今の日本企業には狂気が足りないのかもしれない。最強企業Appleを見ててそう思う

今の日本企業には狂気が足りないのかもしれない。最強企業Appleを見ててそう思う

日本人は昔からモノ作りに対する強いこだわりを持っていた。だからこそ職人が大切にされて来たし、職人の生み出す製品の凄さが大切にされた。しかし、いまやその日本が持つ美意識はAppleのような企業にお株を奪われている。今の日本企業には狂気が足りないのかもしれない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

いずれにしても、この世界最強の企業から目を離せない

私はAppleの株主ではないが、Apple製品のユーザーだ。デスクトップマシンもノートブックもAppleのマックで統一しているし、タブレットもスマートフォンもApple製品を使っている。

ジョン・スカリーの時代から、私はずっとApple一辺倒だった。Appleの持つシンプルさのこだわりや哲学を素晴らしいと感じていたし、その使い勝手の良さにも安心感を持っていたからだ。

Appleは以後もその製品とブランドを磨き続け、ついに自社で超高性能チップを開発していくようにもなった。2022年3月には、最強チップ「M1 Ultra」まで発表しているのだが、「M1 Max」のさらに上があったのだから誰もが驚く発表だった。

今後は「M2」チップの開発も進んでいくし、ますますAppleの製品は研ぎ澄まされたパフォーマンスを見せてくれるだろう。

それだけでなく、さらにAppleはここから、AR(拡張現実)や自動運転の分野なども進んでいく。

Facebookはすでに企業名からもMetaに変えて、ビジネスモデルとしてはダメになっていこうとしているSNSからVR(仮想現実)の世界に軸足を移している最中なのだが、AppleはAR(拡張現実)に向かっていく。

VR(仮想現実)もAR(拡張現実)も次世代のイノベーションになっていくだろうが、AppleはAR(拡張現実)の世界でもかなりのシェアを取っていくことになるのではないか。いずれにしても、この世界最強の企業から目を離せない。

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儲かる儲からない以前に、重要視しているもの

Appleは、オリジナリティを重視する企業である。

古くは「Macintosh」によるパーソナル・コンピューター機器から始まり、最近ではタブレットからスマートフォンから超高性能ワイヤレスイヤホンまで、すべてAppleが「世の中を変えてきた」と言ってもいい。

しかも感嘆すべき点は、誰かの真似をして作り出したのではなく、独自の美学と哲学で新しい革新を生み出してきたという部分である。

こうしたAppleの革新のDNAは、言うまでもなく創業者であったスティーブ・ジョブズの製品に対する強烈な「こだわり」が、ジョブズなき今も継承されているからである。

Appleの製品を最も愛している民族はアメリカ人ではなく、日本人だと言われている。現にiPhoneのシェアは日本が一番高い。そのためApple自身も、フェリカ対応で日本独自仕様を出してきたりしている。

なぜ、Appleの美しい製品群が日本人に最も受け入れられているのかというと、実は日本人もまた、自分の関わる製品に対して強烈な「こだわり」を持っているからだ。

日本は、商人の国でもなく、金融の国でもない。
日本は、「職人の国」である。

儲かる、儲からない以前に、質に対する強烈な「こだわり」が優先する。職人というのは、自分の作り出す商品に極限までこだわり、細部を磨き上げ、誰も見ない裏側にさえも美学を求める「狂気のこだわり」を持っている人だ。

「より良くしたい」「もっと良くしたい」という突き上げるような感情が止められない。もっと素晴らしいものにするという部分に「こだわり」を持つ。

本物の日本人は、ひとりひとりがスティーブ・ジョブズと同じ「こだわり」を有している。ここにAppleの製品が日本人を惹きつけて止まない理由がある。

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Appleは強烈な「こだわり」において世界ナンバーワン

製品の質をとことん磨き上げる日本人の「こだわり」は、諸外国から見ると狂気のように見られている。思い起こせば、スティーブ・ジョブズもまた「狂気のようだ」と形容されていた。

スティーブ・ジョブズの哲学や美学は、まさに日本人の「職人魂」と同一のものだったのだ。ジョブズ自身も日本に惹きつけられ、日本の職人魂を愛していた。

音楽革命を引き起こした「iPod」も、SONYのウォークマンのリスペクトから生み出されている。Appleの徹底したこだわりの遺伝子は日本がお手本だったのだ。

日本人は「なぜ日本にApple製品のようなものが生み出せなかったのか」と悔しがる。それを言う時、日本人の頭の中にはAppleの世界最強の時価総額や経営手法は含まれていない。

純粋に、美しく、精巧で、惚れ惚れするようなAppleの「製品群」だけを見てそう評価している。

日本人はAppleの巨大な売上や資金力に注目しているのではなく、ひたすらその製品の素晴らしさに注目しているのだ。ここに日本人の特性が隠れている。しかし、当の日本人だけが気付いていない。

日本人がAppleの売上に羨望の目を向けているという話は聞いたことがない。日本人がAppleに心酔しているのは、会社の規模ではなく、こだわり抜かれた製品の美しさなのである。

まさに、日本人が「職人の国」である証拠だ。

Appleは、製品を良くしたいという強烈な「こだわり」において世界ナンバーワンであり、日本人はそこに素直に痺れているのである。

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日本人はAppleの「凄み」を本能的に感じている

最近、日本の電機メーカーであるバルミューダが独自スマートフォンを出して、スマートフォンとしては評価は芳しくないのだが、私自身はこのバルミューダというメーカーのコンセプトは応援している。

こだわり抜かれた製品で勝負したいというこのメーカーの姿勢は、いかにも日本企業の意地が見えた。しかし全体を見ると、現在の日本の家電会社でこういった強烈な「こだわり」を感じさせる企業は少なくなった。

大企業になればなるほど、かつての日本人が持っていた製品に対する強烈な「こだわり」が消えている。そんなことになってしまったのは多くの複合的な理由があるが、大きいのは「経営学を学んで数字だけしか関心のない事なかれ主義のサラリーマン社長が居座っているから」だと分析する人も多い。

こういった経営者は数字だけしか関心がない。製品にコストがかかっていると思えば、質を落としてもコスト削減の方を優先する。職人は質を追及するが、雇われ経営者は質など普通でよくて、それよりもコストを追及する。

それが積み重なっていくと、最終的に製品から強烈な「こだわり」が消えていき、凡庸な製品だけが残り、個性も、魅力も、何もかもが急速に凡庸になる。

もちろん、猛烈なまでに「こだわり」を見せても、それが直接売上に結びつくと決まっているわけではない。バルミューダも苦戦している。

妥協を知らない狂気なまでのこだわりは、先行投資が膨らんで赤字になっていったり、期限の遅れの元凶になり、妥協を求める社内の人間たちの強烈な反撥を受けたりして、次第に追い込まれていくこともある。

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「異常なまでのこだわり」を持った創業者が必要だ

実際、Appleも、社内で激しい激論の中で製品を生み出してきているのは、スティーブ・ジョブズやジョナサイン・アイブの伝記やエピソードにも描かれている。

妥協を求める声は絶対にある。それでも、そこを突き抜けて「こだわり」を優先していくところに、Appleの凄みがある。ジョブズの遺伝子を継承したAppleという特異な企業の本質がまさにここにある。

日本人はAppleの「凄み」を本能的に感じている。Appleが「本物」であることを知っている。本来であれば、Appleの立ち位置こそが日本人の目指していたものであることにも気付いている。

日本人は、昔からこのような「こだわり」を自然と持ち合わせて来た。だからこそ日本では職人が大切にされて来たし、職人の生み出す製品の凄さを大切にしてきた。

しかし、グローバル化の時代になり、安物が席捲し、安物しか買わない時代がやってきている。多くの日本企業や日本人がそれに染まっていき、もはや「こだわり」をまったく持たない日本人も増えた。

そうは言っても、長らく日本人に染みついた「より良くしたい」「もっと良くしたい」という職人気質は、簡単に消えてなくなるようなものではない。

重要なことだが、日本人からはまだ職人魂は失われていない。多くの日本人は、今も極上の製品に対する渇望があり、それを評価する目がある。

日本人の凄みは、「こだわり」にある。「こだわり」が世界に受け入れられることはAppleが証明しているのだ。だからこそ、日本人は世界の誰よりもAppleに注目し、研究する必要があるはずだ。

日本が復活するためには、「異常なまでのこだわり」を持った創業者が各業界で次々と生まれる必要があると思っている。異常なまでのこだわり……、すなわち狂気を孕んだ創業者が日本には要る。

今の日本には狂気が足りないのかもしれない。

書籍
『デジタル化の教科書 DX/DIで変わる世界(西村 泰洋)』

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