働かない富裕層がもっと豊かになる仕組みと、格差が想像を絶するほど広がる理由

働かない富裕層がもっと豊かになる仕組みと、格差が想像を絶するほど広がる理由

2021年の日本の相対的貧困率は15.4%である。これは日本人口の6人に1人が相対的貧困であることを意味する。高齢者の貧困も深刻だが、非正規雇用で使い捨てにされている若者たちの貧困もまた目を覆いたくなるものがある。ところが、この日本でも富裕層が増えている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

1兆ドルの資産を持つ金持ちが10年以内に誕生する

2024年1月、国際NGOであるOxfamは「世界でもっとも裕福な5人の総資産が2020年比で2倍超の8690億ドルに増えた一方、全世界で50億人が以前より貧しくなったと」と報告している。

この資産の伸びは「株価が上昇した」の一点に尽きる。そして、この状況が続くのであれば「貧困層がさらに増える一方で、資産が1兆ドルを超える〝兆億万長者〟が10年以内に誕生する」とも述べた。

格差が極度に広がっているというのは今に始まったことではない。ちょうど今から10年前の2014年9月4日、FRB(連邦準備銀行)が3年ごとに行っている所得・財産についての調査でも、ほぼ同じ傾向が指摘されていた。

「豊かな上位3%の金持ち世帯に富の半分が集中している」
「低所得層の平均所得は減少している」
「富裕層10%の所得はここ3年で10%増えた」
「下位20%の所得は8%減った」

これが、FRBの調査結果であった。この調査に驚く人は誰もいなかった。金融資産、もっとはっきりいうと株式資産を莫大に保有している金持ちが株価が上昇するにつれて途轍もない勢いで金持ちになり、何も持たない貧困層は最低賃金さえも守られずに蹴落とされていく。

「富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる」が、確実に、そして急激に進んでおり、今もその途上にある。

貧困層が経済的に追いつめられているというのは、他にもさまざまな統計や調査から浮かび上がっている。

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いまや肥満さえカネで解決できるようになった

アメリカの医学専門誌では、富裕層と貧困層の食事の質まで格差が生まれており、貧困層の栄養状態が危機的なものになってしまっていると報告されている。低所得層は果物や野菜や全粒穀物が高くてなかなか買えない。

安物のジャンクフードばかりを取って、低所得層になればなるほど肥満の確率が高まっている。ジャンクフードはカロリーだけは猛烈に高いので、貧困層は痩せるのではなく太っていくのだ。

その一方で、裕福な層は栄養価の高いものや、オーガニックなものを食べることができて、心身共に健康になれる。時間的な余裕もあるので、運動する時間もあれば、余暇で身体を動かすこともできる。

万一、太ってしまったらどうするのか。そんなときはイーライリリーの肥満症薬(GLP-1受容体作動薬)である「マンジャロ」や「ゼップバウンド」がある。この薬は1カ月あたり約1000ドル(16万円)で高価だが、これを使えば短期間に体重を10%から20%減らすことができる。

いまや肥満さえカネで解決できるようになったのだ。

肥満が減ると、糖尿病も、肝臓病も、心臓病も、睡眠時無呼吸症候群などの命を削る病気になる確率も減る。その結果、寿命も富裕層と貧困層では変わってくる。

そして、今後はアンチエイジング薬も出てくる。AIの活用によってバイオ企業の創薬がこれまで以上に加速して、人を健康かつ長寿命にする薬が私たちの想像以上に早いペースで出てくるはずだ。

しかし、こうした劇的に効く薬はだいたいが高価なので、ライセンスが切れるまでは富裕層が独占する。HIVにかからなくする薬、性病にかからなくなる薬も登場しているのだが、そういうのもやはり高価な薬である。

その結果、ますます寿命格差が鮮明になっていくだろう。

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政府が無能すぎて貧困層は困窮していくばかり

これはもちろん、日本人も他人事でも何でもない。経済格差は根本的にはグローバル経済の仕組みが加速させているものだから、グローバル経済に飲み込まれている日本も後を追っている。

日本では少子高齢化が進んでおり、これによって社会保障費が逼迫して、政府は何が何でも税金や社会保険料を絞りとろうと躍起になっている。すでに実質的な国民負担率は5割を超えている。

おりしも2020年にパンデミックが起きて、それが終わったと思ったら今度は物価高が襲いかかってきて、貧困層は困窮していくばかりである。それなのに、政府は無能すぎて何ひとつ経済問題を解決できないので、政治不信も極まっている。

すべての世帯人員を、等価可処分所得の少ない順番に並べたときに、ちょうど中央に位置する者の金額のことを「等価可処分所得の中央値」と呼ぶ。2021年のデータでは、その金額は約254万円だった。

この254万円の半分の値である127万円以下を、日本では「相対的貧困」と呼ぶ。

2021年の日本の相対的貧困率は15.4%である。これは日本人口の6人に1人が相対的貧困であることを意味する。高齢者の貧困も深刻だが、非正規雇用で使い捨てにされている若者たちの貧困もまた目を覆いたくなるものがある。

貧困層の中でも極貧の中の極貧の若者たちは、もうアパートやマンションに住むこともできなくなってしまって、シェアハウスやネットカフェに寝泊まりするのも「見慣れた光景」になってしまった。

「働けど働けどなお我が暮らし楽にならざり。じっと手を見る」という、かつての石川啄木のような人が出てきて、日々の生活に苦しんでいる。

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働かない富裕層がもっと豊かになる仕組み

ところが、この日本でも富裕層は増えている。さらに富裕層の保有する資産額も上昇している。彼らは労せずして資産を増やした。昼間はヨット遊び、夜はパーティー遊びに明け暮れて、必死で働いているように見えない富裕層もいるが、こういう富裕層も資産が桁違いに増えていく。

なぜ、そんなことになるのか。

それは、労働で得るリターンよりも、金融資産という「カネでカネを生む」リターンのほうが大きいからだ。

貧困層の所得が減っていくのは貧困層が怠けたからではない。働く場が減り、企業が賃金を減らし続けているからだ。では、なぜブラブラ遊んでいる富裕層の資産が増えるのか。

別に富裕層は貧困層のまったく知らない極秘のトリックを使っているわけではない。ただ単に、金融資産(主に株式や不動産)を買って、それを保有しているだけである。わかりやすくいえば、労働でカネを増やしているのではなく、資産でカネを増やしているのだ。

たとえば、年収300万円の層が無遅刻無欠席で必死で働いても一年間で300万円を貯めるのは数字的に不可能だろう。生活もあるのだから、300万円もらって300万円を全部貯めることなどできるわけがない。

しかし、富裕層は別に300万円くらいはたいしたことがない。1億円の資産があるのであれば、それを年3%以上の配当をくれる株式やETFや債券を買っておけばいい。米国株式市場では年配当3%の株式なんかごろごろある。日本株でも探せばある。

他に何もしなくてもいい。そこに投資して、ただ何もしないで保有しておく。たった、それだけのことで年間300万円が手に入る。

政府は「年金で暮らせるはずがないので2000万円を貯めろ」と国民にいっているのだが、年収300万円の人が貯金や節約で2000万円を貯めるのは血を吐くような継続心と忍耐と年月が必要だろう。

1億円の資産があるのであれば、そもそも2000万円問題はクリアしているので何もしなくてもいい。

しかし、念のために資産を2000万円増やそうと思ったら、単に年3%以上の配当をくれる株式やETFや債券を6年から7年持っておけばいい。そしたら、配当が2000万円になっているからだ。

株式の値上げを無視しても2000万円が転がり込んできている。貧困層は株式を持たないが、富裕層は株式を大量に保有している。その差がどうなっていくのかは自分でも計算して欲しい。

それが、資本主義の正体である。格差は縮まらないどころか、広がるばかりであるのがわかるはずだ。

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