
他国のIT企業がアメリカのIT企業による技術独占を阻止しようと思っても、あるいはビジネスモデルを真似しようと思っても、規模的にも技術的にも敵わないので追いつくことすらもできない。もちろん真似はできる。たとえば中国の企業は真似だけで大きくなった。しかし、それでもローカルを支配するのが精一杯で、世界を制覇することにはならない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
テクノロジーがなければ何も始まらない世界
2020年12月14日20時50分。Googleのサービスで大規模障害が発生して1時間近く使えなくなるという事象が発生していた。YouTubeも、Gmailも、GoogleDriveも、ほぼすべてが使えなかった。
たった1時間のことだが、世界中が阿鼻叫喚の地獄と化して「いったいどうなっているのか」という声が殺到した。全世界がいかに「Google」という企業に依存しているのかが分かる事態だった。
アメリカの一企業が、ほぼ全世界の相当数のユーザーを「管理」している。これは、考えて見ると非常に凄まじい事態でもある。通常の企業ではそのインフラを用意することすらも不可能なスケールをGoogleは当たり前のようにこなしている。
Googleだけではない。Apple、Facebook、Amazonもそうだ。いわゆる「GAFA」と呼ばれる企業の企業スケールは、もはや全世界の人口を優に扱える規模となって地球に君臨しているのである。
おおよそ、現代人で「GAFA」の製品やサービスを使わずに日常生活を送れる人はほとんどいなくなっている。GAFAだけが特別なのではない。Microsoftも、Adobeも、Netflixも、まるで当たり前かのように全世界対応のサービスを行っている。
Adobeは一般の人にはあまり知られていない企業だが、この企業の製品であるフォトショップ、イラストレーター、インデザイン等のソフトウェアが使えなくなると、印刷業界は一瞬にして壊滅してしまうほど業界を独占しているのだ。
今、私たちの文明はテクノロジーがなければ何も始まらない世界になっているのだが、その根幹の部分をアメリカのハイテク企業ががっちりとつかんでいて、代替品はどこにもない。
アメリカのハイテク企業がいかに凄まじいのか、それを考えるだけでも分かるはずだ。気が付かなければならないのは、こうした巨大な分野で熾烈な争いを繰り広げて技術独占するのは、すべてアメリカのIT企業だという現実である。
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米IT企業が終焉などと言っていると嘲笑される
世界は自由競争の時代なのだから、どこの国のどこの企業が競争に打ち勝って世界制覇してもおかしくない。しかし、今のところ、そのスケール感や技術的なイノベーション(革新)では、アメリカのIT企業に太刀打ちできる他国の企業が存在しない。
全世界のイノベーションは、今後もアメリカのハイテク企業が牽引し、数十年に渡ってリードしていくのは確実になっている。
他国のIT企業がアメリカのIT企業による技術独占を阻止しようと思っても、あるいはビジネスモデルを真似しようと思っても、規模的にも技術的にも敵わないので追いつくことすらもできない。
もちろん真似はできる。たとえば中国の企業は真似だけで大きくなった。しかし、それでもローカルを支配するのが精一杯で、世界を制覇することにはならない。
そもそも中国企業が巨大化していると言っても、中国共産党政権と官民一体化した企業が中国人の14億人に強制的に使わせて巨大化させた人為的な巨大企業であり、なおかつ技術は日米欧の知的財産の侵害で成り立っているインチキ企業である。
アメリカ政府は今後は共和党から民主党に転換するかもしれないが、政権が民主党になったからと言って中国の知的財産の侵害を無視するわけではない。
中国のアンフェアな手口はすでにトランプ政権が暴露したのだから、バイデン政権になって多少の緩和はあるとしても、「中国の封じ込め」自体は継続せざるを得ない。
したがって、いくら中国の企業が巨大化しているとは言えども、その趨勢は一時的なものであると言える。今後もアメリカのハイテク企業がイノベーションと独占を確保していくのは間違いない。そして、さらに「次世代のイノベーション」を核にして飛躍もある。
中国が何かするたびに「アメリカは終わった、アメリカは凋落した、アメリカのハイテク企業も終わりだ」と馬鹿のひとつ覚えのように言っているアナリストもいるのだが愚かだ。
アメリカのハイテク企業は成長が終焉するのではなく、むしろこれからも相変わらず凄まじいイノベーションを引き起こしながら成長していく。終焉どころか、これからだ。アメリカのハイテク企業が持つその潜在能力は、まだすべて見えていない。
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凄まじい潜在能力を秘めた業界であるのが分かる
あらゆるモノがインターネットにつながると、その無限大のビッグデータを瞬時に解析する「能力」が要る。それを担うのは紛れもなく人工知能だ。
Googleの現在のCEOはインド人であるサンダー・ピチャイ氏だが、「今後は人工知能ファーストに移行する」と宣言し、すでに検索に関しても内部で人工知能を利用していることを明かしている。
Googleの人工知能に対する傾倒を印象付けて世間に衝撃を与えたのは傘下の企業ディープマインド社が開発した囲碁の人工知能「アルファ碁」だった。
囲碁は複雑な思考を要するゲームであり、人工知能が人間に勝つのはずっと先の話だと言われていた。しかし、2016年3月にはあっさりと世界のトッププロ棋士を打ち破った。
それもただ破ったのではなく、圧倒的な強さを見せつけてトップ棋士を寄せ付けなかった。人工知能が人間の能力を凌駕していることを2016年に人々は知った。
人工知能に関しては、人々はその片鱗を自分のスマートフォンに話しかけて応答してもらうことで体験している。いつしかゆっくりと人工知能が人々に浸透しつつあって、それが生活になくてはならないものへと変わっている。
この人工知能を制しているのも、これまたすべてアメリカのIT企業である。スマートフォンのOSも、クラウドも、人工知能も、みんなアメリカのハイテク企業が押さえていて、他を寄せ付けない。
さらに怒濤のごとく進んでいるロボット技術、電気自動車、無人運転、ウェアラブル機器、ドローンに関しても、アメリカのIT企業が飛び抜けている。
夢物語のような車の自動運転も、あと2年もすれば公道を走る。TeslaやAmazonが成し遂げるだろう。GoogleやAppleもまたそれに続くはずだ。
こうした状況を冷静に確認すると、アメリカのIT企業が属するハイテク産業は、ただのブームではなく今後も世界を揺さぶる凄まじい潜在能力を秘めた業界であるのが分かるはずだ。
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イノベーションは、終わりどころかむしろ始まりである
アメリカのIT企業は既存のITビジネスからさらに一歩先のイノベーションに向かっており、アメリカ社会はそれをどんどん受け入れて社会そのものを一気に変えていこうとする気概がある。
日本ではセグウェイも電気自転車も電動キックボードも「免許がー」「安全がー」「交通法がー」と、何でもかんでも規制して「できない言い訳」をする社会なのだが、アメリカはまったく違う。
イノベーション・ファーストの文化があり、新しいアイデアを持った企業を次々と上場させる土壌もあり、チャレンジを尊ぶ気質もある。このすべてが合わさって次世代の世界を作り上げる。
インターネット業界の成長は、ひとつのイノベーションが起きるとそれが全世界を独占するまで続き、それが一段落するとまた次のイノベーションが核になって、それが全世界を独占するまで成長が続いていく形を見せる。
たとえば、業界を牽引していたスマートフォン分野では劇的な進化が止まった可能性も指摘されている。
しかし、その「次」が何も見つからないのであればともかく、ハイテク業界の「次」は人工知能、IoT、ロボット、電気自動車、無人運転、ウェアラブル機器、ドローン……と目白押しなのだ。
ひとつの大きな波が落ち着いても、それで終わりということにならない。終わりどころか、むしろ始まりであると捉えなければならない。
アメリカのIT企業全体で見ると、その潜在的な能力は計り知れない。今後は「まだ私たちが知らない企業」が、急激な勢いで巨大化していく可能性も秘めている。
「アメリカが終わる」と10年以上も前から言っている人や、「次の時代は中国だ」といまだに言っている人や、少しアメリカの株価が下がると「終焉だ、破滅だ」と言い出す人がいるが、彼らは現実が見えていない。
アメリカのイノベーションを生み出す能力は、まったく衰えていない。恐ろしいほどだ。次にやってくる「新しい波」もまたアメリカが制する。アメリカの超巨大IT企業の次の成長力を見くびったら、激動の時代に出遅れる。
