日本の復活は半導体と共にあり。今後は半導体に国運を賭けるのが正しい戦略だ

日本の復活は半導体と共にあり。今後は半導体に国運を賭けるのが正しい戦略だ

半導体セクターは日本経済が真の意味で復活できるかどうかの重要な「国家戦略セクター」であるといっても過言ではない。半導体を制する国が次の時代を制するのだ。それがわかっているからこそ、世界は半導体に莫大な投資をしている。日本が国運を賭ける分野がここにある。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

半導体を制する国が次の時代を制するのだ

アメリカの株式市場だけでなく、日本の株式市場も上昇基調にあるのだが、その背景には人工知能(AI)をめぐる期待と熱狂がある。OpenAIが展開するChatGPTによって一気に爆発的な流行を見せたAIだが、これが生産性向上のパラダイムシフトになるのは、もはや否定する人はいない。

このAIの頭脳となっているのが半導体なのだが、すでに世界は半導体をめぐって激しい競争が湧き上がっている。半導体セクターで考えると、実は日本も大きな技術的アドバンテージを持っている。

なぜなら、日本は半導体製造装置で圧倒的なシェアを誇っているからだ。東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREEN、コクサイエレクトリック、信越化学工業、SUMCO、ディスコ、レーザーテック、ローム、東京応化工業、マクニカHD、TOWA……と、重要な企業が日本に目白押しである。

日本企業なくして最先端の半導体を製造することが不可能だといってもいい。

だからこそ、マイクロソフトも日本国内に4400億円を投資し、アマゾンも日本に2兆円を投資し、TSMCは日本に巨大な工場を建て、OpenAIはAI半導体で日本勢と連携を模索している。

半導体セクターは日本経済が真の意味で復活できるかどうかの重要な「国家戦略セクター」であるといっても過言ではない。半導体を制する国が次の時代を制するのだ。それがわかっているからこそ、アメリカ政府も半導体に莫大な投資をするようになっている。

たとえば、アメリカ政府は2022年に自国での半導体生産を促す「半導体補助金法案」を成立させているのだが、それに合わせて半導体セクターには多くの「半導体補助金」を出している。

2024年3月20日にも、インテルに最大85億ドル(約1.3兆円)の補助金を支給すると発表した。それに合わせて110億ドルの融資も実行して半導体の製造を国家的に支援する。

【金融・経済・投資】鈴木傾城が発行する「ダークネス・メルマガ編」はこちら(初月無料)

半導体は次のパラダイムシフトの中心である

アメリカ政府は、中国を激しく敵視している。アンフェアな手口で世界中から知的財産を盗んで自国の企業を成長させる中国のやり方に対して、アメリカ政府はすでに何年も前から中国を「敵国」として認識するようになっている。

これまで、よりによってこの中国に半導体の生産拠点があったわけで、これだと中国に最先端の半導体技術を盗まれ放題となる。だからこそ、半導体補助金法案でファウンドリ(半導体デバイスを生産する工場)をアメリカに戻し、対中輸出規制を強化して中国に技術がわたらないようにしている。

対中輸出規制については自国同盟国である日本・オランダ・韓国・ドイツに対しても中国に対しては厳しく制限するように求めている。

これほどまでアメリカが半導体の「防衛」に躍起になっているのは、裏を返せば半導体こそが次のパラダイムシフトの中心であるからでもある。

未来がかかっているので、アメリカは絶対にここで中国に負けるわけにはいかない。ここで負けたら、アメリカは完全に中国に敗退してしまう。そのため、アメリカは半導体の製造でキーパーソンとなっている日本との関係をより深めようとしている。

日本政府も半導体の重要性を認識している。2022年12月には日本政府はいくつかの物資を「経済安全保障推進法の特定重要物資」として指定したのだが、その中のひとつとして半導体を対象にしている。

実際、日本政府は半導体に4兆円ちかくの予算を投じているのだが、その中にTSMCの熊本第1・第2工場の最大1兆2080億円の補助も含まれている。TSMCは台湾の企業だが、世界で最強の半導体ファウンドリ企業である。

この企業を誘致することによって、半導体のエコシステムを日本で構築して日本を「半導体列島」にする。今後、世界の半導体産業は現在の65兆円から100兆円に拡大する可能性があり、次の10年は半導体が産業の中心になっていくのだ。

日本を半導体列島にするための投資は惜しむべきではない。大阪万博みたいなお遊びと違って、半導体は日本の命運がかかっている。

大阪万博には3000億円以上も注ぎ込まれているが、こんなくだらないものにカネを出すより、半導体に投資したほうがよっぽど日本にとって実りがある。

【ここでしか読めない!】『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』のバックナンバーの購入はこちらから。

2022年に立ち上がった「ラピダス」で最先端へ

すでに日本の半導体事業は、アメリカ・中国・韓国・台湾に遅れを取っている。これを全力で取り返すためには、もはや悠長に一企業の成長を待っていられない局面になっている。

そこで、2022年に立ち上がったのが「Rapidus(ラピダス)」である。トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行の8社が出資して、一気に2nmプロセスの半導体の開発を目指す。

半導体は微細化されればされるほど多くの素子を搭載できて演算処理性能が高まる。そのため、いかに微細化できるかで全世界で技術競争が起きているのだが、2nmプロセスは最前線である。

ラピダスがこの2nmプロセスの半導体の開発に成功したら、半導体の性能は一気に2倍近くになる。日本は一気に半導体競争のトップに躍り出ることになる。

2nmプロセスが成功したら、次は1nmの攻防となるはずだが、ラピダスがその最前線で成功することができたら、日本の製造業は韓国サムスンや台湾TSMCを追い抜いて、名実ともに復活することになる。

TSMCは熊本に工場を設置したが、ラピダスは北海道に工場を建設中だ。予定としては2025年4月に建設が終了して稼働していくことになる。

工場の建設を担っているのが鹿島建設なのだが、鹿島建設はTSMCの建設でノウハウを得ている。TSMCの工場の誘致で、建設にもノウハウが蓄積されて次に活かされている。

ちなみに、日本政府はこの工場の建設などに3300億円の支援を決定している。さらに、2024年に入っても最大5900億円を追加支援を決めた。

2024年4月、ラピダスはシリコンバレーに営業拠点を構えたのだが、ここにはGPUで世界を制したエヌヴィディアや、CPUの王者であるインテルがいる。そして、無数のAI新興企業がひしめいている。

ラピダスがここで足がかりを得られるようになれば、面白い展開になっていく。ただ、知名度はほとんどないに等しく、どこまで半導体市場で足がかりを得られるのかはまだ未知数でもある。

ダークネスの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』

半導体に国運を賭けるのが日本の正しい戦略

世界は、「AI」を中心にして大きなパラダイムシフトが起きようとしているわけで、その主要プレイヤーとして日本が台頭していく可能性は大いにある。

アメリカはかつて日本を脅威と見なして日本の半導体セクターをつぶしにかかったこともあったのだが、今回は半導体をめぐってアメリカと日本は密接に協力し合う関係であり、日本の半導体セクターの復活には現実味がある。

米中対立によって、日本は明確に中国を捨て、アメリカと組んだほうがメリットがあることが見えてきたのが、半導体での日米の協調である。これはこれは単なる経済協力にとどまらず、新たな地政学時代の到来を告げる重要な動きである。

中国はアメリカの強烈な規制強化の中であっても、ファーウェイやSMICなどは今もなお最先端の技術でアメリカに対応しうる能力があることがファーウェイの最新スマホなどでわかっている。

この中国に対抗するために、アメリカは日本の協力が欠かせない。

日本は、半導体材料や製造装置において世界トップレベルの技術力を持っており、一方でアメリカは、設計やソフトウェア開発において優位性を有している。両国の強みを組み合わせることで、より強固な半導体サプライチェーンを構築することが可能になる。

米中対立は今後も激しいものになっていく。日本は明確に中国を切り捨てて、アメリカと協力することによって、ふたたび世界に台頭すべきだ。それだけの能力が日本にはかろうじて残っており、これを逃したら日本の成長はない。

インバウンドだとか万博だとか、そんなものはどうでもよくて、半導体に国運を賭けるのが正しい戦略であるといえる。

邪悪な世界のもがき方
『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』

鈴木傾城のDarknessメルマガ編

CTA-IMAGE 有料メルマガ「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」では、投資・経済・金融の話をより深く追求して書いています。弱肉強食の資本主義の中で、自分で自分を助けるための手法を考えていきたい方、鈴木傾城の文章を継続的に触れたい方は、どうぞご登録ください。

テクノロジーカテゴリの最新記事