日本がふたたび「最先端技術の国」へとなるチャンスが見えてきている。それが日本が半導体セクターの世界的拠点となることである。日本は地の利で追い風が吹いているうちにチャンスをつかむ必要がある。すべての日本人はそれを理解して、半導体に目を向けよ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
時代は変わり今の日本には大きな追い風が吹いている
今後、世界は人工知能(AI)による生産性向上の時代に入っていくのだが、このAI時代を支えるのが半導体セクターである。
AI時代は別の言い方をすると「半導体の時代」でもある。(ダークネス:AI時代は半導体の時代。今後、半導体に賭けている投資家が金持ちになっていく)
そういう意味で、今後の日本が先進国からすべり落ちないために注力しなければならないセクターがあるとしたら、半導体セクターであるのは間違いない。アメリカにはエヌヴィディアがあり、AMDがあり、ブロードコムがあり、マイクロンがあり、クアルコムがあり、インテルがある。
しかし、日本にも、半導体製造装置などで、レーザーテック、ディスコ、東京エレクトロン、ルネサスエレクトロニクス、アドバンテスト、ローム、信越化学工業、SUMCOなどの企業がある。
さらに、日本はふたたび半導体セクターで存在感を高めるために2022年8月に「ラピダス(Rapidus)社」が設立されている。
出資したのは、トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行と名だたる企業である。これを見ても、半導体の復権に賭ける日本の製造業の本気度がわかる。
1980年代、日本は半導体分野では世界トップの技術と能力を持っていた。これに危機感を覚えたアメリカは1980年代に入ってから徹底的に「日本潰し」を実行したのだが、無能な日本政府はまったく対抗する能力がなく、日本の半導体セクターはそのまま地盤沈下していった。
しかし、時代は変わっており、今の日本には大きな追い風が吹いている。
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中国の対抗策として白羽の矢が立ったのが日本だった
今、アメリカが危機感を持って見ているのは「中国」である。中国は徹底的な知的財産の窃盗によってアメリカの技術を吸収して、それを模倣してダンピングしながら世界に輸出して金を稼ぐビジネスモデルを作り出した。
そして、最先端技術でもアメリカを凌駕するほどの製品を作り出すようになったのが2000年代以後の話だった。
それまでアメリカは中国マーケットでビジネスを行うために中国のやり方を黙認していたところもあったのだが、中国のアンフェアなビジネスはどんどんアメリカを侵食するようになったのでアメリカはいよいよ中国を「危険な敵国」として認識するようになっていった。
アメリカは中国に最先端技術が流出するのを防ぐために、貿易規制を強化していったのだが、そうするとそれまで依存していた最先端半導体の生産工場が中国で作れなくなってしまう。
現在、この半導体のファウンドリ(生産工場)として、もっとも巨大で能力を持っているのが台湾のTSMCなのだが、中国と台湾は政治的にも対立と衝突が絶えない関係であり、中国による台湾への軍事攻撃すらも懸念される国である。
もし、中国が台湾侵攻を実際に行ったら、世界のイノベーションは一瞬にして崩壊してしまう。さらに中国が半導体の製造を握っていると、それを人質にされてアメリカは政治的妥協も強いられる。
そこで、アメリカは自国にファウンドリを誘致すると共に、ファウンドリを「安全地帯」に移設させる必要性に迫られていた。
そこに白羽の矢が立ったのが日本だった。現在の日本はアメリカの忠実な属国であり、さらに技術力が高い企業や能力の高い人材が揃っている。かつて、1980年代にはアメリカの脅威となったので叩きつぶした経緯はあるが、ふたたび日本を引き上げる必要がアメリカには出てきた。
岸田政権はアメリカの意向に沿って動く忠犬タイプの政権なので、アメリカにとっても都合が良い国になっているのが日本である。だから今、日本で加速度的に半導体セクターの投資が官民一体となって進んでいる。
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日本は全力で半導体関連に邁進すべきである
TSMCは熊本に巨大な工場を建設し、稼働させている。これには日本政府も4760億円にものぼる補助金を出している。さらにTSMCの熊本第2工場の整備におよそ7300億円を補助金を出す。
これとは別にサムスンが横浜に半導体研究開発拠点を作るのだが、通産省は200億円の補助金を出すことも決定している。この横浜の拠点の総投資費用は400億円なので、日本政府が半分出すということでもある。
日本政府が外国企業に大量の補助金を与えて日本に拠点を作ってもらっているというのは、日本の復活を考えた深慮遠謀があると思ったらかっこいい話だが、実際には「アメリカがやれというので、ハイといいました」レベルの情けない話だろう。
LGBT法案にしても、脱炭素・再生エネルギーにしても、国防費増額にしても、アメリカにいわれたからやっている。
まして、1980年代にアメリカに叩きつぶされている日本政府が、自ら半導体でアメリカに対決する決意を持つような気概があるわけがない。
全体的な動きを俯瞰して見ると、半導体セクターの拠点づくりに政府が次々と莫大な金額を投じているのは、日本政府が能動的に考えてやっているというよりも、「アメリカに命じられたから従っている」と見るほうが理に適っている。
とはいえども、日本企業にとっても日本の成長にとっても、日本が世界の半導体セクターの中心となるのは悪い話ではない。中国がアメリカの「敵」となったことで起こっている動きなのだが、日本の製造業の復活にはまたとない追い風になっているのだから、これを逃す手はない。
私はこの動きを歓迎しており、これを奇貨として日本は全力で半導体関連に邁進すべきであると考えている。
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すべての日本人は、半導体に目を向けよ
日本は「ラピダス(Rapidus)社」を国策企業として、ふたたび半導体の世界で勝負をすることになる。
現在、半導体は2nm世代の開発に入ろうとしている。現時点ではTSMCとSamsungが開発競争を繰り広げている段階にあるのだが、ここにラピダスが割って入ろうとしている。
しかし、2nm世代の量産は非常に難しく、ラピダスがすんなりと2nm世代の開発に成功するかどうかはまだ未知数だ。
これまで日本のメーカーの技術レベルは全世代の3nm世代の製造もできていない。せいぜい28nmあたりである。それがいきなり2nmなのだから、「技術的には絶対に無理」と断言する識者も多い。
ラピダスはここを克服するためにIBMと手を組んだ。2nm世代の研究はIBMであり、ラピダスはそのファウンドリ的な立場となる。
ラピダスが2nm世代の半導体製造に成功すれば、今は半導体セクターからやや取り残された感のあるIBMも一気に最先端に躍り出る可能性もあるし、ラピダス自身もサムスン電子やTSMCと肩を並べる有力半導体企業になる可能性もある。
アメリカに叩きつぶされて凋落していた半導体セクターへの復権がラピダスによって実現されたら、日本は「時代遅れの国」からふたたび「最先端技術の国」へとなっていける。
日本を本当に復活させたいというのであれば、日本人は全力で半導体セクターに飛び込んでいかなければならない。地の利で追い風が吹いているうちにチャンスをつかむ必要がある。すべての日本人はそれを理解して、半導体に目を向けるべきだ。