観光立国みたいなインバウンドは、過去の遺産で食っていくビジネスである。外国人に来てもらって、国民が外国人に奴隷のように奉仕して食いつなぐビジネスである。そんなビジネスを国が押し進める必要があるのだろうか?日本はもっと重要な部分で立国しなければならない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
ITの頭脳であるソフトウェアを押さえる必要がある
私は日本から世界に通用するソフトウェア企業が誕生する瞬間を待ち望んでいる。GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)の製品のように、世界中の誰もが使うようなソフトウェアが日本から誕生して欲しいと願っている。
日本からソフトウェアの巨人が生まれないのは、日本の経営者から政治家までがソフトウェアの重要性をまるっきり理解していないからであると思っている。
日本は世界に通用するソフトウェアを生み出す潜在的能力がある。人材は優秀で、何よりも日本人は改善・改良が得意である。
ソフトウェアはまさに、改善・改良によって磨かれていくものであり、本来であれば日本人の気質に合ったビジネスのフィールドでもある。インバウンドみたいな過去の遺産にすがりついたビジネスよりも、ソフトウェアで立国する方がずっといい。
たとえば、ピラミッドという世界最強の文化遺産を抱えた観光立国エジプトのGDPは4041億ドルである。GAFAMを構成する重要な企業であるAppleの時価総額は3.07兆ドルである。ソフトウェアの巨人であるMicrosoftは2.64兆ドルだ。
エジプト全体よりも、AppleやMicrosoftなどの一企業の時価総額の方が大きいことに気づかなければならない。インバウンドよりもイノベーションを持った企業の方が巨大になり得る。だとしたら、日本はどちらに向かったらいいのかわかるはずだ。
観光立国《インバウンド》では日本に未来はない。超高度情報化時代なのだからIT産業にベクトルを向け、さらに言えば「ITの頭脳」であるソフトウェアを押さえる必要がある。
日本がそこに国運を賭け、腰を据えて取り組んだら、間違いなく世界を制覇するソフトウェア企業が生まれると思っている。
日本人はどんな些細なものでも、長い時間をかけて、ありとあらゆる部分を磨き上げる。たゆまぬ改善をしていくことで、最後には極上のものに昇華させる。それが日本を救う。ソフトウェアの分野でそれができると私は信じている。
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どれもが最高級の品質となって絶賛されていく
カメラ、フィルム、レンズ、炭素繊維、ファスナー、スナップ・ボタン、ネジ、タオル、工具、刃物……。
日本人は、何気ないものさえも狂気を感じさせるまでに改善・改良し、最終的には最高級の品質にして、世界中から絶賛されるような製品を作り出してきたではないか。
こうした「改善・改良」はトヨタのものがよく知られていて、トヨタの「カイゼン」は国際的に通用するビジネス用語となっている。
しかし、カイゼンはトヨタだけのものではない。多くの日本企業とその経営者は、方向性はトヨタとまったく同じ「改善・改良」にある。
トヨタは、日本人が昔から持っている「改善・改良」を、とことん突き詰めてひとつのビジネス・モデルにして成功した企業だが、それは日本企業の特性であり、日本人の特性である。
逆に言えば、日本人がもっともしっくりくるビジネス・モデルがここにある。「改善・改良」を伴う製品作りとビジネス・モデルは、日本人が自分たちの気質に合わせて無理なく理解できるものなのだ。
ソフトウェアは、そんな日本人にしっくりくるビジネス・モデルを持っている。
MicrosoftもWindowsやOffice製品を何度も何度も改善・改良してビジネスを作り上げてきた。現代の写真文化に欠かすことができないPhotoshopを作っているのはAdobeだが、このAdobeもまたたゆまなく改善・改良を繰り返して生きている企業だ。
Googleも検索エンジンやブラウザをサーバーサイドで頻繁に改善・改良を行っていて、世界最強のソフトウェアを提供している。Facebookも改良に次ぐ改良でSNSの巨人としての地位を保っている。
ソフトウェアは製品を出して終わりではない。そこからがスタートで、いかに人々に継続して使ってもらうのかという部分がビジネスの最重要課題になるのだ。これはまさに日本人が大得意とするところでもある。
ソフトウェア製品は日本人のために用意されているようなビジネス・モデルのようにすら私には見える。しかし、日本人の経営者はまだソフトウェアを重要視しようとしない。下請けかどこかにアウトソーシングすればいいと思っている。大間違いだ。
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その国の民族が得意とするものと苦手とするものがある
頻繁な改善・改良が必要になるソフトウェア製品は日本人に向いている。にもかかわらず、日本政府も日本企業もまったくソフトウェアの分野に視点を向けないし、その重要性を認識しようともしない。
日本人はもっとも得意な部分を軽視して衰退しているとも言える。潜在能力があるのに生かし切れないで衰退している。
一般的な話をすれば、たとえばユダヤ人は金融が得意で、アメリカ人がイノベーションが得意で、日本人がハードが得意である。こうした捉え方は、ややもすればステレオ・タイプであるとしてあまり好まれない。
しかし、それでも全体を俯瞰して見れば、民族特有の「傾向」があるのは否定できない。それはまぎれもない事実だ。その国の文化や国民性や民族気質が、ビジネスの方向性に影響を与えている。
多くの人間は自分の民族性に合ったビジネスの方法論が一番うまく馴染める。それに戸惑わない。そして、一番うまく運用できる。つまり、それが一番成功しやすい。
もちろん民族性がそうだとしても、自分の気質や性格がそれに合わなければそれまでだが、合わないことよりも合うことの方が多い。
日本人は、自分の対象を改善したり改良したりして「良いものにしていく」方法論が一番しっくりと合う。そして、それが日本人に富をもたらしてきた。
だからこそ私たち日本人が自分の人生でもっとも「生きやすい」のは、目標にあらゆる創意工夫・改良・改善を組み込んで、とにかく今よりも良いものにしていくことであると言える。
日本人にとって、改善・改良を重視するのは当たり前だと思うが、当たり前だと思うのは日本人だけで、他の民族はそう思っていない。
たとえば、中国では改善・改良するよりも、今売れているものをパクリ、そこから利益が出すことを優先する。
利益が出れば粗悪品でも何でも良いという発想だ。品質にこだわるのではなく儲けにこだわる。だから粗悪品でも、それが売れるのであれば中国人にとって「良い製品」なのだ。しかし、日本人とはまったく違う。
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民族の気質に合わないやり方はけっして定着しない
世界はグローバル化しており、多くのビジネス・モデルが日本に上陸した。利ザヤを取って儲けるビジネスや、粗悪品を売って儲けるビジネスや、儲かっている会社を買収して自分のものにするビジネス等、いろんなものが入ってきた。
しかし、結局のところ日本人の気質に合わないビジネスは日本では定着しない。無理に、それを日本人が扱ってもうまくいかない。
逆に言えば、日本の狂気のような「改善・改良」を海外に持って行っても、その国の民族に合わなければ、監督をしている日本人がいなくなった時点でそれは消えていき途絶えてしまう。
合わないものは定着しない。それはやがて変質し、その民族の気質にあったものに歪められ、まったくの別物となっていく。日本人ができることが他の民族にできるとは限らないし、定着するとも限らないのだ。
超高度情報化社会は、今後「AI」などのイノベーションによってさらに加速化し、重要性が増す。
「AI」もそうだが、コアとなる部分はソフトウェアである。ソフトウェア製品はより重要な分野になっていく。だから、ソフトウェアを日本の基幹産業に据える発想と決意が政財界にも国民にも必要となるのだ。
かつてドイツ帝国の首相ビスマルクは「鉄は国家なり」と喝破した。今の世界、そして今後の世界は「ソフトウェアは国家なり」なのである。
日本がソフトウェアの重要性に気づいて、官民一体でソフトウェア大国を目指すのであれば、それを成し遂げられる日が来るはずだ。必要とされるソフトウェアを作り、愚直なまでに日本的な改善・改良をしていくことで日本発のソフトウェア製品が世界的に支持されていくはずだ。
観光立国みたいなインバウンドは、過去の遺産で食っていくビジネスである。外国人に来てもらって、国民が外国人に奴隷のように奉仕して食いつなぐビジネスである。そんなビジネスを国が押し進める必要があるのだろうか?
それよりも、超高度情報化社会のトップをつかむソフトウェア産業に目を向けた方がもっと未来がある。今後の社会はすべてソフトウェアによって動く。日本はそこで大きな存在感を持っていなければならない。
日本には、イノベーションがわからない馬鹿な政治家どもの知的能力に合わせるがごとくインバウンドなんか政策を推進してもらいたくない。ソフトウェアの巨大企業を次々と生み出すような国になってほしい。
未来はそちらにあるのだから……。