GAFAは十分に巨大化した。国家をもしのぐパワーを持つ。だからGAFAの巨大さに懸念を持つ人が増えてきている。このままでは私たち自身にも、世界のイノベーションにも良くないと考える人たちも声を上げるようになってきている。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
GAFAのサービスは素晴らしい。代わりがない。だから厄介
2020年10月、米司法省と11州はGoogleを「インターネット検索市場やオンライン広告を独占し、反トラスト法に違反している」として提訴している。さらに、米国連邦取引委員会もFacebookを「InstagramとWhatsAppの買収は独禁法に違反する」として提訴している。
2020年11月、フランスの広告団体がAppleを独占禁止法違反でAppleを提訴しているし、同じ頃にEU(欧州連合)はAmazonを「オンライン小売りプラットフォームでの支配的な立場を悪用し、小売り市場の公正な競争を阻害している」としてEU競争法で調査に入っている。
いよいよ、これらの巨大メガテック企業は、その巨大さ故に社会から警戒され、恐れられ、敵視されるようになりつつある。
私たちは誰もが、Google・Apple・FaceBook・Amazonという4強の製品やサービスを便利に使っている。全世界の人間が、この4つの企業に生活を委ねていると言っても過言ではない。
この4強のことを、それぞれの頭文字を取って「GAFA」と呼ぶのがならわしになっているのだが、GAFAの強大さは凄まじいものがある。もはやこれらの企業のスケールに太刀打ちできる企業は世界中どこにも存在しない。
もちろん、このGAFAと言えども一企業に過ぎないので、その地位は別に将来永劫に約束されたものではない。場合によっては、たったひとつの経営者の判断ミスで一気に吹き飛んでしまう可能性もゼロではない。
しかし、世界最強の経営者と技術者と開発能力を持つ企業が、そう簡単に吹き飛ぶことはないというのも事実だ。FaceBookは数々のミスやスキャンダルを連発しているのだが、それでも独占的地位はまったく揺らいでいないのを見ても分かる。
GAFAのサービスは素晴らしい。代わりがない。だから厄介なのだ。これらの企業はいくらでも巨大な資金力と影響力で競合を叩きつぶし、利益を生み出すことができるのである。
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今ではGAFAを「神」と呼ぶ人すらも出てきている
GAFA(Google・Apple・FaceBook・Amazon)はどこまでも巨大化していく。そして、あまりにも私たちの生活に浸透しすぎ、私たちはドラッグ依存者のようにこれらの企業に依存する。
最初は良かった。しかし、ここ数年の間に少しずつユーザー側の意識が変容しつつある。人々はこのように思うようになっているのだ。
「しまった。知らないうちに囲いこまれてしまった……」
今や誰もがAppleのスマートフォンで、Googleのメールサービスや検索エンジンや地図を使い、FaceBookで友人たちと連絡を取り合い、Amazonで買い物をしている。
そして、もうそこから離れようと思っても離れられなくなってしまっていることに気づく。Appleのスマートフォンが嫌だからと、アンドロイドのスマートフォンにしたとしても、アンドロイドの開発元はGoogleである。
Googleの検索エンジンが嫌だからと他を探しても、Googleに匹敵するほどの驚異的な検索エンジンは存在しない。FaceBookが嫌だからと他の会社のSNSにしても、人が少なければ結局はFaceBookに引き戻される。
Amazonが嫌だから他のショッピングモールにしたとしても、品揃えの豊富さや付随するサービスの広さで見るとAmazonに敵うものはないので、再びAmazonに戻ってしまう。
実質的にGAFAの代替は存在しないところにまで到達している。ハイテク産業はもうGAFAを無視することなどできない。
今ではGAFAを「神」と呼ぶ人すらも出てきているほどだ。
ふと気付いたらGAFAに深く関わりすぎたことを知って、私たちは少しずつ彼らのビジネスに囲まれてしまったことを認識するようになった。GAFAがまるで私たちから税金を取り上げているように思うようになりつつある。
それぞれの企業は当たり前のようにサブスクリプションという定額サービスを行っているが、こういうのは税金と同じである。一度、囲い込まれたら逃げられない。
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ティム・クックがいつまでもCEOでいられるわけではない
GAFA(Google・Apple・FaceBook・Amazon)が「現代の神」だというのは、あながち嘘でも比喩でもない。
「神は私たちのすべてをお見通しの存在」というのであれば、確かにGAFAは私たちのすべてを知っているではないか。
彼らは今でこそ「善意」の存在であったとしても、もし邪悪(Evil)な精神を持ったCEO(最高経営責任者)がここから登場したら、このCEOは全世界を征服するほどの権力を行使して自ら世界の支配者になろうとするかもしれない。
Appleのティム・クックCEOは、現在は世界で最も傑出したCEOであり、その道徳性はまさに人格者と言っても過言ではないほど立派な人間である。
しかし、ティム・クックがいつまでもCEOでいられるわけではなく、Appleも変わっていくだろう。そうならないとは誰も言えない。そうなったらどうするのか。「現代の神」は「現代の悪魔」になってしまうということだ。
悪魔が私たちのすべての個人情報を掌握することになる。
そうした危険は、今はまだ小さな不安の段階なのだが、人々は確実にそれを意識するようになってきている。
そうであれば、傑出した起業家が傑出した製品やサービスで台頭して新たなイノベーションを起こせばいいのではないか、という話になっていくのだが、実はその芽を摘むのがGAFAであったりする。
GAFAは圧倒的な資金を保有している。そのため、傑出した製品やサービスを生み出す小さな企業や経営者があったら、それを莫大な資金で一気に吸収して自分たちのものにしてしまうのである。
FaceBookによるInstagramやWhatsAppの買収はまさに、そうした危惧を示した一例に過ぎない。YouTubeも元はと言えばGoogleとは別の会社だったのだが、Googleが買収して手に入れた。
GAFAは素晴らしいイノベーションは吸い上げ、そうでないイノベーションは掃き捨て、自分たちの都合の良い世界を維持し続けている。
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GAFAが国家・社会・人々と激突していく
GAFAは十分に巨大化した。国家をもしのぐパワーを持つ。だからGAFAの巨大さに懸念を持つ人が増えてきている。このままでは私たち自身にも、世界のイノベーションにも良くないと考える人たちも声を上げるようになってきている。
独占禁止法とは別に、民間からも「GAFAの支配は技術革新を停滞させる」と述べる人も増えてきたし、ハイテク企業の起業家からも「GAFAの支配を何とかすべき」という声が上がるようになった。
こうした懸念を受けて、アメリカの政治家も臆せずにGAFAの解体を公然と話すようになってきている。
「次世代のテクノロジーイノベーションを生み出すためには、現世代の巨大テック企業を解体する必要がある」
GAFAはすでに単独の製品やサービスだけを提供しているのではなく、あらゆる方面でその絶大な影響力を行使しており、もはや他の企業が太刀打ちできずに潰されてしまうのが問題なのだ。
Appleも「スマートフォンだけの企業」ではなく、音楽・雑誌・テレビ・映画の提供から金融の分野までを網羅して触手を広げ、さらには自動車業界にも進出しようとしている。まるですべての産業を飲み込もうとしているかのようだ。
GoogleもAmazonもそれぞれ広範囲に事業を拡大して、世界を飲み込む。
だから、それぞれを分割して再び世界にイノベーションを生み出して、次の世代をより多彩なものにしようと言う動きが広がりつつあるのである。
この主張が世界に広がって大きなものになっていくか、それとも人々は相変わらずGAFAの巨大さに不安を抱きつつ「特に変える必要はない」と思うかは分からない。
しかし、そのような声が出始めているということは、GAFAもひとつの転機に立っていると考える必要がある。今すぐどうなるというわけではないのだが、10年後はGAFAの時代ではなくなっていたとしても不思議ではない。
2020年代は、GAFAが国家・社会・人々と激突する機会がどんどん増えていく。GAFAの転機はこれから訪れる。