人工知能のイノベーションはまだはじまったばかりであり、懐疑論者も多いが、私自身はAIは「本物のイノベーション」だと確信している。おそらく、私以上にAIに確信を持って半導体セクターに果敢に賭けている投資家が、次の金持ちになっていくのだろう。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
アメリカでもっとも巨大で重要な企業に返り咲く
2022年、コンピュータに自然言語を文字列として与えるだけで、驚くほど高画質な画像を生成してくれるAIツールが登場した。とくに注目を集めたのは「Midjourney」「DALL-E 2」「Stable Diffusion」などである。
私自身も、この3つを試してみたのだが、人工知能(AI)がクリエイティブで高品質な画像をアウトプットすることに驚いたものだった。
2022年まで私たちは人工知能がクリエイティブな作業をするのは10年も20年も先の話だろうと何となく思っていた。しかし、2022年にそれはいきなりやってきたのだった。
以後、Bing Image Creator、Adobe Firefly、StableStudio、Visual ChatGPT、Canva、MyEdit……と際限なく画像生成AIが発表されて、今もなお次々と新しい画像生成AIサービスが立ち上がっている。
さらに2023年には「ChatGPT」が注目を浴びた。これは米OpenAI社がリリースしたテキスト生成AIのサービスなのだが、問いかけに対してかなり正確な解答を返してくれるものであり、実用性は非常に高いものだった。
ビジネスのありかたが激変するだけでなく、生産性の向上にもつながる。マイクロソフトは素早く動いてOpenAI社と提携し、自らの製品やサービスに怒濤のごとく、このAIを組み込んでいった。
これによって、スマートフォン時代に乗り遅れて時価総額でもアップルに抜かれていたマイクロソフトは一気にアップルを抜き返してアメリカでもっとも巨大で重要な企業に返り咲いた。
まさに人工知能によってマイクロソフトは蘇ったといっても過言ではない。今後、マイクロソフトは「AI-PC」という概念を打ち出して、さらにAIの取り込みに注力しようとしている。
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この企業のGPUがなければ人工知能を支えられない
人工知能(AI)は、現代社会においてもっとも重要な技術のひとつであるのは、もはや疑う人はどこにもいない。今後もその重要性はさらに高まっていくと予想される。このAIの発展には、膨大なデータ処理能力が必要である。
それを支えるのが「半導体」だ。
半導体は、AIの学習や推論に必要な計算処理を行うための基盤となる技術である。AIの性能は半導体の性能によって大きく左右される。そのため、AIの時代は必然的に半導体の時代ともいえる。
AIの「データ」「アルゴリズム」「計算処理能力」の3つが重要になってくる。AIの発展に伴い、扱うデータ量は爆発的に増加し、アルゴリズムも複雑化している。そのため、これらの処理を効率的に行うためには、より高性能な半導体が必要となる。
このAIの高速化でもっとも優秀な半導体を販売しているのが、台湾系アメリカ人が率いる「エヌヴィディア(NVIDIA)」である。エヌヴィディアは、すでにアマゾンよりも、メタよりも、アルファベット(グーグルの親会社)よりも巨大な企業となっており、時価総額も2兆ドルを超えた。
今後、場合によってはアップルの時価総額も抜き去る可能性すらもある。
このエヌヴィディアは、主にGPU(グラフィックスプロセッサユニット)を開発している企業なのだが、GPUは画像処理装置として使われているものだった。インテルやAMDはCPU(中央演算処理装置)でシェアを独占しているのだが、GPUはエヌヴィディアの独壇場となっている。
人工知能は膨大な単純計算を並列で行う必要があるために、人工知能の演算処理が必要なデータセンターはエヌヴィディアのGPUが必須だ。エヌヴィディアのGPUがなければ人工知能を支えられない。
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半導体セクター全体がかなり大きなセクターとして成長
インターネットが時代を変え、スマートフォンが時代を変えたように、今後は人工知能(AI)が時代を変える。
これから、名実ともにAIの時代がやってきて、大きなパラダイムシフトとなる。このパラダイムシフトは、はじまったばかりであり、これから人類の文明を飛躍的に発展させていく。
そして、このAI時代を「半導体」が支えるのだ。
半導体は人工知能の頭脳ともなるべくものであり、今後の半導体セクターがこれまで以上に成長していくのは必至である。現在、半導体セクターの市場規模は5兆ドルから6兆ドルと推定されているのだが、半導体に対する需要は今後も増加していく。
半導体セクターの市場規模は、さまざまな要因によって左右されるため、正確な予測は難しい。世界経済の減速や、地政学リスクで半導体の需要が鈍るリスクもある。
しかし、多くの調査機関は、今後数年間、年平均成長率で見ると、5~10%で成長していくと予想している。
現代文明は、とにかく半導体を必要としている。それはコンピュータにも組み込まれ、スマートフォンにも組み込まれ、タブレットにも組み込まれ、Apple Watchのようなウェアラブルデバイスにも組み込まれる。
データセンターの大量のサーバにも組み込まれ、あらゆるネットワーク機器にも組み込まれ、自動車にも組み込まれ、産業用機器にも、医療用機器にも、家電製品にも組み込まれる。
間違いなく、半導体が組み込まれるすべての場面でAIが進出していくので、エヌヴィディアだけでなく、半導体セクター全体がかなり大きなセクターとして成長していくのではないか。
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社会に大きなイノベーションをもたらしていくAI
半導体の性能が向上することで、AIの性能も向上し、AIの活用範囲はさらに広がっていく。最近、OpenAI社は「Sora」という動画生成AIを開発して、それをハリウッドに売り込んでいるのだが、今後、AIは動画作成、音楽作成、ゲーム作成をこなしていくことになるはずだ。
それだけではない。診断、治療、創薬、医療画像分析、介護にもAIはどんどん組み込まれていく。製造の分野でも生産ラインの自動化、品質管理、故障予測、ロボットによる作業などにAIが組み込まれる。
金融の分野でも、ハッカーの攻撃などの不正検知、リスク分析、投資判断、自動取引にAIが使われていく。教育の分野でも、物流の分野でも、農業の分野でも、エネルギーの分野でも、気候変動予測、災害予測、環境汚染対策などでも、あらゆる場面でAIが使われていくことになる。
私たちがまだ想像もしていないような分野でAIが使われる可能性もある。それがまた半導体に対する新たな需要を喚起する。
AI時代は半導体の時代である。今後、AIと半導体は互いに相乗効果を生み出し、社会に大きなイノベーションをもたらしていく。
アメリカの株式市場に上場している半導体セクターでは、たとえばどういう企業が深くかかわっているのか。半導体セクターで時価総額および流動性の高い企業としては、以下のようなものがあげられる。
エヌヴィディア、TSMC、ブロードコム、ASML、クアルコム、ラムリサーチ、マイクロン、テキサス・インスツルメンツ、アプライドマテリアルズ、インテル、AMD……。
日本企業では、東京エレクトロン、ディスコ、アドバンテスト、信越化学工業、JSR、ルネサスエレクトロニクスなども半導体セクターを構成する重要プレイヤーである。
半導体セクターに果敢に賭けている投資家は、これから大きな成功を手に入れるのではないか。人工知能のイノベーションはまだはじまったばかりであり、懐疑論者も多いが、私自身はAIは「本物のイノベーション」だと確信している。おそらく、私以上にAIに確信を持っている人が、次の金持ちになっていくのだろう。