Twitterを買収したイーロン・マスクは果たして人類を救うことができるのだろうか?

Twitterを買収したイーロン・マスクは果たして人類を救うことができるのだろうか?

自由をどんどん認めると地獄絵図になる。自由を強く規制すると監視システムになる。イーロン・マスクはこの矛盾をシステムで解決しなければならないのだから、難儀な企業のCEOになったものだ。いずれにしても、今のSNSというのは末期症状の真っ只中にあって変革が求められている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

すぐに見捨てられるわけではないが、先があるわけでもない

FacebookやInstagramといったSNSのプラットフォームを持つメタ・プラットフォームズ(通称Meta)が窮地に陥っている。

フェイクと中傷と罵倒と分断を生み出すSNSというプラットフォームの頂点に立って批判の対象になってきたこのIT企業は、あまりの世間の攻撃の激しさにもはやSNSを拡張させる意欲をすっかり失って、社名のFacebookを捨ててメタバースという世界に逃げていった。

ところが、このメタバースもうまくローンチできておらず、世間を熱狂させるところまで至っていない。

そのため、赤字はどんどん積み重なっていき、決算をミスするたびに株価が暴落し、1年前までは380ドルを超えて400ドルに届きそうだった株価はいまや100ドルを割って、まだ底が見えない。

そうしているうちに、FacebookやInstagramも「古くさい世界」と言われるようになって、収益源となっているSNSの影響力も喪失しつつある。このプラットフォームがすぐに見捨てられるわけではないが、先があるわけでもない。

一方で、「ヘイト拡散装置」とも言われているTwitterは、ヘイトだけでなくスパムbotも広がっていくようになっている。

そして、こうしたTwitterの状況を批判していたイーロン・マスクに乗っ取られ、一年ほど前にCEOになったばかりのパラグ・アグラワルを始めとして、最高財務責任者も、最高法務責任者も、法務顧問も、みんなまとめてクビにされるという事態に到達した。

日本ではあまりユーザーを見ないが、アメリカの若年層で使われているスナップチャットも売上を落として株価は一年前から7分の1以下にまで墜落している。

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SNSは人々を激しく対立させる「言論暴力の場」

確かにインフレ過熱やFRBの利上げに端を発する実体経済の悪化もSNSが拠り所にしている広告収入を悪化させている面もあるが、SNSというシステムそのものが大きな曲がり角に来ているのも間違いない。これについては、以前にもマネーボイスに書いた。

SNSはもう終わる。Meta株マイナス26%超えの大暴落で露呈したFacebookと「つながり強制」社会の末期症状=鈴木傾城

あれから状況はますます悪化してしまっているのである。

TwitterやFacebookやInstagramなどのSNSは「人々を効率的・効果的に結びつける」というサービスを壮大なレベルで行った。

その結果、どうなったのか。人々は見も知らぬ敵対者、反対者、批判者、中傷者、言論暴力者の激しい攻撃に遭遇することになった。人々はSNSというフィールドの中で、激しく口論し、対立し、時には訴訟沙汰、暴力沙汰になるまで争い続けている。

SNSがなければ「出会わなかった対立者」と効率的に出会うことになって、世の中はどんどん荒廃していくばかりとなった。

SNSを提供するプラットフォーム各社は、当初はその意図はなかったのかもしれない。しかし結果的に見れば、SNSは人々を激しく対立させる「言論暴力の場」となっている。今回、Twitterを買収したイーロン・マスク氏は、これを「参加自由の地獄絵図」と表現した。

それもそうだ。Twitterは誰でも使えることに意義があるのだが、人間社会の裏側には常に異常者・変質者・粘着者・妄想系・電波系・暴力団・半グレ・チンピラ・ゴロツキ・詐欺師・犯罪者が蠢いているわけで、彼らもまたそこに参加してくる。

これで「参加自由の地獄絵図」にならない方がおかしい。こうした世界の中で相手を言論で殴り合い、叩き合うのがSNSの本質なのである。当然、こうした世界に傷つく人たちは大勢いる。

人々とつながりを求める人たちを引き寄せて、悪罵と中傷と言論暴力の嵐の中に放り込んで、時には人を自殺にまで追い込むのが今のSNSの本質なのである。

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誰もが明日は我が身で地獄絵図に放り込まれていく

私の知り合いは当初、Twitterを嬉々として使いこなしていたのだが、やがて絶え間なく飛んでくる悪意のある皮肉や、突き放したようなコメントや、あからさまな批判に耐えかねて、次第にTwitterを使わなくなっていった。

「自分にとって、どうでもいい人間はブロックしたらいいのでは?」と言うと、「そういう問題ではなく、朝から晩まで争いが起きている場を見ることや、いつ自分に言葉のナイフが飛んでくるのか分からないのがストレスで嫌だ」と答えた。

彼は別に政治的な発言をする人物だったわけではない。趣味や日常を淡々とツイートしていた人だ。にも関わらず、言葉の暴力が「不意に」飛んできて彼を傷つけるのだ。SNSは彼を苦しめる「参加自由の地獄絵図」だったのだ。

このプラットフォームが生み出す絶え間ない誹謗中傷の場を嫌って、彼は次第にTwitterから離れていき、ついにはアカウントも消して去ってしまった。まわりを見回すと、SNSの世界に疲れ果てて去った人は大勢いるはずだ。

TwitterやFacebookやInstagramなどで、執拗に攻撃・批判・誹謗中傷されて自殺した人もいる。芸能人でもSNSに書き込まれた連日の罵倒に心が折れてしまって、自殺してしまった人も思い浮かぶはずだ。

SNSの暴力が向かう先は、芸能活動をする著名な人ばかりではない。

ごく普通の立場の普通の人であっても、ある日突如として攻撃・批判・誹謗中傷に見舞われる。大人しくしていても無駄だ。発言も、外観も、好きな物も、信じている物も、政治信条も、人種も、国籍も、すべて「攻撃対象」となる。

それこそ、好きな芸能人を応援しているだけの人も、その芸能人のアンチが誹謗中傷で襲いかかるのは当たり前にある。誰もが明日は我が身で地獄絵図に放り込まれていくのである。

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最善を尽くしたとしても失敗する可能性が非常に高い

FacebookやInstagramに関しては、プラットフォームの保有先であるMetaがプラットフォームの改善や進化や将来に積極的ではなくなっているので、これらのプラットフォームは静かに凋落していくだけかのかもしれない。

先のことは分からないが、「参加自由の地獄絵図」のSNSに注力することのリスクを一番よく知っているのがプラットフォーマーである。

そんなリスクが極大化している最中にTwitterを買収したのがイーロン・マスク氏だった。

この傑出した起業家が、これからどのようにTwitterを変えていくのかはまだ未知数だが、ひとまずこの企業を非上場にして、言論のあり方を変えていく試行錯誤を行うのは間違いない。

どのように、今の攻撃・批判・誹謗中傷が吹き荒れる世界を変えていくのかは分からないのだが、それが簡単な仕事ではないことは、イーロン・マスク自身の声明を読んでも分かる。このような文面もある。

『お金を稼ぐ目的でもなく、愛する人類を助けるために決断した。このような目標を目指す過程で最善を尽くしたとしても失敗する可能性が非常に高いことは重々認識している……』

最善を尽くしたとしても失敗する可能性が非常に高い、とイーロン・マスクですらもそのように吐露するほど、Twitterという「参加自由の地獄絵図」を変えるのは困難なのだ。

それもそうだろう。

人々に発言の自由を保障すると、攻撃・批判・誹謗中傷は当然のことながら今まで通りにまき散らされるだけになるし、かと言って規則を山ほど作って発言を制限するとビッグブラザーが監視する中で発言をコントロールされる場所になってしまう。

自由をどんどん認めると地獄絵図になる。
自由を強く規制すると監視システムになる。

イーロン・マスクはこの矛盾をシステムで解決しなければならないのだから、難儀な企業のCEOになったものだ。いずれにしても、今のSNSというのは末期症状の真っ只中にあって変革が求められている。

まずは、Twitterがどう変化していくのか様子を見たい。イーロン・マスクは果たして人類を救うことができるのだろうか?

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