ワクチン予約ができない高齢者の姿は、デジタルに適応できない人が見捨てられる予兆か?

ワクチン予約ができない高齢者の姿は、デジタルに適応できない人が見捨てられる予兆か?

ワクチン接種ではインターネットでの予約が中心になったのだが、高齢者の多くはインターネットで予約ができなくて立ち往生した。私には、これはデジタルに適応できない人がいよいよ社会に切り捨てられていく予兆のように見えた。こういう光景が今後は増えるのではないか?(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

会社を辞められずに追い込まれる理由は複合的

コロナ禍によって社会は期せずしてリモートワークが爆発的に普及することになったのだが、別の言い方をすれば社会全体がDX(デジタル・トランスフォーメーション)に向かったということである。

ハイテクが浸透し、ハイテクによって社会が再構築されていったということである。この流れはコロナ以後も続くのは、もはや確定された未来でもある。超高度情報化社会がもっと進んでいく。

そうであれば、誰もが「超高度情報化社会」に適応するためにITリテラシーを身に付けていけばいいのだが、誰もが揃って新しい時代に適応できるわけではない。何の問題もなくそこに飛び込める人もいる一方で、取り残される人も当然出てくる。

スマートフォンの時代になっても、相変わらず3G時代の遺物である折り畳み式のケータイ(フィーチャーフォン)を使い続けている中高年や高齢者の姿を見ても分かるはずだ。

今やインターネットがなくては生きていけない時代なのだが、この時代になっても「別にインターネットは必要ない」と言って絶対にインターネットに近づかない高齢者もいる。

ワクチン接種ではインターネットでの予約が中心になったのだが、高齢者の多くはインターネットで予約ができなくて立ち往生した。

私には、これはデジタルに適応できない人がいよいよ社会に切り捨てられていく予兆のように見えた。こういう光景が今後は増えるのではないか?

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職種を代えてうまくやっていけるほど器用ではない

今どきスマートフォンもインターネットもできない人は絶望的なまでに「取り残されている人」であるというのは言うまでもない。高齢層なら仕方がないとしても、中高年も取り残されてしまった人がいくらでもいる。

これは仕方がないことでもある。世の中が変わったからと言って、誰もが変化に適応できるわけではないからだ。必ず、取り残される人が出てくる。そして、彼らが追い詰められて「社会問題化」していくことになる。

今、生き残って成長している企業はすべてITを取り込んでいる。ITはもはや必須なのである。企業が様々な情報をコンピュータ上で行うようになり、社内ネットワーク(イントラネット)によって意思決定・周知・分析までを行う時代になった。

インターネットがビジネスで最も重要な要素となり、インターネットを取り巻くイノベーションが会社を変えるようになった。これは、コロナ禍による「DX」の加速で、ますます顕著な現象となっていく。

ここ10年でスマートフォンが爆発的流行して時代を変えたように、「DX」の時代にも新たなイノベーションが生まれてくるのだ。

今は何かの仕事をしようにも、ITの高度なリテラシーがないと、まったく仕事にならない。当たり前だが、今はもう「パソコンが操作できる」くらいでは何の意味もない。それは「文字が書ける」と言っているのに等しい。

高度なITリテラシーを元に、ビジネスを構築・展開できる人でないと最先端で生き残れないのである。

しかし問題は、誰もが加速していく「DX」に対して適応性があるわけではないということだ。人には多種多様な個性がある。「コンピュータがどうしても合わない」「デジタルが合わない」という人もいる。

彼らは「DX」という時代の流れが自分の適性が合わないのだから、時代についていくために何とかしろと言われても何ともできないのである。

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自分はできないことを強要している社会学者や大学教授

経済産業省は2020年12月28日に『DXレポート2(中間取りまとめ)』という報告書を出しているのだが、その中で以下のように記している。

『デジタル変革に対する現状への危機感を持つ国内企業は増加しているものの、「DXの取組を始めている企業」と「まだ何も取り組めていない企業」に二極化しつつある状況です』

突き進んでいくデジタル化の社会は、今ある企業も変化を強制している。「DX」についていけない企業は細々と生き残るのかもしれないが、そこにいると企業も従業員もどんどん首が絞まっていく。真綿で首を絞められるように追い詰められていく。

そうすると、どこかの社会学者だか大学教授だかがメディアに出てきて、したり顔で「時代遅れの場所にしがみつくな」「DXを取り入れた成長企業に就職しろ」「新しい技術を覚えろ」と簡単に言う。

しかし、人間はそれほど器用にできているとは限らない。人にはできることと、できないことがある。

それこそ社会学者は「お前がやっていることは役に立たないから、明日からネットワークエンジニアになれ」と言われたとき、明日からネットワークエンジニアになれるのだろうか。

いや、「職種が違う」とか「他の職業は考えていない」とか言い出してネットワークエンジニアにはならないだろう。

テレビに出て偉そうに適当なことを言っている大学教授もそうだ。「お前は下らないことしか言っていないから、もう明日からプログラマーになってPythonでプログラミングしろ」と言われて、プログラマーに転身できるだろうか。

「大学教授の俺様は、今さらそんなことをする理由がない。新しい技術は助手がやる」とか言って激怒するだろう。要するに、自分たちは「成長産業に就職しろ」「新しい技術を覚えろ」と簡単に言うのだが、自分はできないことを強要しているのだ。

「今の業界を辞めて成長している業界に移れ」と言われても、そんなに器用なことができる人間ばかりではないということだ。

プログラマーが求められていると言われても、誰もがプログラマーになれるわけではない。そんな難しそうな仕事は死ぬほど嫌だという人は大勢いる。

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社会は光に焦点を当てるが、影は見向きもしない

若年層なら職種を代えて転職するのは何とかなるかもしれない。しかし中高年にもなると、理屈で考えても現実には自分を自分で配置転換させることはうまくできない。

世の中には稀に「新しい自分になる」ことが楽にできる人も存在するのは間違いない。しかし、ほとんどの人間は自分が今まで生きてきた職業やスキルを捨てられない。

そのため、どれだけDX(デジタル・トランスフォーメーション)の重要性が増しているからと言って、誰にが明日からプログラマーやシステム・エンジニアに転身できるわけではないし、技術が理解できるわけでもない。

仮に職業訓練を受けても、適性があるかどうか分からない上に、転身できる保障があるわけでもなく、才能が開花するわけでもない。むしろ、慣れた仕事で何とかならないのかと考えるのが人間だ。

いくら社会の中心に「DX」が据えられたとしても、誰もがそこに飛び込めるわけではないのだ。たまたま、時流に合った職業や職能《スキル》のある人はいいが、そうでない人も山ほどいる。

そして仕事ができなくなり、それでも新しい時代に適応するようにと無理難題を言われ、ついていけず、やがて身体を壊して経済問題を抱えて追い込まれていく人がでてくる。

社会が変わると、新しい社会に適応して水を得た魚のように活き活きと活躍する人もいる一方で、取り残されてどうにもならなくなってしまう人もいる。

今もすでに超高度情報化社会だが、「DX」によって加速される社会変革によって取り残される人も多くなっていくはずだ。

社会は光に焦点を当てるが、影は見向きもしない。デジタルを中心とした社会の進化についていけなくなった人たちは必ず生まれるが、このような人たちの存在は意図的に忘れ去られる。

ついていけなくなった人は放置される。そして、社会のどん底《ボトム》に捨てられる。そして、それがまた新たな時代が新たな社会問題となっていくのだ。

『ボトム・オブ・ジャパン 日本のどん底(鈴木 傾城)』

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