人々はまだ気づいていないが、今後AI(人工知能)と原子力発電は一心同体となる

人々はまだ気づいていないが、今後AI(人工知能)と原子力発電は一心同体となる

AIを駆動するためには巨大なデータセンターが必要だ。そして、そのデータセンターは電力を爆食いする。この電力を安価で安定的に供給するためには原子力発電が必須となる。今後AI(人工知能)と原子力発電は一心同体となっていく可能性がある。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

原子力発電を有する企業の株式は「買い」

世界の電力消費の約2%をデータセンターが占めている。この割合は、米国では総電力需要の約8%を占めるようになっていく。さらにデータセンターの電力消費量は4年ごとに倍増するという試算もある。

このデータセンターの需要の背景には、もちろんAI(人工知能)の需要拡大がある。

人工知能がコンピュータやインターネットやスマートフォンと同様に、文明を根底から変えてしまう凄まじいイノベーションである。

このAIは人間と対話するために、莫大なデータを飲み込み、解釈し、返答する作業を超高速で行う必要があるのだが、そのために巨大なデータセンターが必要不可欠になっているのだ。

現在、マイクロソフト、グーグル、メタ・プラットフォームズ、アマゾンなどのメガテックがこうした巨大データセンター(ハイパースケール・データセンター)を建設しているのだが、そこで起こっているのが莫大な電力消費である。

問題はそれだけではない。電気自動車(EV) も充電のための電力需要が高まり、発電量を増やす必要が出てくる。EVがガソリン車に取って変わるのかどうかは別にして、EVの普及が進んでいくのは間違いない。電力使用量はここでも増加する。

さらに、気候変動の影響で、今後もエアコンなどの需要も増えていくわけで、こうしたところからも電力が大量に消費されることになる。企業の電力消費量も増える一方で減ることはない。

現代文明は、この電力をどうやってまかなうのかが問題になってきている。太陽光発電のような再生可能エネルギーだけでは、この増大していく電力消費量に対応することができない。

そこで、長らく見捨てられていた原子力発電に焦点が当たっている。原子力発電は安定的な基盤電源として、増大する電力需要に対応できる。

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人工知能と原子力は今後は一心同体となっていく

投資の観点からいうと、原子力発電を有する企業の株式は「買い」ということになる。実際、アメリカではすでに原子力発電所を所有する電力企業の株価が猛烈な勢いで上昇している。アメリカでは主に次の2つの企業が注目されている。

コンステレーション・エナジー:CEG
ビストラ:VST

この中でも、とくに投資家の注目を浴びているのが原子力発電を主力事業として、既存の原子力施設に加え、次世代型の小型モジュール原子炉の導入も進めているコンステレーション・エナジー(Constellation Energy)である。

現在、イリノイ州にドレスデン原子力発電所を2基所有している。このコンステレーション・エナジーの株価を見ると、2024年2月の後半から火を噴いたように株価が上昇しているのが見て取れる。

ビストラ(Vistra Corp)は天然ガス、石炭、太陽光、風力など、再生可能エネルギーを手広くやっている中で、原子力発電所も所有している。原子力発電については、子会社ルミナント社を通じて、コマンチェピーク原子力発電所を所有している。

2024年2月から株式が爆騰しているという点では、ビストラも同様である。

これは、まさに電気を爆食いするデータセンターが、どんどん建設されていくことから、「この電力需要をまかなうために原子力発電所が必要不可欠になっている」ことが認識されたからに他ならない。まだ人々は気づいていないが、人工知能と原子力は今後、一心同体となっていくはずだ。

コンステレーション・エナジーのジョー・ドミンゲス最高経営責任者はブルームバーグのインタビューに答えているのだが、原子力発電所が現在、非常に重要になってきている点について、このように答えている。

「アメリカにはベースロード電力(安価で安定的な電力源)が必要という認識が高まっている。家庭や企業のために、24時間365日稼働する電力が必要だ。電気は風が吹いているときや、太陽が出ているときだけ電力が必要なわけではない。現実には、信頼できる電力が必要になる」

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ベースロード電力=安価で安定的な電力源が必須

アメリカでは、テキサス州でも、カリフォルニア州でも、爆発的に需要が増えていく電力消費量にしばしば停電の危機にさらされている。

また、アメリカだけではなく、たとえば日本でも原子力発電所を停止してから電力消費の増大に供給が追いつかなくなりつつある。日本では再生可能エネルギーを促進するといって山の木を伐採してメガソーラーを建設しまくって、逆に環境破壊を引き起こして問題になっている。

これはすなわち「安価で安定的な電力源」が足りていないということを意味する。コンステレーションのドミンゲスCEOは、まさに原子力発電所こそがベースロード電力の主役であることを強調する。

「原子力発電所は毎回、窮地を救ってきた。そしてそれは持続可能な電力源である」

たしかに原子力発電所には大きな問題がある。チェルノブイリや福島のような大惨事が引き起こされると目も当てられないことになる。さらに、核燃料再処理なども研究が必要だ。

しかし、飛行機が落ちたら大惨事になるから飛行機は禁止するというのは文明の後退であるのと同じく、原子力も「注意深く運用する」ことによってリスクを抑えてメリットを引き出すことができると考えられている。

実際、原子力発電に関しても小型原子炉などのイノベーションの波が起こっており、興味深いことにビル・ゲイツやOpenAIのサム・アルトマンCEOが、こうした分野にも大きな関心を寄せて実際に投資資金を出して開発を支援している。

ハイテクの巨人たちが原子力発電に大きな関心を持つのは当然のことで、ハイテクのイノベーションには「ベースロード電力=安価で安定的な電力源」が必須であることを彼らは痛感しているからでもある。

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データセンターと半導体と電力を制するアメリカ

AIがハイパースケール・データセンターを必要としており、ハイパースケール・データセンターは莫大な電力を必要としており、その電力は安価でクリーンでなければならない。

とすれば、今後の電力は「原子力発電」がメインになっていく。

今後、原子力発電への需要が高まるにつれて、この原子力発電の分野でも大きなイノベーションが生まれていくことになるはずだ。大惨事を防止するために考えられているのが原子炉の小型化である。

炉心サイズが小さいために地震や津波などの外部災害による損壊リスクが低くなる。従来の原子力発電所と比べて構造が簡素であるため、事故発生時の状況把握や対応が容易になる。

さらに、停電や冷却水喪失などの事故発生時には物理法則を利用して炉心を冷却するパッシブセーフティ機能が強化される。ただ、小型原子炉がすぐに取り入れられないのは、まだまだコストが高くつくからである。

しかし、AIによって高まっていくベースロード電力の必要性が、この分野のイノベーションを加速させていき、原子力発電の安全性も向上していくことが期待されている。

こうした観点から、今年2月頃から原子力発電に関する高まりが株価に反映されるようになってきている。

AIは今後はパッケージ化されて、政府や行政や個人がそれぞれの範囲の中で使用するようになっていく。そのため、ハイパースケールのデータセンターと、AIにチューニングされた早い半導体と、安定的な電力が必須であり、これを制した国家が次の時代でも生き残ることになる。

日本は技術がまだ生きている。しかし、政治家も国民もイノベーションには積極的ではないし、原子力発電にもアレルギーがあるし、政治家もハゲ山メガソーラーで電気は何とかなると思っているようなので、せっかくの潜在能力は活かされないかもしれない。

一方で、アメリカは人工知能と原子力は今後は一心同体となっていくことを理解しており、AIのみならず原子力発電に関しても積極的に先手を打っている。コンステレーション・エナジーやビストラが、AIと共にどれくらい伸びていくのか注目に値する。

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