Amazon創業者ジェフ・ベゾスCEO退任の衝撃。今後のAmazonの個性も変わるか?

Amazon創業者ジェフ・ベゾスCEO退任の衝撃。今後のAmazonの個性も変わるか?

2021年2月2日。今世紀最強の事業家であると言われているAmazonの創業者ジェフ・ベゾスCEOが、2021年7~9月期に退任することが発表され、世界中に大きな衝撃を与えている。今後のAmazonがどのような変化を伴うのか、人々は注目している。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

Amazonの創業者ジェフ・ベゾスCEOの退任の発表

Amazon・ドット・コム(Amazon.com)という企業は本当に恐ろしい企業だ。今や日本人でもAmazonの名を知らない人間はひとりもいないと言っても過言ではない。

Amazonは言うまでもなく、世界最大のネット・ショッピング企業である。最初は書籍販売から始まったのだが、それだけにとどまっていない。CD、DVD、ゲーム、家電、日用品まで次々と分野を広げている。

インターネットを日常的に使っている人で、Amazonのアカウントを持っていない人はいないのではないか。インターネットを使ったことがない高齢者ですらも、段ボールの梱包でAmazonという企業の存在を知っている。

出版の分野でも、Amazonで本が売れないともはや出版社もやっていけない。さらに電子書籍の分野でもAmazonの行っている「Kindle」は世界最大のシェアを持っていて、今や多くの若者がAmazonで電子書籍を買っている。

音楽や映画のストリーミングもAmazonは強い。Amazonプライムという会員制プログラムに契約すると、映画も音楽も試聴したい放題となり、ストレージも使いたい放題になる上に、配送料も無料になるという凄まじさだ。

このスケールに敵う企業は世界中どこを探してもない。

2021年2月2日。今世紀最強の事業家であると言われているAmazonの創業者ジェフ・ベゾスCEOが、2021年7~9月期に退任することが発表され、世界中に大きな衝撃を与えている。

インターネットで買い物をするというのは今でこそ当たり前なのだが、20年前は当たり前ではなかった。「聞いたことのない会社に金を払って本当に届くのか?」「届かなかったら泣き寝入りになる」と思われた時代なのだ。

そんな時代から、壮大なスケールで倉庫に投資してきたのがAmazonだった。ITバブル崩壊にも生き残り、そして飛躍し、地球を支配する企業に成り上がった。すべてジェフ・ベゾスCEOの手腕である。

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後任は「AWS」を率いてきたアンディ・ジャシー氏に

ジェフ・ベゾスはAmazonから完全に離れるわけではない。今後は「新製品と初期段階にある取り組みにエネルギーを注ぐ」としている。しかしながら、これはAmazonのステークスホルダーを動揺させないための煙幕であるかもしれない。

MicrosoftのCEO(最高経営責任者)を降りたビル・ゲイツの時とよく似ている。ビル・ゲイツも、CEOを離れてもMicrosoftの経営に関与し、技術的な分野で力を注ぐと言っていたが、結局はMicrosoft自体から足を抜いていった。

GoogleのCEO(最高経営責任者)を降りたラリー・ペイジも同じだった。新分野に力を注ぐと言いつつ、創業者の影響力を静かに消していき、Googleからうまくフェードアウトしていった。

そう考えると、ジェフ・ベゾスもAmazonの経営の第一線から離れてしまう動きになるのは間違いない。だから、今後のAmazonがどのような変化を伴うのか、人々は注目している。

後任は「AWS」を率いてきたアンディ・ジャシー氏となる。

「AWS」は「アマゾン・ウェブ・サービス」のことなのだが、クラウド市場においては2019年のデータでも世界シェア45%を掌握する圧倒的な存在感であり、2位のMicrosoftの17.9%を引き離して独走状態となっている。

クラウドの分野においては、Microsoftすら敵わないほどのスケールを持っているのが「AWS」なのだ。これは、ジェフ・ベゾスが採算度外視の強烈なまでの設備投資を先行して行ってきた結果が出ている。

実のところ、Amazonはインターネットの小売販売で成長しているのではなく、AWSで成長している企業である。この「AWS」を率いているのがアンディ・ジャシー氏なので、ジェフ・ベゾスの後任としては最適解であったとも言える。

ビル・ゲイツが引退したMicrosoftも、スティーブ・ジョブズが死去したAppleも、ラリー・ペイジがいなくなったGoogleも、うまく運営されている。

そうであれば、ジェフ・ベゾスが第一線を離れてもAmazonは恐らくビクともしないのではないか、というのが大方の予想でもある。

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 「Amazon銀行」の誕生も噂されているが……

Amazonが今後も巨大成長ができるかどうかは分からない。すでにAmazonは超巨大企業である。小さな企業が大きな成長を手に入れるのと、すでに大きな企業がもっと大きな成長を手に入れるのとでは難易度はまったく違う。

そういう意味で、Amazonの今後の成長がどうなるのかは未知数ではある。今後もAmazonは新規分野を開拓して成長していけるのだろうか。そもそも、どのような分野でAmazonはさらに巨大化できるのか。

Amazonは今も、薬の販売や銀行・決済分野まで次々と新しい分野を取り込もうと画策している。

「Amazon銀行」の誕生も噂されているが、ありえないことではない。

Amazonはすでに有料のプライム会員を1億5000万人も抱えている企業である。これらの会員に銀行口座を持たせたら、一瞬にして1億5000万人の口座を持つ巨大銀行が登場することになる。

1億5000万人というのは日本の人口よりも多いのだ。みずほ銀行の個人顧客の口座数が約2400万、三井住友フィナンシャルグループの個人顧客の口座数が2700万口座であるのを考えても、Amazonが銀行業に乗り込んだらどれだけ巨大メガバンクになるのか想像できるはずだ。

しかしながら、Amazonの長期投資は今後も読みにくいものになるはずだ。

Amazonの強みは、利益度外視で革新的な技術やサービスを次々と取り込んでいくことだ。そのため、会社の利益を見てそれがいくら積み上がるのかを見て投資する長期投資家には、Amazonという企業はなかなか投資しにくい。

何しろ1995年から2002年まで営業利益率はずっとマイナスを這っており、2002年からやっと黒字になっているのだが、それでも今日まで一度も営業利益が10%を越えたことがないのがAmazonという企業の特徴である。

ここ10年を見ても、5%を越えたことは一度もない。0%から3%をうろうろしている。売上は右肩上がりで凄まじく伸びているのだが、それを利益につなげない。

これは「利益が出ない体質」なのではなく、Amazonはジェフ・ベゾスCEOの方針として「わざと利益を出さない経営をしている」ということであると理解しなければならない。

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今後のAmazonはアンディ・ジャシーの個性に変わっていく

Amazonは、本来であれば利益になるキャッシュを、すべて先行投資や設備投資として回して規模の拡大を極限まで伸ばす体質だ。ライバルが追いつけないほどの、壮大なスケールで先行投資を行う。

つまり、Amazonはジェフ・ベゾスの拡大路線が完全にうまくはまって規模を膨らませている企業であり、創業から現在までずっと「規模の拡大」路線で突き進んでいる企業なのだ。巨大なのだが、まるでベンチャー企業さながらである。

Amazonは意図的に利益を押さえている。GAFAを構成する企業の中で、Amazon一社だけが、まるで1990年代後半のドットコム・バブルがそのまま継続しているかのように見える。それがAmazonの戦略なのである。

Amazonは「利益率を意図的に1%や2%に抑えて規模の拡大に邁進している」ので、その経営姿勢から見ると株価収益率はどうしても異常値になってしまうのである。そういう企業なのだ。

創業者ジェフ・ベゾスはそのようなやり方で突っ走ってきた。しかし、2021年2月2日。いよいよジェフ・ベゾスはAmazonの一線から足を引くことを発表した。

アンディ・ジャシーをトップに迎えるAmazonは、今後も拡大路線をひた走って企業規模は膨らんでいくのか。それとも、「守りの経営」に入っていくのか。それはまだ何とも言えないところだ。

しかし、トップが変わると会社の個性も変わる。徐々にトップの個性が反映されるようになっていく。それは世の常だ。今後のAmazonはアンディ・ジャシーの個性に変わっていくことになる。

是となるか、否となるか。

Amazonがどのような企業になっていくのかが明確に分かってくるのは、恐らく数年後のことになるだろう。世界を変えてしまうほどの影響力を持った超巨大ハイテク企業であるAmazonの今後の行方に注目していきたい。

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