これから凋落するセクターはいくら優秀な人間が揃っていても救えないという現実

これから凋落するセクターはいくら優秀な人間が揃っていても救えないという現実

世の中は絶えず移り変わり、一世を風靡した企業もパラダイムシフトが来た瞬間に凋落していく。どんなに強大に見える企業でも同じだ。そういう意味で、今は世界を制している強大な企業群「GAFA」さえも、いつまでも頂点に君臨するわけではない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

かつて石炭はセクシーなエネルギーだった

経済産業省の外局である資源エネルギー庁は、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」と、過去に大気中に排出されたCO2も削減する「ビヨンド・ゼロ」の二点を押し進めているのだが、「脱炭素社会」への流れは現代社会では無視できない巨大な潮流となっている。

そう言えば、かつて環境相だった小泉進次郎が「セクシーに取り組む」と中身のないことを言って失笑を買ったのも「脱炭素社会の取り組み」であった。小泉進次郎は中身が問題だったので見捨てられたが、脱炭素社会の取り組みの方は全世界で強力に推し進められている。

こうした世の中の趨勢を見たら、今どき「石炭会社に勤めよう」と思う学生はいないはずだ。しかし、1945年から1950年の日本では、石炭の会社が一流大学の学生の「セクシーな就職先」だったことは覚えておく必要がある。

この当時、石炭会社に勤めるというのは「学生たちの憧れ」で、今のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に持たれているのと同じ心境が彼らにあったのだ。

石炭は日本のエネルギーを支える非常に重要なものであると思われていたからだ。その頃、石炭は「黒いダイヤモンド」とも言われていたほどだ。石炭はまぎれもなくセクシーなエネルギーとして認識されていた。

しかし、一流大学の学生が殺到していたその時が石炭企業のピークで、あとは凋落の一歩を辿った。

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公務員や官僚には「死亡フラグ」が立っている

同じ頃、衣料品に不足していた日本では繊維業界も空前の売上を誇り、多くの一流大学の学生が繊維業界に殺到した。

その頃「ガチャマン」という言葉が大流行したのだが、これは「織機をガチャンと織れば万のカネが儲かる」という意味から来た言葉だった。繊維業界は未来永劫に成長すると思われた就職先だったのだ。

しかし、一流大学の学生が殺到していたその頃が繊維企業のピークで、あとは凋落の一歩を辿った。

1950年代は映画産業も人々の羨望の的で一流大学の学生が殺到していたが、やがてテレビの時代が来ると映画産業は一気に衰退して斜陽産業となった。化学肥料の企業も、当時は最重要な分野だと言われて一流大学の学生が殺到していたが、やがて衰退して凋落していった。

一流大学の学生が殺到している業界は、だいたい以後は衰退していく。

バブルの頃は、誰もが不動産産業に入りたがっていた。日本各地の土地はどんどん値上がりし、北海道の原野ですらも買い手があった。東京の地価もどこもかしこも暴騰して、バブルが始まる1983年から見ると、東京23区内の商業地では631%もの暴騰ぶりだった。

この土地価格の暴騰と不動産業界の金満ぶりを見て、まったく関係ない業種で働いていた人間さえも宅地建物取引業法のような資格を取りに走ったほどだった。

ここでも一流大学の学生が不動産会社に殺到していたが、バブル崩壊に見舞われると、不動産業界は一気に凋落して、莫大な負債を抱える危険なセクターになっていった。

この頃は金融機関に就職するのも流行っていた。ばらまくようにカネを貸していたのが金融機関だったからだ。金融機関もまたバブルに踊っていた。証券会社にもカネが回り、株式市場を空前の高値に押し上げていた。

しかし、1990年以後のバブル崩壊で銀行や証券会社等の金融機関は不良債権を抱えて一気に身動きできなくなっていき、北海道拓殖銀行や山一証券の倒産へとつながっていく。以後、羽振りの良い業界に憧れてそこに潜り込んだ新卒の大学生たちは、残務処理に追われるだけの人生と化した。

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パラダイムシフトが来た瞬間に凋落

時代は必ず変わっていく。しかし、多くの人は「目の前の羽振りの良い業種」「時代の寵児になっているセクシーな会社」しか見えない。次に何が来るのか予測も付かないので、とりあえず「現在セクシーなもの」に飛びつくしかないと考えている。

打算的な人であればあるほどそうだ。現在「素晴らしい」業界にいれば、「良いところにお勤めですね」と、まわりもちやほやしてくれて虚栄心もくすぐられる。

しかし、現在が素晴らしいということは後は落ちるだけということでもある。一瞬は良くても、あとはずっとじり貧が続く。そして、「この業界にいてはいけない」と気が付く頃には、もう抜け出せない年齢になっている。

歴史を振り返って気が付かなければならないことは2点ある。1点は、世間でちやほやされていて一流大学の学生が殺到する産業は、そのときがピークで近いうちに凋落するというのがひとつだ。

一流企業の学生は、その時代で最も輝いている企業から熱烈歓迎されるので、大勢がそこに向かうのだが、それは単なる人気投票で「今は」ナンバーワンであるというだけなのだ。

「今は」そうであっても、「将来も」そうであるとは限らない。むしろ、頂点を極めたら、あとは落ちるだけしかないというのは小学生でも思いつく社会現象だ。それを、なぜか「優秀」な学生が思いつかない。

もう1点は、その業界に一流の頭脳が集まっていても、凋落を止めることができないという事実だ。これを指して、このような指摘をする人もいる。

「一流大学の優秀な人材が集まった業界は衰退するというが、それほど優秀な人材がいたのであれば、なぜ会社を躍進できなかったのか?」

「本当に優秀なら先を読んで手を打てたのに、それができないとすると、実のところ集まった人材は優秀ではなかったのではないのか?」

彼らは優秀ではなかったのか。いや、そうではない。おおむね、彼らは本当に優秀だったのだ。しかし、世の中の流れは、そんな優秀な人材ですらも押し流してしまうほど強烈で有無を言わせないものであるということだ。

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GAFA以外の専業の企業が一気にシェアを取る?

世の中が変わった時、凋落するセクターはいくら優秀な人間が揃っていても救えない。世の中は絶えず移り変わり、一世を風靡した企業もパラダイムシフトが来た瞬間に凋落していく。どんなに強大に見える企業でも同じだ。

そういう意味で、今は世界を制しているセクシーな企業群GAFAも、いつまでも頂点に君臨するわけではない。

これらの企業は「追われる存在」となり、その巨大さや影響力の甚大さに不安に思われ、独占禁止法の網にかけられようとしつつある企業である。これから時代を攻めていくというよりも、今ある影響力を守る側に入りつつ企業だ。

今はまだ信じられないかもしれないが、次のパラダイムシフトが起きた時、GAFAのビジネスは「時代遅れ」になって打ち捨てられてしまう可能性がある。

まだまだGAFAのビジネスは強大なので凋落の欠片《かけら》も見えないように思えるが、Facebookの牙城であるSNSに関しては、フェイク・広告誘導・罵詈雑言・偏向・いじめ等々の問題が解決できず悪評が募ってきている。

Facebookも、そうした状況の中で企業名をMetaに変えたりしているのだが、果たして逃げ切れることができるかどうかは分からない。

そして、Google、Apple、Amazonについてもそれぞれ固有の問題があるわけで巨大化によってパラダイムシフトに対応できなくなる可能性もある。今すぐそうなるわけではないだろうが、世の趨勢とはそういうものである。

本当であれば、「次に飛躍するセクター」「次に超巨大企業になる会社」がピンポイントで分かればいいのだが、パラダイムシフトは今の私たちが想像をもしないセクターや企業を押し上げるので、口で言うほど簡単に見分けられるわけではない。

しかし、敢えて言うのであれば、今、時代を席巻している企業があるのなら、それは気をつけた方がいいかもしれない。頂点が近いか、すでに頂点に達していて、これ以上の伸びしろはないかもしれないからだ。

2022年から明らかに経済環境が変わりつつある。時代の変わり目に注目だ。

『GAFAに克つデジタルシフト 経営者のためのデジタル人材革命 (鉢嶺 登)』。デジタルシフトに取り組む企業数が増えてはいるが、実際に成功した例は少なく、失敗事例のほうが大半である。

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