
超高度情報化社会は、今後「5G」によってさらに加速化し、重要性が増す。超高度情報化社会のコアとなる部分はソフトウェアである。ソフトウェア製品はより重要な分野になっていく。だから、ソフトウェアを日本の基幹産業に据える発想と決意が政財界にも国民にも必要となるのだ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
ITの頭脳であるソフトウェアを押さえる必要がある
私は日本から世界に通用するソフトウェア企業が誕生する瞬間を待ち望んでいる。
GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)が提供する、世界中の誰もが使うようなソフトウェア製品やソフトウェアサービスが日本企業から誕生して欲しいと願っている。
日本からソフトウェアの巨人が生まれないのは、日本の経営者から政治家までがソフトウェアの重要性をまるっきり理解していないからであると思っている。(ダークネス:超高度情報化社会なのに、ソフトウェアを軽視する社会的認識は間違っている)
日本は世界に通用するソフトウェアを生み出す潜在的能力がある。人材は優秀で、何よりも日本人は改善・改良が得意である。
ソフトウェアはまさに、改善・改良によって磨かれていくものであり、本来であれば日本人の気質に合ったビジネスのフィールドでもある。インバウンドみたいな過去の遺産にすがりついたビジネスよりも、ソフトウェアで立国する方がずっといい。
たとえば、ピラミッドという世界最強の文化遺産・観光資源を抱えた観光立国エジプトのGDPは2860億ドルである。GAFAMを構成する重要な企業であるAppleの時価総額は2.27兆ドルである。ソフトウェアの巨人であるMicrosoftは1.84兆ドルだ。
エジプトという国全体よりも、AppleやMicrosoftという一企業の時価総額の方が大きいということに気付かなければならない。
エジプトの年間の観光収入とAppleの年間の売上を見ても、違いは歴然としている。エジプトの観光収入は約140億ドルで、Appleの年間の売上は約2745億ドルである。
これを見ても、日本はどちらに向かったらいいのか分かるはずだ。
観光立国では日本に未来はない。超高度情報化時代はIT産業にベクトルを向け、さらに言えばITの頭脳であるソフトウェアを押さえる必要がある。私は日本がそこに国運を賭けて腰を据えて取り組んだら、間違いなく世界を制覇するソフトウェア企業が生まれると思っている。
日本人はどんな些細なものでも、長い時間をかけて、ありとあらゆる部分を磨き上げる。たゆまぬ改善をしていくことで、最後には極上のものに昇華させる。それが日本を救う。ソフトウェアの分野でそれができると私は固く信じている。
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どれもが最高級の品質となって絶賛されていく
カメラ、フィルム、レンズ、炭素繊維、ファスナー、スナップ・ボタン、ネジ、タオル、工具、刃物……。
日本人は、何気ないものさえも狂気を感じさせるまでに改善・改良し、最終的には最高級の品質にして、世界中から絶賛されるような製品を作り出す。
こうした「改善・改良」はトヨタのものがよく知られていて、トヨタの「カイゼン」は国際的に通用するビジネス用語となっている。
しかし、カイゼンはトヨタだけのものではない。多くの日本企業とその経営者は、方向性はトヨタとまったく同じ「改善・改良」にある。
トヨタは、日本人が昔から持っている「改善・改良」を、とことん突き詰めてひとつのビジネス・モデルにして成功した企業だが、それは日本企業の特性であり、日本人の特性である。
逆に言えば、日本人が最もしっくりくるビジネス・モデルがここにある。「改善・改良」を伴う製品作りとビジネス・モデルは、日本人が自分たちの気質に合わせて無理なく理解できるものなのだ。
ソフトウェアは、そんな日本人にしっくりくるビジネス・モデルを持っている。
MicrosoftもWindowsやOffice製品を何度も何度も改善・改良してビジネスを作り上げてきた。現代の写真文化に欠かすことができないPhotoshopを作っているのはAdobeだが、このAdobeもまたたゆまなく改善・改良を繰り返して生きている企業だ。
Googleも検索エンジンやブラウザをサーバーサイドで頻繁に改善・改良を行っていて、世界最強のソフトウェアを提供している。Facebookも改良に次ぐ改良でSNSの巨人としての地位を保っている。
ソフトウェアは製品を出して終わりではない。そこからがスタートで、いかに人々に継続して使ってもらうのかという部分がビジネスの最重要課題になるのだ。これはまさに日本人が大得意とするところでもある。
ソフトウェア製品は日本人のために用意されているようなビジネス・モデルのようにすら私には見える。しかし、日本人の経営者はまだソフトウェアを重要視しようとしない。下請けかどこかにアウトソーシングすればいいと思っている。大間違いだ。
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その国の民族が得意とするものと苦手とするものがある
頻繁な改善・改良が必要になるソフトウェア製品は日本人に向いている。にも関わらず、日本政府も日本企業もまったくソフトウェアの分野に視点を向けないし、その重要性を認識しようともしない。日本人はもっとソフトウェアに注力すべきなのだ。
分野によって、その国の民族が得意とするものと苦手とするものがある。
一般的な話をすれば、たとえばユダヤ人は金融が得意で、アメリカ人がイノベーションが得意で、日本人がハードが得意である。こうした捉え方は、ややもすればステレオ・タイプであるとしてあまり好まれない。
しかし、それでも全体を俯瞰して見れば、民族特有の「傾向」があるのは否定できない。それは紛れもない事実だ。その国の文化や国民性や民族気質が、ビジネスの方向性に影響を与えている。
多くの人間は自分の民族性に合ったビジネスの方法論が一番うまく馴染める。それに戸惑わない。そして、一番うまく運用できる。つまり、それが一番成功しやすい。
もちろん民族性がそうだとしても、自分の気質や性格がそれに合わなければそれまでだが、合わないことよりも合うことの方が多い。
日本人は、自分の対象を改善したり改良したりして「良いものにしていく」という方法論が一番しっくりと合う。そして、それが日本人に富をもたらしてきたという実績もある。
だからこそ私たち日本人が自分の人生で最も「生きやすい」のは、目標にあらゆる創意工夫・改良・改善を組み込んで、とにかく今よりも良いものにしていくことであると言える。
日本人にとって、改善・改良を重視するのは当たり前だと思うが、当たり前だと思うのは日本人だけで、他の民族はそう思っていない。
たとえば、中国では改善・改良するよりも、今売れているものをパクリ、そこから利益が出すことを優先する。利益が出れば粗悪品でも何でも良いという発想だ。品質にこだわるのではなく儲けにこだわる。
だから粗悪品でも、それが売れるのであれば中国人にとって「良い製品」なのである。日本人とはまったく違う。
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民族の気質に合わないやり方は決して定着しない
世界はグローバル化しており、多くのビジネス・モデルが日本に上陸した。利ザヤを取って儲けるビジネスや、粗悪品を売って儲けるビジネスや、儲かっている会社を買収して自分のものにするビジネス等、いろんなものが入ってきた。
しかし、結局のところ日本人の気質に合わないビジネスは日本では定着しない。無理に、それを日本人が扱ってもうまくいかない。
逆に言えば、日本の狂気のような「改善・改良」を海外に持って行っても、その国の民族に合わなければ、監督をしている日本人がいなくなった時点でそれは消えていき途絶えてしまう。
合わないものは定着しない。それはやがて変質し、その民族の気質にあったものに歪められ、まったくの別物となっていく。日本人ができることが他の民族にできるとは限らないし、定着するとも限らないのだ。
超高度情報化社会は、今後「5G」によってさらに加速化し、重要性が増す。超高度情報化社会のコアとなる部分はソフトウェアである。ソフトウェア製品はより重要な分野になっていく。だから、ソフトウェアを日本の基幹産業に据える発想と決意が政財界にも国民にも必要となるのだ。
かつてドイツ帝国の首相ビスマルクは「鉄は国家なり」と喝破した。今の世界、そして今後の世界は「ソフトウェアは国家なり」なのである。
日本がソフトウェアの重要性に気付いて、官民一体でソフトウェア大国を目指すのであれば、必ずやそれを成し遂げられる日が来ると私は信じている。
必要とされるソフトウェアを作り、愚直なまでに日本的な改善・改良をしていくことで日本発のソフトウェア製品が世界的に支持されていく。
観光立国みたいなものは、過去の遺産で食っていくビジネスである。外国人に来てもらって、国民が外国人に奴隷のように奉仕して食いつなぐビジネスである。そんなビジネスを国が押し進める必要があるのだろうか?
それよりも、超高度情報化社会のトップをつかむソフトウェア産業に目を向けた方がもっと未来がある。今後の社会はすべてソフトウェアによって動く。日本はそこで大きな存在感を持っていなければならない。
日本はエジプトになろうとするな。ソフトウェアの巨大企業を次々と生み出すアメリカになれ。
