
コロナ禍で多くの低所得者が危機に落ちて借金に頼った。借金があるというのは、期日に追われているということであり、その期日は自分の都合で待ってくれないものである。とにかく、自分を犠牲にしても、とにかく返済する金を集めなければならない。それが借金の正体だ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
コロナ禍はまだ収束しないが借金の返済だけは確実にやってくる
2020年4月。緊急事態宣言によって国民の多くが仕事を失って困窮して社会のどん底《ボトム》に転がり堕ちていった。
日本はコロナ以前から貧困が拡大している社会であったが、これがコロナで加速したとも言える。こうした状況については、拙著『ボトム・オブ・ジャパン』にも記した通りだ。(Amazon:ボトム・オブ・ジャパン 日本のどん底)
緊急事態宣言という異常事態で非正規雇用者の多くが失職や収入源に追いやられたこともあって、政府は「緊急小口資金」と「総合支援資金」で無利子の貸付を行って、この貸付は210万件超の人が利用することになった。
無利子とは言え、これもれっきとした借金である。今後、この「緊急小口資金」「総合支援資金」を借りた人は、粛々と返済しなければならない。これを借りたのは2020年の6月や7月の人が多いので、いよいよ今月あたりから返済生活に入るということだ。
緊急小口資金を20万円借りた人は返済額が8330円、総合支援資金15万円を半年借りた人は月々7500円の返済となる。緊急小口資金や総合支援資金を借りる人というのは、低収入の不安定な職の中で、他の借金も積み上がっていることも多い。
コロナ禍はまだ収束せず、仕事が不安定な中、借金の返済だけは確実にやってくるわけで生活の困窮度はさらに増す。多くを借りた人、最も困窮していた人が、借金によって最もキツい生活環境にこれから追いやられる。
緊急小口資金や総合支援資金は地獄の先延ばしだった。借りた人の地獄はこれからが本番になっていくのである。
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生活苦に追い込まれて自殺まで考えなければならなくなる人
生活苦に追い込まれて自殺まで考えなければならなくなる人の多くは、「金がない人」というよりも「借金がある人」である。どちらも「金がない」という点では同じだ。しかし、この2つは似ているようで違う。
借金があるというのは、期日に追われているということであり、その期日は自分の都合で待ってくれないものである。
とにかく、自分を犠牲にしても、とにかく返済する金を集めなければならない。それが借金の正体だ。
どうしても何とかしなければ、自分の生活そのものが崩壊してしまう。今の生活がすべて吹き飛んだ挙げ句、さらに社会的な制裁も受けなければならない。
緊急小口資金や総合支援資金も借金であるからには返さなくてもいいというわけではない。民間の企業から借りた金であれば、なおさら逃げ回るのは難しい。
最近は簡単に「自己破産すればいい」「返せない借金は返さなくてもいい」と言われるのだが、金が絡むと貸した方もまた必死になって取り立てるので、そう簡単にはいかない。
踏み倒しも不可能ではないが相当な覚悟がいる。
借金と言っても、その内容は様々だ。住宅ローンや事業への投資など、将来に見返りがある計画的な借金は「良い借金」である。それは、借金というよりも、むしろ「投資」という言い方もできる。
しかし将来の見返りがなく、「生活を成り立たせるため」の切羽詰まった借金は返せなくなる可能性の高い借金である。それは誰が見ても悪い借金だ。
日本人は堅実だと言われている。それでも貸金《かしきん》業が成り立っているのを見ても分かる通り、借金を抱えている人はどこにでもいる。
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借金をしたら将来もっと苦しむことになるのは分かっている
借金をするというのは、「それを支払う金がない」ということなのだが、金のない人が金を借りると、ただでさえ苦しい生活がより苦しくなっていく。
これを打開するには「収入を増やして支出を減らす」という2点を実現しなければならない。収入を増やすというのがなかなか難しいことであるとするならば、かなりの気合いを入れて支出を減らす必要がある。
しかし、「支出を減らす」と言っても、収入が少ない場合は無駄な支出など最初からほとんどないわけで、それこそ100円だとか10円だとか、乾いた雑巾をさらに絞るような節約に追いやられていく。
私が埼玉で話を聞いたあるシングルマザーは、甘い物を食べたいと泣く子供に困り果てて、公園で花の蜜を吸って花を食べるほど苦境に追いやられていた。「支出を減らす」というのは、低所得者になればなるほど無理難題だったのである。
借金地獄に陥る人は、その日その日を生き抜かなければならない。借金をしたら将来もっと苦しむことになるというのはよく分かっている。しかし、それでも今を生きぬくために借りるしか選択肢がない。
「支払いが少額だからギリギリ返せるかも」と自分に言い聞かせ、リスクを負うしかない。たとえば、「10万円借りた。月々の返済は1万円程度」という条件を見ると、月1万円なら苦しいながらも何とかなるかもしれない、と自分に言い聞かせる。
もしかしたら問題が出るかもしれない。しかし、「もう借りるしかないのだ」と目を閉じて飛び込んでいくことになる。金のある人から見ると10万円の借金など端した金額かもしれない。しかし、低所得層はその10万円の借金が致命傷になる。
借金を抱えた低所得者の場合、何らかの問題が起きたときには経済的なクッションがないので、一気に生きるか死ぬかの瀬戸際にまで追い込まれる。たとえば、「風邪で一日病欠になった」「連休で働く日数が減った」という些細なことですらも致命傷になるのが低所得者なのである。
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借金は「少額だから大丈夫」どころか、その少額が致命傷に
人生は常に順調とは限らない。逆風はいつでも吹くし、唐突にトラブルが湧き上がる。そのため、返せると思った借金が返せなくなることも起きる。2020年からのコロナ禍では、非正規雇用やシングルマザーに、まさにそれが起きた。
そうすると、どうするのか。どん底《ボトム》に生きている人は、借金を返し終わる前にまた新しい借金をする。まだ返している途中なのに、もう次の借金をしてしまう。借金のための借金をするようになる。
抱えている借金が少額であっても多重債務になると、年中、借金に追い込まれるような状況になる。低所得層にとっては、借金は「少額だから大丈夫」どころか、その少額が積もり積もって致命傷になっていくのだ。
本来であれば、そのために生活保護がある。
しかし、この弱者を救うはずの生活保護も「あなたの年齢であれば働けるはずでしょう」と排除されたり、疎遠の親兄弟や親戚に電話すると言われたり、シングルマザーであれば大切な子供を児童保護施設に収容するとか言われて、簡単に受けられるものでもない。
だから、借金に頼るのだが、低所得層にとって借金というのは、苦境を脱するツールとして機能していない。今の苦境を先延ばしにして、より大きな苦境を作り出す危険な時限爆弾として機能している。
最初は一時的であったはずの借金も、やがて食費、家賃、衣料費、光熱費の支払いにまでそれで賄うようになると、もう抜けられなくなってしまう。借金があれば、まずはそれを返さないといけないので生活を立て直すという大事な作業が二の次になる。
いよいよ今月あたりから緊急小口資金や総合支援資金の返済が始まる。小さな借金も低所得者にとっては致命傷になりかねない。ここで金を借りたどん底《ボトム》の人々は、綱渡りの生活がこれから始まるということでもある。
