果、中国人に頼っていた観光業は一気に萎縮しているだけでなく、百貨店なども少なくとも30%近い売上減少に見舞われることになる。
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グローバル経済は中国を冷ややかに見るようになった
新型コロナウイルスのグローバル経済に与えるダメージは、2003年のSARSとは比べものにならないほど巨大なものになっている。中国は2003年からずっと成長してグローバル経済に占める割合が大きくなったからでもある。
しかし世界は今、中国という国に依存することに対するカントリーリスクを強く意識するようになってきている。
中国は世界中から非合法な手段で知的財産を強奪し、世界中の要人にワイロをばら撒いて都合の良いように世論操作し、軍事費を拡大して意図的に侵略を工作し、チベットやウイグルの民族浄化を推し進め、一帯一路で途上国を経済的植民地にしようとする悪辣な国である。
この中国を率いているのが中国共産党政権だ。
世界はあまりにも中国共産党政権が強大になり、傲慢になっているのを認識するようになってきている。
だからアメリカは明確に中国と敵対するようになり、中国をグローバル経済から切り離そうとするようになっていったのである。
世界の為政者の少なからずは中国共産党政権にワイロで懐柔されているので、アメリカが「脱中国」を進め、それを世界に提唱しても反応は鈍かった。日本も未だに中国べったりの政治家が野党だけでなく自民党内部にもいる始末だ。
しかし、新型コロナウイルスによって中国が生産拠点としてもカントリーリスクが高いことが発覚し、中国共産党政権そのものも信用できないと思うようになってきている。
明らかにグローバル経済は中国を冷ややかに見るようになった。
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意外に早く中国という国の地盤沈下が鮮明になる
世界はこの新型コロナウイルスをきっかけにして、いよいよ「脱中国」を計るのではないか。新型コロナウイルスの問題が数ヶ月も引きずるのなら、生産拠点としての中国は役に立たない。
グローバル経済は数ヶ月ものんびり休業することはない。中国で生産が止まるのであれば、多国籍企業は一気に工場を他国に移す。
ベトナム・タイ・インドネシア・マレーシア・フィリピンなどの東南アジアに移っていくのは確実な情勢であり、さらに生産拠点の一部はインドやバングラデシュにも向かうだろう。
新型コロナウイルスによって、世界は否応なしに「中国離れ」をせざるを得なくなり、ここ数ヶ月でかなりの規模の移転が起きることになる。新型コロナウイルスの問題が落ち着けば、もちろん一部の工場はまた中国に戻るかもしれない。
しかし、中国のカントリーリスクは常に意識されるようになるので、すべてを中国に戻すのではなく、生産拠点は分散されることになっていくと考える方が自然だ。つまり、脱中国が定着することになる。
ここで「脱中国」の流れが生まれると、意外に早く中国という国の地盤沈下が鮮明になるはずだ。
2010年代は「中国の時代の終わり」を意識できる人はほとんどいなかった。中国べったりのマスコミが「中国はアメリカに取って代わる国になる」みたいな妄言を垂れ流してきたので、人々は無批判にそれを信じていた。
しかし、世界はすでに中国という国の様々なカントリーリスクを認識するようになっており、そろそろ「中国の時代の終わり」を意識するようになってきている。新型コロナウイルスによる大きなダメージは、「中国の時代の終わり」を早めるかもしれない。