「先のことはわからない」といっている人のほうが世の中を「わかっている」理由

「先のことはわからない」といっている人のほうが世の中を「わかっている」理由

環境や、社会や、市場環境で、常に予期せぬ出来事が起きて人々を動揺させる。多くの専門家がいろんな分野で、いろんな未来を、したり顔でいろいろなことを予測する。しかし、それらの予測は「絶対」ではない。世の中は右でも左でも、上でも下でも大きくブレる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

死刑囚であっても「突然の死」は非常に恐怖

2021年11月4日、二名の死刑囚が、国に対して「死刑執行を死刑囚に当日告知する運用は憲法に違反し非人道的」として、精神的苦痛への慰謝料計約2千万円の支払いなどを求め、大阪地裁に提訴するという出来事があった。

2024年4月15日、大阪地方裁判所はこれを「原告の死刑囚は、当日告知を前提とした死刑執行を受け入れなければならない立場である」として、訴えを退けるという結果となった。

この出来事は、死刑囚であっても「突然の死」については非常に恐怖であるという心理的葛藤を浮き彫りにしたことで興味深い。「昨日まで生きていたのに、今日突然死ぬ」というのは、誰にとっても大きな恐怖なのだ。

私たちが漠然と信じているものは、何も根拠がないことのほうが多い。自分があと何十年も生きると根拠もなく思うのもそうだ。とにかく、「今日や明日に死んでしまう」というのはあり得ないと考える。昨日は生きていたし、今日も生きているので、明日も生きていると無意識に思う。

しかし、生きている存在はいつか死んでしまうのは100%確実である。それが、今日であっても不思議ではないのが人生だ。あと数時間後に、何かが起きて死ぬ可能性さえある。それは突然やって来る。

たとえば、日本はとても安全な国であるといわれているが、それでも年間で60万件から80万件の交通事故が起きており、その死者も少なくとも3000人以上になる。

10年前は8000人を超えていたことを考えると、事故死はかなり減ったが、それでも数千人が「突然」命を落としているのだから、けっして少ない数ではない。2023年交通事故死者数は2678人だった。

事故死した人たちは「今日、自分が死ぬ」とは想像すらしていなかったはずだ。その家族も同じだ。それは、いきなり巻き込まれる性質のものであり、予期することはできない性質のものだ。

事故だけではない。突発的に襲いかかって命を奪う病気も珍しくない。急性心筋梗塞、狭心症、心不全など心臓病は、突然死を引き起こしやすい。クモ膜下出血、脳出血、脳梗塞、大動脈解離等で突然死を起こす人も少なくない。

ちなみに、死刑囚は刑の執行の1、2時間前に告知されることになっている。いつその日がくるのか、わからない。

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何かが起きて思い込みはあっさりと覆されていく

今後、自分の身に何が起きるのかは、自分自身にもわからない。明日の自分のことさえもわからないのに、他人のことがわかるはずもない。将来は常に不確実であり、不安定であり、流動的である。

だから、環境や、社会や、市場環境で、常に予期せぬ出来事が起きて人々を動揺させる。多くの専門家がいろんな分野で、いろんな未来を、したり顔でいろいろなことを予測する。しかし、それらの予測は「絶対」ではない。

世の中は右でも左でも、上でも下でも大きくブレる。予測もしない事件が突如とやってきて今までの状況を何もかも変えることもある。

あり得ないと思っていても、100%でなければどこかで起きる。これだけ科学が発達した今でも地震予測はまったくできないし、昨今は「地震など来ない」といわれているところでも地震が起きるようになっている。

能登大地震は2024年1月1日に起きたのだが、人類にとっては1月1日は年号が変わる特別な日であり、新しい年を迎えることによる希望や平和を象徴する日である。そんなときに、大災害が襲いかかるとは「ありえない」ようにも思える。しかし、確実なことは何もない。

起きる前は「あり得ない」と思っていても、何かが起きて思い込みはあっさりと覆されていく。

昨今では、2020年から2023年までの全世界に広がったパンデミックや、ウクライナとロシアの戦争、イスラエルとパレスチナの戦争など、不意に起こった出来事が世界を震撼させ続けている。

2020年のパンデミックは、それが起こるまで全世界が中世のペストみたいなものに覆い尽くされるとは誰も思わなかったはずだ。パンデミックは2019年までは、とても非現実的な感じがしていた。

しかし、それは全世界を覆い尽くしてグローバル経済や人々のライフスタイルに大きな脅威をもたらした。この数年間の人の姿の消えた大都会の光景は、とても異様なものでもあった。

そんなパンデミックの中で、突然亡くなってしまった人も多い。

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あり得ないと思っても、起きるときは起きる

人間は誰でも死ぬ。そんなことは誰でも知っている。しかし、それでも「明日死ぬ」と思っている人はほとんどいない。「1週間以内に死ぬ」と思っている人もほとんどいない。「100日以内に死ぬ」と思っている人もほとんどいない。

逆にほとんどの人は「あと10年以上は生きていられるだろう」と思う。少なくとも「まだ死なない」と考える。いつか死ぬのはわかっているが、それはずっとずっと先だと思う。人間は、「自分が死ぬ」というのが実感できないのだ。

人生100年時代とかいわれると、錯覚で自分まで100歳まで生きられるような気になる。私たちは今までずっと生きていたので、「明日も生きている可能性が高い」と無意識に考えてしまうのだ。

100歳は無理にしても、日本人の平均寿命は80歳なので、だいたいそのあたりまで生きられるのではないかと、誰もが淡い期待を持つ。しかし、平均寿命というのはあくまでも平均である。

実際に自分がそこまで生きられる確証があるわけではない。もしかしたら、明日にもあり得ないことが起きる可能性がある。誰かに殺されるかもしれない。交通事故かもしれない。病気による突然死かもしれない。あるいは、想像もしなかった他の何かかもしれない。

日本人なら、いつか南海トラフのような巨大地震に巻き込まれるだろう。日本は北米プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、太平洋プレートが重なり合った危険な陸地であり、世界中で類を見ないほどの地震が起きる国である。

いつ巨大地震に襲われるのかわからない。南海トラフが大きく動いたら、東京・大阪・名古屋の大都市も壊滅的な打撃を受けて、約32万人以上が犠牲になってもおかしくない規模なのだ。

あり得ないと思っても、起きるときは起きる。今まで起きなかったからこれからも起きないというのは希望であって事実ではない。

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将来を正確に予測することは、けっしてできない

別に「いつ来るかわからないもの」に怯えて毎日を暮らす必要はないが、「自分はずっと死なない」というのは幻想であるのは理解しておかなければならない。自分という存在は、意外に不確実な中で生きているのだ。

もっともらしく何かを預言している人には気をつけなければならない。世の中には、常に何か未来を予知できているような発言をしている人はいるが、間違いなく詐欺師である。

宗教的な人や、スピリチュアルやオカルトが好きな人の中には、本当に預言者がいるとか信じている人もいる。実際、いろんな人がいろんなことを毎日のように「預言」している。しかし、その99%は外れて忘れられていくのだ。

毎日毎日「何かが起きる、絶対に起きる」といっていたら、そのうちに「たまたま」何かが起きて当たることもある。だから、預言や予測が「正確に当たった」ように見えるのだが、実は当たっていない予言や予測の99%は忘れられているだけなので、本当は数を打っているだけなのだ。

いろんな人がいろんなことをいって、たまたま当たった人がクローズアップされて、あたかも預言者が本当に存在するかのように見える。統計のマジックがそこにあるに過ぎない。

歴史を見れば将来がわかるという人もいる。しかし、歴史と同じ通りになる未来などひとつもない。同じようになることもあるが、同じにならないことも多い。

そもそも、これから何が起きるのか決まっているわけではないので、結論が決まっていないものに対して「正確にわかる」と思うほうがどうかしている。

世の中を完全に見極めたり、制御できる人間はこの世のどこにもいない。仮に、世の中が読めたと感じても、突発的な予期せぬ事件が不意にやって来る。2020年のパンデミックによる激変も2019年に予測していた人はひとりもいなかった。

結局、次に何が起きるのかは誰にもわからないのだ。

世の中は常に不測の事態の積み重ねで成り立っているものだと私は考えている。誰に聞いても、明日のことなど絶対にわからない。明日は何か起きるかもしれないし、起こらないかもしれない。

もちろん、株価の動きも正確にわかるわけがない。いつも、大暴落がくるとかこないとか、大暴騰がくるとかこないとか、そういうのを毎年いっている人もいるのだが、そんなに確信があるのなら、その人は今ごろ世界最大の金持ちになっているはずだ。

なっていないということは、ニセモノだということでもある。ちなみに、世界最強の投資家であるウォーレン・バフェットは「株価の動きはわからない」と素直にいっている。「先のことはわからない」といっている人のほうが、世の中を「わかっている」と私自身は思っている。

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