2019年6月26日、オックスフォード・エコノミクスは、2030年までにロボットが雇用2000万件を奪い、格差がさらに悪化していくという研究結果を発表している。
ロボットは単純な反復作業の現場にはすでに取り入れられているのだが、今後10年は「単純ではない作業」にも使われていくようになる。ロボットが複雑な反復作業ができるようになった裏側には、言うまでもなく人工知能の存在がある。
今後のイノベーションは、人間社会の様々な局面で「人間に取って変わる」ために研究されていく。そのためロボットが雇用2000万件を奪っていくのは止められない流れであるとも言える。
いくら現場を効率化しても、人間の能力を向上させる局面は限界にきている。今後は人間ひとりひとりを向上させるよりも、人工知能に投資した方が「効率化」をより飛躍させることができる。
どんな人間でも間違える。疲れる。そして長時間労働ができないし、休みも必要だ。昇進させる必要もあれば、ボーナスも必要であれば、退職金も必要になる。意見が合わなければ経営者に逆らい、時には裏切る可能性もある。
しかし、人工知能とロボットは、そうした人間特有の「面倒臭さ」がない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
企業は人間への投資をやめてしまう
今後、企業が現在よりもさらに効率化を推し進めるとすれば、どうすればいいのか。今まで企業は人間に投資していたのだが、その理由は人間の仕事は人間しかできなかったからである。
もし「人間以外の存在」が人間と同じくらい、いや時には人間よりも効率的に仕事ができるようになればどうするのか。経営者は「人間以外の存在」に仕事をさせるようになる。
それは今まではSFの世界だと思われてきたが、人工知能が着実に成長する中、いよいよ「判断力」も必要な仕事でも「人間以外の存在」に仕事を任せられるようになりつつある。
SFを現実にするもの。それが人工知能なのだ。
すべての企業は、仕事をする上で常に効率化を優先して事業を進めている。なぜなら、他社よりも効率化しないと競争に負けてしまうからだ。そして効率化しないと、顧客にも見捨てられる。
企業はありとあらゆる業務を効率化することによって生産能力を引き上げ、ひいては競争力を向上させる。
効率化は、言わば企業の生き残りと成長のために、必要不可欠なものである。だから企業は効率化のために何でも取り入れてきたし、これからも効率化に結びつくものであれば何でも飛びつく。
機械が取り入れられ、OAが取り入れられ、インターネットが取り入れられ、ウェブサービスが取り入れられ、クラウドが取り入れられるたびに企業は人員を減らすことに成功している。
なぜ人員を減らすのか。それは、まさに人間こそが非効率であるからに他ならない。企業の効率化は、最終的に労働者の削減であり、全自動化に結びつく。
企業は人間のやっている仕事を、人工知能とロボットに置き換える。そうやって人間を排除することによって効率化は完成する。
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人工知能が社会のインフラと化す
IBM、アップル、グーグル、アマゾン、マイクロソフト、アドビ等の巨大ハイテク企業は、すでに実用化された初歩的な人工知能を持っており、それを自社ソフトウェアやハードウェアに投入している。
私たちはスマートフォンやスピーカーに向かって何かを尋ねて、機械が答えを返してくれる機能を普通に使っている。人工知能が「受け答えする」というのは、もはや日常になっているのである。
こうした機能は人工知能がバージョンアップするにつれて、さらに応用範囲が広がっていくことになる。そして、いずれは人工知能がないと生活できないようなレベルにまで達する。
つまり、人工知能が社会のインフラと化す。
現在のハイテク企業の大手すべてが人工知能の研究・開発・実用化に莫大な資金を投じている理由はここにある。より優れた人工知能を開発した企業が市場を独占し、巨大な利益を上げることができるようになるからだ。
人工知能の分野は巨大企業にとっては次の時代のゴールドラッシュなのである。すべての分野に人工知能が進出し、人間しかできないと思われた分野でも人工知能が人間に取って変わるようになる。
現在はすでに人工知能がインターネットで情報を取得して、新聞記事を大量に制作している。天気、スポーツの勝敗、市場の動向は定型的な文章が多いからだ。
これが進化すると、10年後の私たちは普通に人工知能が作り出した小説を読んで、泣いたり笑ったりしているかもしれない。技術がもっと進んでいくと、マンガ等もプログラム制作になって、やがて人工知能が作品を作り出すようになっていく。
現在、映画もCG(コンピュータ・グラフィック)で作られるようになり、場合によっては俳優すらもCGで動かしている場面も多くなってきている。
群衆や悪役や背景もCGで作られているのだが、そのうちに主人公自体もCGがやることになれば、俳優はよほどの個性と知名度を持っていないと生き残れない。
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効率化という地獄の中で生きる
人工知能は「まさかそんなところまで」と思うところまで進出して世界を変えていく。それは社会に今まで以上の「効率化」をもたらすということであり、それは私たちの文明に多くの利便性をもたらす。
しかし、効率化が進むというのは、効率的ではない人間が要らなくなるということなので、より労働者の失業と低賃金化が進んでいくのは避けられない。
多くの仕事が人工知能に取って変わり、そこで生計を立てていた人たちの労働の価値が激減して低賃金化、あるいはリストラ対象になっていく。
そこにいた大部分の人間が不必要になる。労働の価値が減少する。そうなると賃金も減少する。漫然と生きている人間の大部分は、効率化が進んでいくと業界から切り捨てられて一掃される。ほとんどの人が仕事を失って生きていけなくなる。
人工知能の導入とは効率化の導入である。効率化は非効率な人間の排除の動きを加速する。本来は代替えが利かないと思われていた分野でさえも、圧倒的な技術の進歩で「効率化」が推し進められて、要らない人間はどんどん捨てられていく。
私たちのやっている仕事に、人工知能の波がやってきて効率化が追求されると、人間は何をどうしても勝てない。代替えがいくらでも可能な業界の労働者は、仕事を失って新しい仕事が見付からなくなる。
当面はその仕事ができるとしても、人間の存在自体が効率性の足かせになっていると会社が判断したら、人間は効率化によって捨てられる。
私たちは人工知能がもたらす効率化という地獄の中で、果たして生き残ることができるだろうか?(written by 鈴木傾城)
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私たちのやっている仕事に、人工知能の波がやってきて効率化が追求されると、人間は何をどうしても勝てない。代替えがいくらでも可能な業界の労働者は、仕事を失って新しい仕事が見付からなくなる。