脱中国で、インドやベトナムやインドネシアのような国々が目立って台頭しつつある。そして、それこそが次の時代の大きな潮流でもある。日本は30年も馬鹿な政治で停滞したままだが、そうやっている間に他の国がどんどん成長して日本を追い抜いていくのだろう。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
中国は異様な発展をしつつ最後に自壊する?
中国が非常に危険な国であることを欧米はやっと認識し、「もう中国に投資できない」が世界中の企業のコンセンサスになろうとしている。中国は共産党政権の独裁国家であり、民主化しそうにないことを欧米は認識した。
さらに中国はアンフェアな国であり、他国の知的財産権を容赦なく踏みにじって自国の成長としてきた。アメリカはこれに業を煮やして、最先端技術はもはや中国に輸出もさせず、使わせることも禁じるようになった。
そして、中国は膨張主義を取っており、台湾・フィリピン・日本・インドをはじめとしてほぼすべての周辺国と領土問題を引き起こす。マイク・ペンス前副大統領も中国が「悪の帝国化しつつある」と発言している。
こうした中国の傍若無人な態度によって米中関係もグローバル環境も悪化する一方であり、欧米の企業もここにきて強いカントリーリスクを感じざるを得なくなった。中国に投資しても、いつムダになるのかわからないのだ。
そういうわけで世界は中国に見切りをつけ始めている段階であり、中国から資金流出も起きている。上海株式市場も最安値をつけるような状態になっているのだが、他にも人民元が浮かれて中国政府はその防衛に躍起になっている。
もちろん、これまで世界は中国をグローバル経済に組み入れようとしてきたので、すでに中国とは深い関係ができている。そのため、中国からの脱却は一気呵成とはいかない。
しかし、中国の政治が変わらない限り、中国は欧米のグローバル経済とは切り離されていく流れは止まらない。中国はそれでも巨大な影響力を持つ国であり続けるのだろうが、その姿は、かつてのソ連とよく似たようなポジションとなりそうだ。
資本主義の向こう側で異様な発展をしつつ、最後に自壊してしまう運命にあるのではないか。中国はそのような道を歩んでいる。まだ引き返すこともできなくはないが、習近平はそういう気はまったくなさそうだ。
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次の成長国として突出して注目されている国は?
そういうこともあって、世界はいよいよ「次の成長国」を探すようになってきている。その最有力候補が言うまでもなく「インド」である。(人口ボーナス「インド」への投資はこれから最盛期。あと数年で日本のGDPを追い抜く国を見逃すな=鈴木傾城 )
日本人はインドに関しては「よくわからない国」「まだ貧困層が多い発展途上国」「まとまりがない猥雑な国」というイメージしかなく、ここに投資するというのは二の足を踏む。インドの成長がイメージできない。
しかし、インドはすでに中国を抜いて世界最多の人口を持つ国であり、しかも若者人口が多くてダイナミックでイノベーティブで消費意欲も旺盛だ。単純に「生産年齢人口が増加することで経済が伸びる」状態に入っていく。成長のポテンシャルは非常に大きい。
事実、インドは非上場ながらも規模の大きいユニコーン企業が71社もある。ユニコーン企業とは、『評価額が10億ドル以上、設立10年以内の非上場のベンチャー企業』を指す。
ユニコーン企業が多い国というのは、事業が非常に活性化されているイノベーションがあふれた社会であると見て取れる。日本は7社しかないが、インドは71社もあるのは注目に値する。
合わせて、インドは政治的にも民主主義がしっかり定着した国でもある。民主主義という根底の価値観は世界と共有している。だから、インドの経済発展はほぼ約束されたものであると多くの投資家は見ている。
そうであるならば、ソ連化する凋落する中国より成長していくインドに資金を移し替えたいと思う投資家が増えても不思議ではない。グローバル経済の面で見ると、今後の10年で世界の姿はがらりと変わっているはずだ。
私自身もインドに注目している。ほんの少しであるが、今年からサテライト的にインドにも投資資金を少し入れた。
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ベトナムは間違いなく中国の代替地として成長する
ただ、インドも欧米の言いなりにならない部分もあり、中国とは別に厄介な性格を持つ国ではある。そこで、世界はインド以外にも目を向けているのだが、それがベトナムであったり、インドネシアであったり、東欧の国々であったりする。
インドと同じように注目されているのがベトナムだ。ベトナムは2023年8月15日にビンファストというEV(電気自動車)メーカーがNASDAQに上場したことで一躍注目を浴びる国となっている。(アメリカ株式市場に現れたベトナム企業。新たな時代がはじまろうとしている?)
中国のカントリーリスクが深刻化したことによって、中国に工場を持つ多くの欧米ハイテク企業が中国に代わる代替地として選んだのはベトナムだった。今後もベトナムは間違いなく中国の代替地として成長を続けることになるだろう。
実際に中国からベトナムにシフトしているのは韓国・シンガポール・日本がダントツに大きいのだが、これらの3ヵ国は中国の横暴や知的財産の侵害に非常に苦慮している国であり、政府はともかく企業はいち早く中国にカントリーリスクを感じて動いているというのが見て取れる。
ベトナムは2010年頃までは「繊維」や「衣類」などが輸出全体に占める割合が大きかったのだが、2010年から突如として電話機・電話部品、あるいは電子製品・電子部品の割合が増え出している。
2010年から10年かけて、中国からベトナムへのシフトは準備されていたという言い方もできる。パソコン部品の輸出額から見ると、実は2019年が基点となって6倍以上も増えている。
まさに、米中対立がベトナム経済を支えているということになる。ベトナム一国を見ても、グローバル経済が中国から足抜けしている姿が浮かび上がってきている。インド・ベトナムの動きにはこれからも注目だ。
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インドネシアもまた台頭しつつある隠れた新興国
脱中国で注目される国はもう一ヵ国ある。インドネシアだ。インドネシアの強みはなんと言っても資源国であることなのだが、資源が高騰していく最近の情勢では資源を持った国としてのインドネシアは非常に恵まれたポテンシャルがある。
石油・石炭・天然ガス・錫《すず》・ゴールド・ボーキサイト・ニッケルなど、さまざまな資源がインドネシアから産出される。実際、インドネシアは資源輸出国家であり、2022年には石油・天然ガスの輸出で過去最高の貿易黒字となっている。
今後、世界はガソリン車からEV(電気自動車)に変わっていく可能性が非常に高いが、その中でバッテリーの原料となるニッケルは戦略的物資となるのだが、このニッケルの生産で世界第一がインドネシアなのである。
ボーキサイトはアルミニウムの原料だが、アルミニウムもまたグローバル市場で需要が高い。
さらにインドネシアは人口2.7億人を抱える世界第4位の巨大国家でもあり、すでに大きな内需を持っている。インドネシアはGDPの6割が民間消費である。
かつて農林水産業の割合が大きかったが、最近は製造業・サービス業の比率が増えてきて所得水準も上がってきている。貧困層が減り、それに合わせて民間消費が増えて、ますますGDPのかさ上げが起こる好循環に入っている。
政治的にもジョコ・ウィドド大統領が現実的な政策で圧倒的な支持を得て安定を手に入れている。大国中国とも関係強化を強めながらも、一方で違法操業を行う中国漁船があったら、容赦なく中国漁船を爆破するような強硬派の姿勢も見せる。
脱中国で、インドやベトナムやインドネシアのような国々が目立って台頭しつつある。そして、それこそが次の時代の大きな潮流でもある。
日本はいつまで馬鹿な政治で停滞するつもりなのかしらないが、そうやって取り残されている間に台頭する国々によって追いつかれ、追い抜かれてアジアの衰退国として同情されるような国になってしまうだろう。
そうなれば、間違いなく日本を見捨てて逃げていく若者たちが大勢出てくる。実際そうした流れが社会の見えないところで広がっている。円の価値も落ちたので、海外で稼いだほうがいい時代にも入った。それくらい日本は駄目になりつつある。