AI半導体についてはNVIDIAが覇権を握ったのだが、AIソフトウェアは最終的にはどこが巨大なシェアを取るのか何もいえない。一番いいのが「そのセクターの主要な銘柄を全部買っておく」という戦略だ。全部買っておけば、どれが勝ってもその勝者は手元にある。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
半導体セクターはまだまだ好調を維持する
生成AIによって人工知能(AI)の驚異的な能力が知れ渡った2023年から、莫大な資金がどんどんAI関連銘柄に流れ込むようになって、それがひとつの巨大な潮流を作り出している。
人工知能の「頭脳」は半導体である。だから、半導体セクターが大きく買われている。具体的にいうと、NVIDIA、TSMC、Broadcom、Qualcomm、ASML、Applied Materials等々が買われている。ただ買われているだけではない。NVIDIAなどは、危険なほど買われている。
こうした半導体セクターを丸ごと網羅したETF(上場投資信託)があって、それが【SMH】である。2023年の11月からずっと上がり続けているのだが、4月にはいったん調整があって、そこからふたたび休みなしの上昇を見せている。
この上昇の中心になっているNVIDIAは、2024年6月18日にMicrosoftを抜いて時価総額首位となったことが大々的に報道された。その時価総額は日本円にして3兆3350億ドル(約527兆円)なのだから、途方もないスケールであることがわかる。
NVIDIAの猛烈な跳躍がいつまで続くのかは、誰にもわからない。本来であれば調整が入ってもいい頃なのだが、あまりにも上昇モメンタム強いので調整すらも入らない。「すでに半導体セクターはバブルまっただ中」と認識する人もいる。
しかし、Microsoft・Amazon・Google・Meta・Oracleなどのクラウド大手企業がデータセンターへの投資を続けており、今のところ、高度な半導体に対する需要はまったく途切れていない。半導体セクターはまだまだ好調を維持するという見方も強い。
ところで、半導体に莫大な投資が行われて巨大なデータセンターが林立されると、次に起こるのは何か?
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どこが巨大なシェアを取るのか何もいえない
次に起こるのは、当然のことながらデータセンターのパワーを使った「人工知能ソフトウェアの増大」である。NVIDIAの強力な半導体が必要なのは、AIアルゴリズムのトレーニングと推論に必要な大量のデータを効率的に処理するためである。
これによってAIは画像認識、音声認識、自然言語などを処理するのだが、すでに多くの企業がAIソフトウェア開発に乗り出している。AIソフトウェアの最強のブランドとなっているのはOpenAIの「ChatGPT」なのだが、GoogleもMetaもAmazonもこれを追っている。
この生成AIの分野については、新興企業も次々と乗り出している。AnthropicのClaude3や、Perplexity.aiなどがその代表だ。イーロン・マスクのxAIなどもNVIDIAの半導体を爆買いしてAI分野に乗り出しているので、台頭していくのかもしれない。
また、Appleはクラウドで処理するAIではなく、iPhoneなどのクライアント側で処理するAIに勝機を見出そうとしている。クリエイターに絶大的な支持を得ているAdobeは、画像処理に特化したAIで着々と地歩を築こうとしている。
このように、すでにAI分野では各社が特徴あるAIソフトウェアを出してきて、これから凄まじいAIバトルがはじまるのだが、今のところはOpenAIが突出している。しかし、今後はどうなるのかは、もちろん誰にもわからない。
OpenAIとMicrosoftはいち早く提携を組んで、Microsoftは怒濤の勢いでAIの機能を製品に組み込んでいったのだが、それでOpenAIと蜜月なのかというとまったくそうではない。
MicrosoftはMicrosoftで独自のAIを開発しているわけで、OpenAIは使い捨てになってしまうかもしれない。AI半導体についてはNVIDIAが覇権を握ったのだが、AIソフトウェアは最終的にはどこが巨大なシェアを取るのか何もいえない。
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【VGT】(ヴァンガード情報技術ETF)
企業戦略のたしかさや資金力や人材の豊富さで見ると、Microsoftはそれなりの地位を得ていると思うが、Googleが巻き返すかもしれないし、ユーザーに近いところにいるAppleが最終勝者になるかもしれない。
あるいは、意外な新興企業がAIで大成功を収めて時価総額でも今あるトップ企業群を圧倒するようになっていくかもしれない。
すでに、それぞれの企業の株価はそれなりに上昇し、AIセクターはますます活況を呈しているのだが、こうした乱戦のさなかにある状況で、投資家はどこに投資したらいいのだろうか。
その場合、一番いいのが「とりあえず、このセクターの主要な銘柄を全部買っておく」という戦略だ。全部買っておけば、そのうちのどれが勝っても、その勝者は手元にある。
半導体セクターの場合はETF【SMH】がある。【SMH】(ヴァンエック・半導体株ETF)については以前にもここで紹介した。(ダークネス:SMH(ヴァンエック・半導体株ETF)。AI時代を丸ごと飲み込みたいなら検討すべき)
半導体銘柄ではなく、ソフトウェアを中心に、AI関連を丸ごと取り込むのに適したETFとしては【VGT】(ヴァンガード情報技術ETF)が最高だろう。その理由は上位10銘柄を見ればわかる。
Microsoft(MSFT) 16.72 %
Apple(APPL) 15.86 %
NVIDIA(NVDA) 14.03 %
Broadcom(AVGO) 4.18 %
AMD(AMD) 1.92 %
Qualcomm(QCOM) 1.63 %
Salesforce(CRM) 1.62 %
Adobe(ADBE) 1.43 %
Oracle(ORCL) 1.38 %
Cisco Systems(CSCO) 1.34 %
ソフトウェア企業を中心に、AI関連銘柄を広くパッケージ化したETFとなっている。
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注意して【VGT】を見ていきたいと思っている
ちなみに、興味深いことにNASDAQ100をパッケージ化したETF【QQQ】と【VGT】は、ほぼ同じような動きをしている。現在の株式市場は全体が同時に上がっているというよりも、一部の大型ハイテク銘柄が市場を牽引している部分があるからだ。
【QQQ】と【VGT】は共にハイテク分野の大型株の比率が高いので、株価の動きも同じことになっている。そういう意味では【QQQ】を持っている人はそのまま【QQQ】を保持していても何ら問題ないということがわかる。
多くの人のコア銘柄になっている【VTI】と比較すると、ここ1か月半ほどで【VGT】が急激に上昇するようになって【VTI】を引き離しはじめたという現象も見て取れる。AIセクターが突出して買われている。いよいよAIバブルの兆候が目視できるようになったという見方もできる。
調整があるかもしれない。ただ、AIバブルがはじまったばかりであることを考えると、調整が起こったとしてもそれはAIバブル崩壊ではなく、一時的な下落だろう。バブルはまだ膨れ上がっていく可能性のほうが高い。
もちろん、バブルはいつか破裂する。しかし、このバブルがいつ破裂するのか誰にもわからない。
かつて1995年から2000年までのドットコム・バブルでNASDAQ市場が途方もない高みに駆け上がっていった現象を思い出すが、AIについても、それと同じことが起こるのかもしれない。
ドットコム・バブルの頃は利益も出していないのに、会社名に「ドットコム」と名づけただけで何でも爆騰する風潮があって軽薄だった。
今後、ソフトウェアの分野で熾烈な競争が始まっていくと、「AI」と名づければ何でも暴騰するような時代がきて、やがて無意味なバブルとなり、崩壊していくとしても不思議ではない。
ただ、そうなるとしても、今のところは半導体の主要企業、あるいはソフトウェアの主要企業は途方もない利益を上げているので、「バブルではない。AIへの投資は正当化される」という声も大きい。
私自身は、ある程度の調整がきてもおかしくないと思っている。5月以後からかなり過熱しているように見えているので、【VGT】は今が買いどきだとはまったく思っていない。
ただ、AIのパーティーはまだとまっていない。近いうちに調整はあるかもしれないが、それはむしろ買いどきになるのではないかと思っている。
果たしてどうなるのか、注意してこのセクターを見ていきたいと思っている。ある程度の調整があったら、【VGT】は面白い選択肢になるはずだ。