超高度情報化社会なのに、ソフトウェアを軽視する社会的認識は間違っている

超高度情報化社会なのに、ソフトウェアを軽視する社会的認識は間違っている

「いや、経営者は経営のプロだからプログラムやエンジニアのことなんか何も知らなくてもいいのだ」と多くの日本人は、ソフトウェアにまったく無知な経営者をみんなで擁護してきた。今もそうした空気がある。こうしたソフトウェア軽視が日本のビジネス環境を劣化させているのではないか。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

世界最強の企業であるAppleが成し遂げたものとは?

経済的に停滞していくばかりの日本だが、日本を経済的に復活させるためには新しい時代に即した企業をどんどん生み出していく必要がある。

日本は凋落したとは言えども今も先進国であり、技術的なインフラは整っており、基礎教育もしっかりしており、働く意欲を持った若年層も存在する。つまり、日本は世界最強になる潜在能力はある。

その潜在能力を引き出せるかどうか。それが今後の10年で問われている。潜在能力はどこに向けなければならないのか。

それは、ソフトウェアだと私は心から信じている。

今、世界はGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)が凄まじい時価総額とイノベーションを生み出して世界をリードしているのだが、こうした企業はソフトウェアを中核をした企業である。

Appleはハードウェアの会社のように見えるが、実はAppleの凄さはハードウェアそのものにあるのではなく、ハードウェアと一体化したソフトウェアの側に比重がある。iPhoneやiPadは小さな薄い板であり、この板に精密なディスプレイと高度なCPUが搭載されているのだが、見た目で言うと非常にシンプルだ。

ハードウェアをシンプルにして、このシンプルさの中でありとあらゆる複雑なことができるようにするのがAppleのマジックである。

Appleは世界最強のUI(ユーザーインターフェース)追求企業であり、そのUIの追求によって世界最大の時価総額を誇るようになった。日本人は小さく、美しく、堅牢で、使い勝手の良いものが好きだ。

Appleは、それを具現化させて世界最強の企業となった。言って見れば、Appleは本来であれば日本人が成し遂げなければならない仕事を、代わりに成し遂げた企業であるとも言える。

なぜ日本発のGAFAMは生み出せないのだろうかと私はいつも考える。

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経団連みたいな老人クラブで未来の展望を語る名経営者たち

今もそうだが、日本社会を俯瞰して見ると、日本人はハードウェアには強いのだが、ソフトウェアにはあまり強くない国であるのが見て取れる。製造や素材の分野は非常に強いのだが、それは「ハードウェア」である。逆に、日本では「ソフトウェア」で世界を制した企業を持っていない。

つまり、日本人の「プログラマー起業家」や「システムエンジニア起業家」が、まだ登場していないし、サポートされていないということを意味している。

いや、日本にもソフトウェアの請負会社は山ほどあるし、NTTデータや富士通のようなインフラを制御するようなソフトウェアを構築して成功している企業もあるではないか、と言う人もいる。

しかし、これらの企業はGAFAMとは比べものにならないほど世界に知られていないし、成功もしていない。そして、一般消費者《コンシューマ》向けとして世界に何らかのソフトウェア製品を送り出しているわけではない。

本来であれば、細部に目が届く日本人こそ全世界の誰もが使うソフトウェアを生み出す力があるはずなのに、そうなっていない。

私は、今の日本人がプログラマーやシステムエンジニアの重要性をいまだに認識しておらず、最も重要な部分の重要さをしっかりと認識していないことからきている問題なのではないかと思っている。

つまり、ソフトウェアは現在の超高度情報化社会を担う最重要要素であるという認識が経営者に決定的に欠けているのではないか。そもそも日本の経営者でプログラム言語が語れる経営者がどれくらいいるのだろうか。

経団連みたいな老人クラブで威張りくさって日本の未来の展望を語っている「名経営者」たちで、どのプログラム言語が有望なのか、日本人はどのプログラム言語で製品を作らなければならないのか、そういったことを信念を持って語れる人はいるのだろうか。

そもそも、彼らはUNIXとWindowsとMacがどう違うのか、そこからして分かっているのだろうか。AndroidのAppはどの言語で作られていて、iOSのAppはどの言語で作られているのか、理解して経営を進めているのだろうか?

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超高度情報化社会には最も重要なのはソフトウェアである

「いや、経営者は経営のプロだからプログラムやエンジニアのことなんか何も知らなくてもいいのだ」と多くの日本人は、ソフトウェアにまったく無知な経営者をみんなで擁護してきた。今もそうした空気がある。

日本の官公庁でも大企業でもそうだが、杜撰きわまりない作りで、使いにくいUI(ユーザーインターフェース)の、セキュリティに脆弱性を抱えたソフトウェアが大量に出回っている。

大手のシステム製造企業に何かを依頼しても、その大手の企業が下請けに甘い仕様書でソフトウェアを製造させ、その下請けがさらに中国かどこかに作らせるようなアウトソーシングスタイルを取っている。

無知な経営者は何も判断できないので、ソフトウェアを下に丸投げして、そのソフトウェア企業の社長も自分でよく分からないものだから、さらに下請けに出したり、プログラマーの適当な裁量で作らせたりする。

プログラマーやシステムエンジニアの重要性が認識できていないから、このようなことになっている。このような状態だと、いつまで経っても日本はGAFAMに匹敵するような超高度なソフトウェア企業は誕生しない。

はっきり言おう。経団連みたいな老人クラブがちやほやされる今の日本のビジネス環境では、絶対に日本でGAFAMのような企業は誕生しない。「経営者は経営のプロだからプログラムやエンジニアのことなんか何も知らなくてもいい」と社会が容認している間は、日本のビジネス環境は停滞するしかない。日本はビジネスの分野でも頭を切り替える必要がある。

超高度情報化社会には最も重要なのはソフトウェアである。

ゆえにソフトウェアが分かる経営者が増えなければならない。最も良いのは、プログラマーやシステムエンジニアの地位を引き上げ、役職を引き上げ、収入を引き上げ、企業の要職に就けさせなければならない。

問題をソフトウェアで解決できる環境にしなければならない。ソフトウェアで世界を制覇できるようにしなければならない。企業をソフトウェア志向にしなければならない。プログラマーやシステムエンジニアにどんどん起業させ、資金的にバックアップし、世界に挑戦させなければならない。

社会全体が「超高度情報化社会には最も重要なのはソフトウェアである」という認識が共有できて、この方向にベクトルが向いて日本がいっせいに走り出すと、日本は再び「日が昇る国」となる。

超高度情報化社会なのに、ソフトウェアを軽視する社会的認識は間違っている。

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