GAFAはビジネス的な困難にぶち当たりながらも巨大な影響力を保ち続けるだろう。しかし、GAFAと言えども常に最強でいられるわけではなく、いずれは力が削がれていく日がどこかで必ずやってくる。2022年は、そうした方向に向かう「転機の年」であるのかもしれない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
GAFAが最強の企業ではなくなる日がやってくる?
ちょうど1年前までGAFA(Google・Apple・Meta・Amazon)は最強伝説が永遠に続き、売上はさらに上がっていくものだと思われてきた。
しかし、2022年からインフレと利上げとドル高が進んでいくと、GAFAは急に失速するようになり、いよいよ売上にも悪影響が及ぶようになってきた。
GAFAの中で、最もダメージを受けているのはMeta(旧Facebook)である。すでにSNSはフェイクとヘイトの増幅装置として嫌われるようになっており、さらに方向転換したメタバースの世界も赤字を垂れ流し続けている。Metaの株価は大暴落してまだ止まっていないような状況だ。
Googleの親会社であるAlphabetやAmazonもインフレと利上げによる広告事業の悪化によって第三四半期の決算は冴えないものとなっている。GoogleはYouTubeの増収率が止まってしまい、Amazonは広告だけではなく、稼ぎ頭であったAWS(Amazon Web Services=クラウド事業)も伸びが頭打ちになった。
Microsoftのクラウド事業であるAzureも売上が鈍化していることから、クラウド事業そのものがいよいよ飽和してきていることが指摘されている。
AppleだけはiPhoneやiPadやApple WatchやMac、あるいはサービス事業も含めて決算を乗り切ったように見えるが、ドル高での売上の悪化も垣間見られるようになってきた。ドル高が続く中で来期も好調かどうかは未知数だ。
ただ、さまざまな問題があるとは言えども、これらの巨大ハイテク企業は最強の経営が為されている。当面は、ビジネス的な困難にぶち当たりながらも巨大な影響力を保ち続けるだろう。
しかし、「GAFA」も常に最強でいられるわけではなく、いずれは力が削がれていく日がどこかで必ずやってくる。2022年は、そうした方向に向かう「転機の年」であるのかもしれない。
【金融・経済・投資】鈴木傾城が発行する「ダークネス・メルマガ編」はこちら(初月無料)
消費者が有限である以上はそれがリミットになる
かつては世界最強のハイテク企業であったIBMは今もなお優良企業として生き残り続けているのだが、「最強の企業」ではなくなった。それを見ても分かる通り、GAFAがいつまでもモンスター企業であり続けるというのは非現実的かもしれない。
今、この時点で「GAFAが最強の企業ではなくなる」と言っても、第三四半期の決算が期待外れだったくらいでは、まだ実感がないかもしれない。多くの人にとっては今でもGAFAは比類なき存在であり、「神」と考える人もいるほどだ。
しかし、どんな企業でも社会環境が変わったら、いずれは最強ではなくなってしまうのは仕方がないこともである。
2022年からインフレとドル高が世界を席巻しているのだが、そうした環境変化が生まれただけでも海外売上比率が高いGAFAも売上が急減速してしまうことが見て取れる。
日本でもドル高円安でiPhoneなどの製品の価格が急に引き上げられて「もう金持ちしか買えない」という悲鳴も上がっている。ただでさえ高いApple製品はドル高でより高くなってApple離れを加速させてしまった。
ドル高はもちろん永遠ではない。FRBの政策変換や社会環境の変化で再びドル円が巻き返される局面がいずれくるだろう。GAFAは一時的に売上を落としても為替環境が安定すると売上も復活するかもしれない。
しかし、そうだとしても売上の伸びは無限ではない。人間の身長もある時点で成長が止まるように、企業の主力製品もある時点で売上が止まる。なぜなら、消費者が有限である以上はそれがリミットになるからだ。
企業が常に「多国籍=グローバル」であることを志向するのは、言うまでもなく消費者数の限界を突破するためでもある。
自国で限界を突破したら違う国へ進出する。そこで限界を迎えたら再び違う国に進出する。そうやって地球を一周して製品やサービスを売ろうとする。だから、企業はグローバル化が宿命づけられている存在であるとも言える。
【ここでしか読めない!】『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』のバックナンバーの購入はこちらから。
やがて業界からイノベーションそのものが消える?
GAFAのみならずアメリカのハイテク企業各社が巨大なのは、言うまでもなく世界中にその製品やサービスを展開することに成功したからだ。
もちろん、政治的問題や経済的問題で取りこぼした国もあるのは間違いないのだが、そうした難しい国を取り込む努力をしながらも、全体的に見ればアメリカのハイテク企業群はすでに世界を征服したも同然である。
GAFAはすでに十分に巨大化した。しかし、企業は常に投資家によって「成長」を求められており、製品やサービスをより売り続けなければならない宿命が科せられている。そのため、GAFAのすべては多角化を成功させることを求められている。
多角化は事業を拡大させるための方策ではあるが、企業が多角化に邁進するようになると、今度は違う問題を引き起こす。企業そのものが肥大化して判断が遅くなり、経営の焦点がぼやけるようになり、社運を賭けた転換にも失敗するようになっていく。
それがいち早く鮮明となったのがMetaであると言える。
SNSの象徴であったFacebookがフェイクとヘイトの温床と化して激しく叩かれるようになってから、Facebookはそこから逃れるためにメタバースという新しい世界に社運を賭けて転換した。
2022年の今時点で言えば、その転換は赤字を垂れ流したまま何の成果も生み出していない。ムーブメントも起こっていない。「本当にメタバースの時代が来るのか?」と疑問視されている論調も出てきている。
もしメタバースに失敗したら、Metaの崩落は間違いなくやってくるだろう。
Appleも巨大化を維持するためにあらゆる分野に触手を伸ばして売上を確保しようとしているのだが、ある時点でその巨大化によって弊害を生み出すことになったとしても不思議ではない。
巨大化するために巨大企業はスタートアップ企業を大量に飲み込んでいく。それが続くと、やがて業界からイノベーションそのものが消えてしまう。巨大化と独占化は業界そのものを停滞させて、独占に成功した企業をも衰退させてしまうのである。
ダークネスの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』
GAFAを追い詰める7つの要因はすでに忍び寄っている
GAFAのような一部の巨大企業がいつまでも君臨していると、人々はだんだん自分たちがこれらの企業に支配されているという気持ちを強めていく。そして、GAFA以外の「何か新しいもの」を求めるようになる。
GAFAがいかに優れていてより優れた製品を出したとしても、GAFA自体が新鮮ではないので、いずれは熱狂してくれなくなる現象も起きる。人々は「GAFAではない何か」が欲しいと思うようになる。
それが次のパラダイムシフトを引き起こす。パラダイムシフトは往々にして支配している企業の反対方向に走るのだ。その結果、GAFAの経営は完璧に経営されているにも関わらず、なぜか効果が出ないようになる。
それが続いていくと、どんな巨大なパワーを持った企業であっても「最強の企業」の座からすべり落ちる。
それだけではない。経営者もいずれは地位を譲って新しい経営者が新しい発想で企業を運営する。そんな中では経営ミスや方向転換の失敗が起こることもあり得る。
Appleの創始者であったスティーブ・ジョブズは一度Appleから放逐されているのだが、以後のAppleはどんどん迷走して売上を落とし、やがては倒産寸前にまで追い込まれたのは記憶に新しい。
そう言えばMicrosoftもビル・ゲイツが退いてから精彩を欠くようになったし、Amazonもジェフ・ベゾスが退いてから現状維持だけを考えているように見える。経営者が変わると、それをきっかけにして企業が凡庸になるというのは常に起きている事象である。GAFAも、そうした運命から逃れられないだろう。
1. 巨大化
2. プライバシー
3. 悪評
4. 偏向
5. 新しいものを求める人々の気持ち
6. パラダイムシフト
7. 経営のミス
今、インターネットを支配しているように見えるGAFAだが、このGAFAを追い詰める7つの要因は2022年から起きている大きな社会環境の変化の中で、ゆっくりと忍び寄っているように見える。
2022年はあと2ヶ月で終わる。2023年は景気後退《リセッション》も避けられないわけで社会環境はより悪化する。そんな中で、世界を支配している巨大ハイテク企業の象徴「GAFA」がどこまで存在感を示せるのか、私は注視している。