株式市場の世界から見ると、現時点で「人工知能バブル」を享受して売上や株価に反映されている巨大ハイテク企業は、Microsoft、Google、NVIDIA、AMDなどが筆頭になっている。しかし、人工知能のイノベーションと進撃は始まったばかりだ。これから面白くなる。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
Microsoftは人工知能企業となろうとしている
2024年1月24日、Microsoftの時価総額が節目の3兆ドルを初めて突破したとして大きなニュースとなっている。Microsoftが2023年以後に急激に存在感を復活させてきたのは言うまでもなく人工知能(AI)を取り込んだからである。
Microsoftは新しいハイテクのイノベーションは絶対に食いついて逃さない企業体質がある。
MS-DOSから始まったMicrosoftは、ワープロや表計算がイノベーションの最先端となるとMS-WORDやEXCELを投入し、OSがGUIがイノベーションの最先端となるとWindows95に社運を賭け、インターネットがやってくるとInternet Explorerに社運を賭けた。
そして今、Microsoftは人工知能(AI)に全振りしていると言っても過言ではないほど、この分野に傾斜している。
MicrosoftがChatGPTを有するOpenAIに100億ドルの巨額投資を行ったのは2023年1月23日だった。ここからMicrosoftは怒濤の勢いで人工知能を自社製品に組み込んで提供するようになり、検索エンジンBingでChatGPTが使えるようになり、さらにWordやExcelにも「Copilot」として人工知能を密接に組み込んで提供を始めている。
Microsoftは人工知能企業となろうとしている。その評価が時価総額3兆ドル突破であったのだ。
10年以上も前から「次のイノベーションは人工知能だ」と言われ続けてきたが、この人工知能のパワーは2023年に生成AIでオリジナルの画像や文章を返すシステムが一般化したことで一気に開花した。
人々は人工知能が人間が問いかけた文章を理解して、精巧な画像を作り出し、精密な文章を作り出すのを目のあたりにして驚愕し、これがただ者ではないイノベーションであることを肌身に知って理解するようになった。
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人工知能が「世界を変える」のはこれからである
たしかに、人工知能が作り出すオリジナルの創作物には問題がある。たとえば、OpenAIでもしばしば幻覚(ハルシネーション)と呼ばれる事実とは異なる情報を提示することも問題になっている。
人工知能が学習するデータに誤りがあり、さらに人工知能の論理の組み立てにも誤りがあったりすると、誤情報が輻輳して幻覚(ハルシネーション)が誕生する。人工知能は完璧ではないことが大きな問題となっている。
しかし、こうした問題を抱えながらも、人工知能は生産性を驚異的に向上させるのは明らかなので、人工知能によるイノベーションは止まらない。そして、社会は今後は人工知能を深く文明に組み込んでいくはずだ。
人工知能が「世界を変える」のはこれからである。
人工知能が世界をどのように変えていくのかは、今の私たちには想像することすらできない。パソコンが登場したとき「こんなのは子供のおもちゃ」とうそぶいていた人がいたが、今の社会ではパソコンが使えない人は役立たずとして会社から放り出される。
インターネットが登場したときも「こんなのは何の役に立つのかわからない」と見下している人がいたが、今の社会ではインターネットが使えない人は役立たずとして会社から放り出される。
スマートフォンが登場したときも「こんな使いにくいものは流行らない」と馬鹿にしていた人がいたが、今の社会ではスマートフォンが使えない人は役立たずとして会社から放り出される。
パソコンもインターネットもスマートフォンも使えない人は、文明からも見放されると言ってもいいくらい、これらは文明に深く結びついている。人工知能もまた、そういう存在になっていくのは100%確実でもある。
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乗り遅れた企業は「次の時代で劣後する」
2023年、人工知能はイノベーションの最先端に躍り出た。そのため、ハイテク企業の多くが人工知能に焦点を合わせて、この新たな開拓地《フロンティア》で激烈な競争を始めている。
人工知能に乗り遅れた企業は「次の時代で劣後する」と認識されて投資家からも見捨てられることになる。
2022年までは世界の頂点に君臨していたAppleが最近はやや冴えない存在となってしまっているのは、Appleが人工知能に関して何か確信的な準備をしている様子が見えないからでもある。
Appleは2024年2月に「Apple Vision Pro」を発売し、空間コンピューティングの時代に乗り込む。空間コンピューティングもまた新たなイノベーションとしてコンピュータのあり方を大きく変える可能性がある。
しかし、投資家は「空間コンピューティング」の重要性がまだ認識できておらず、人工知能のほうに大きな可能性を見出している。その結果、AppleよりもMicrosoftのほうに投資家の資金が集まるようになり、MicrosoftがAppleの時価総額を猛追している状態になっているのだった。
今後、人々が空間コンピューティングが凄まじいパラダイムシフトであることを認識しはじめるとAppleにも再び焦点が向くかもしれない。さらに言えば、Appleは秘密主義の会社なので、裏ではどこのハイテク企業よりも洗練された人工知能の組み込みを計画している可能性もある。
最近、Appleは複数の大手メディア企業に総額5,000万ドル(約71億円)以上を支払う契約を提示していることが報道されたのだが、これは生成AIのトレーニングが目的であることがわかっており、Appleもまた人工知能の組み込みで着々と手を打っているのである。
しかし、まだAppleが人工知能に関してどの程度の能力を保有しているのかは未知数であり、だから「すでに人工知能で儲けている」企業であるMicrosoftに莫大な資金と期待が集まっている。
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人工知能のイノベーションは「始まったばかり」
Adobeなどもいち早く「Adobe Firefly」で人工知能を自社製品に組み込んだのだが、まだ売上や株価に結びつくような成果を出していない。
Adobeは生成AIをPhotoshopやillustratorなどに組み込んで大きな技術的進化が期待できる企業のはずなのだが、それが売上の増加に結びついていないというのはAdobeがやっていることは、やや「後追い」に見えてしまっていることや、Adobeの生成AIが人々を驚かすものではないことを意味している。
株式市場の世界から見ると、現時点で「人工知能バブル」を享受して売上や株価に反映されている巨大ハイテク企業は、Microsoft、Google、NVIDIA、AMDなどが筆頭になっている。
今後、Meta(旧FaceBook)やAmazonやIntelなども追い上げてくる可能性もあるし、まだ小型株の範囲にある新興企業も大きく伸張してくる可能性もある。しかし、今はMicrosoft、Google、NVIDIA、AMDが人工知能バブルの先頭を走っている。
人工知能によるパラダイムシフトはまだ始まったばかりであり、これから人工知能を制した企業が世界に君臨する企業となる。
1990年代はパソコンに賭けた投資家が大きな利益を手に入れた。2000年代はインターネットに賭けた投資家が大きな利益を手に入れた。2010年代はスマートフォンに賭けた投資家が大きな利益を手に入れた。
時代はうねっている。2020年代は人工知能にうまく賭けた投資家が大きな利益を手に入れることになるはずだ。実際、すでにMicrosoft、Google、NVIDIA、AMDなどを保有する投資家は大きな利益を手に入れている。
人工知能のイノベーションと進撃は「始まったばかり」なのだから、投資のチャンスはこれからも何度も何度もくるはずだ。勝負はこれから、とも言える。