資産がない高齢者が「ゼロで死ぬ」を目指すと、あっという間にカネを使い切る。だから、ほとんどの人は「ゼロで死ぬ」なんか目標にしてしまうと「マイナスで生き残る」になってしまう。もともと資産が足りない人は「ゼロで死ぬ」前に「今も足りない」のである。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
日本が劣悪な国になるのであれば社会保障も劣悪に
「もう年金はアテにならないので、老後は2000万円くらい貯めておけ」というのは常識のように言われるようになってきているのだが、日本人で2000万円以上の資産を保有する60代の世帯は、2人以上の世帯で約30%、単身世帯で約20%である。
言ってみれば、60代以上の世帯の70%近くは2000万円の資産を持っていない。
結局、それではどうするのかというと、貯金のない60代は2つの選択を同時にするしかない。それは「働き続ける」のと「ダウングレードする」の2点である。恐らく今後はほとんどの日本人は嫌だろうが何だろうが、この2つを強いられることになる。
日本政府は日本を経済成長させる能力がないので、今後も日本は経済的に弱体化する一方だ。税金も何やかやと言いながら上がっていくのは確実だ。社会保障も劣悪になっていくだろう。なぜ社会保障が劣悪になるのか。それは日本が経済的に見て、もっと劣悪な国になるからだ。
これまで30年も経済成長ができない政治が続いた。しかし、岸田政権も日本を成長させる能力はないので、日本国民から見捨てられて支持率も激減している。間もなく自民党本体も見捨てられる。
しかし、野党は受け皿にならない。そのため政治が見苦しいほど混迷する。そうしているうちに、ますます日本の経済が弱体化する。最終的に日本は先進国から滑り落ち、日本人の総貧困化が実現する。
こういうシナリオに向かっているのだが、最終的に日本がもっと劣悪な国になるのであれば社会保障も劣悪になるに決まっている。肝心の年金も、本当にアテになるのかどうか誰もが猜疑を持つようになってきている。
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「ゼロで死ぬ」を目指したら危険なことになる?
最近、ビル・パーキンス氏の『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』という書籍が非常に話題になっていたので私も読んでみた。
実は、私自身は自分の寿命を「74歳まで」と決めている。(ブラックアジア:「1日でも1分でも1秒でも長生きした方が幸せ」と人生を考えるのは浅はかだ)
死ぬ年齢が決まっているのであれば、資産ゼロにして使い切って死ぬのを目指しても構わないのだが、別にカネを使いまくりたいほどの物欲があるわけでもないし、今でもやりたいことをやっているので私がゼロで死ぬことはないだろう。
「ゼロで死ぬ」は考え方としては面白いが、重要なメッセージはそこではなく、「カネを貯めすぎるよりも想い出に残る体験をたくさんした方が良い」という部分にある。
「ケチケチしすぎて死ぬ間際までカネを貯めても虚しいでしょう。それよりは身体が動くうちに想い出作りをした方が有意義ですよ」というのが『DIE WITH ZERO』のテーマであった。
基本的にこれは資産2000万円以上を持っている高齢者のための本であって、資産が明らかに足りない70%の世帯は読む必要はない。資産がない高齢者が「ゼロで死ぬ」を目指すと、あっという間にカネを使い切る。
だから、ほとんどの人は「ゼロで死ぬ」なんか目標にしてしまうと「マイナスで生き残る」になってしまう。もともと資産が足りない人は「ゼロで死ぬ」前に「今も足りない」のである。
現実を見ると「ゼロにならないようにもがく」必要があるということだ。
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老後資金が尽きたらもう最悪なことになる
政治が無能なせいで日本が劣悪な国になっていき、年金もアテにならなさそうな状況になりつつあり、定年後はどのように生きたら良いのか、誰もが悩んでいる。
年金がアテにならないのであれあば、資産2000万円に到達している層も将来が不安すぎて「もっと働いたほうがいいのではないか?」と考えたりするような時代になっている。
「人生100年時代」という長寿化の傾向もまた不安を掻き立てるばかりだ。日本人の健康寿命は男女共に70代の前半なのだが、その後に老後資金が尽きたらもう最悪なことになる。
働くこともできない上に、年金も雀の涙程度になっていたら、極貧の老後になってしまう。ある意味、それは多くの人にとって恐怖以外の何者でもない。「いっそのこと、安楽死を合法化してくれ」と叫ぶ人もいるくらいだ。
年金の受給開始年齢は原則的に65歳なのだが、医学がもっと発達して人生100年時代になったらこれが70歳だとか75歳にずらされてしまうのも必然だろう。
年金の支払いのほうは60歳から65歳になるギリギリまで延長することを日本政府は検討を開始しているので、支払いも受け取りもどんどん後に延ばされることになるはずだ。政府が「年金を払いたくない」と意思表示しているということである。
年金に関して言えば、60歳から64歳で受け取りを開始することを「繰り上げ受給」と呼び、66歳から75歳で受け取りを開始することを「繰り下げ受給」と呼ぶ。
政府があまりにも年金を払い渋っているので、「こうなったら早めにもらったほうが得だ」と考える人もいるのだが、年金が早くもらえる分だけ受給額は減らされて24%の減額となる。
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結局、年金は何歳からもらうのが一番いいのか?
60歳で2000万円以上もの資産がある人ならば、資産を取り崩すことも考えて60歳で年金をもらっても問題ないかもしれないが、90歳以上生きれるような慎重な人が60歳から年金をもらいはじめると一生24%減額された額なので苦しいかもしれない。
では、75歳までギリギリまで繰り下げしたほうがいいのかと言えば、日本社会の衰退で年金がアテにならず減額されているような悲惨な状態になって繰り下げした意味がなくなるかもしれない。
あまりにも不透明だが、そうであればどちらが合理的なのか。
真面目で、酒もタバコもやらず、健康に気を遣っていて、身体もほどほどに丈夫で、人生に波風立たない平穏な人は、恐らく長生きできる。そういう真面目な人は恐らくコツコツと資産も貯めてきたと思う。こういう人は間違いなく年金は繰り下げ受給したほうがいいようにも見える。
逆に、酒もタバコもやりたい放題で、健康なんかクソ食らえで、リスクある人生を送っている人は、たぶん早く死ぬので、資産がなかったとしても繰り上げ受給したほうがいいように思える。
ただし、真面目な人は真面目すぎて精神的にやられて早く死ぬかもしれない。酒もタバコも何でも来いの人でも、老いたら量が減ってしまい、意外に長生きしてしまうかもしれない。
マーフィーの法則ではないが、人生は往々にして思ったことと逆のことが起こりがちなので、こればかりは何が正解と言えない。
そのため、もしもらえる年金で手痛い失敗をしたくないのであれば、どっちにしても良くも悪くもない平均点である「65歳」でもらうというのが一番無難であるということが言える。
社会保障は劣悪になっていくばかりで年金制度も揺らいでいるのだが、それでも想像以上に粘ることもあるかもしれないので、普通に65歳でもらうというのは平均点を取るという意味でも有用だ。
いろんな事象が起こり得るのだが、結論を言うと、老後の資産管理について100%正解に辿り着けるのは、自分で自分の寿命を「ここまで」と決めている人だけなのだ。
寿命を自分で決めていて、本当にその年齢で死ぬことができるのであれば、「ゼロで死ぬ」も実現できるし、年金を繰り上げたほうがいいのか繰り下げたほうがいいのかもわかる。そうでないのであれば、得も損もしない平均を狙ったほうがいい。それが一番合理的だ。
ちなみに74歳で死ぬのであれば繰り上げ受給したほうが得になる。