外国人がインバウンドで日本にやってくると「日本は安い」と驚嘆する。しかし、物価は「高いほう」に調整されるのが自然なので、為替レートがどうであれ、日本の物価はおのずと上昇してバランスを取ることになるはずだ。こんな社会では、誰が有利で誰が不利なのか?(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
物価上昇は長期的なトレンドになるのではないか
日本では物価上昇が今後も続く。2024年4月も食品価格やサービス価格の値上げが相次いでいる。電気代も再エネ賦課金が2年ぶりに引き上げられて500円前後の値上げとなる。宅配料金も引き上げられる。
この背景には、150円台で定着してしまった円安による輸入原材料の調達コストもあれば、人手不足による賃金の上昇もあれば、企業による便乗値上げもあって、すべてが物価上昇に結びついている。
政府はしきりに「賃上げをせよ」と企業に働きかけており、大企業はそれに応えているのだが、中小企業はなかなかそう簡単に賃上げができない構図になっている。仕入れ価格の上昇や人手不足に加えて税負担も重くのしかかっている。
結局、実質賃金は23か月もマイナスに沈んでいるのは、物価上昇に賃金の上昇がまったく追いついていないからでもある。
今後、日本の物価上昇は落ち着いていくのだろうか。いや、物価上昇は今後もしばらく避けられない状況にあるという見方のほうが強い。
現在の物価上昇はグローバルに起こっていることであり、中東での戦争やロシア・ウクライナの戦争などもあって国際情勢の不安定化がエネルギー価格の上昇を招いており、異常気象が食品価格を高騰させているからだ。
日本はそれに合わせて金融緩和が続いて円安が定着してしまっているわけで、「物価上昇は長期的なトレンドになるのではないか」という見方をするアナリストもかなり増えてきている。
行き過ぎた円安になると政府による為替介入がある。現在も政府や日銀は、口先介入を延々とやっている。一時的にはそれで円高に振れるのだが、日銀は一方で金融緩和を続けている。そのため、気がつけばまた円安に戻るという動きを繰り返している。
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「低金利政策」と「金融緩和」が続く限りは円安
為替レートについては、日銀が「低金利政策」と「金融緩和」をどこまで続けるのかで状況が変わってくるが、しばらくこの二点が続くというのであれば、円はドルに劣後してしまうのが理論的な動きでもある。
すなわち、「低金利政策」と「金融緩和」が続く限りは円安のベクトルはこれからも続いていく。
日銀の植田和男総裁は2024年4月10日、「円安進行で輸入物価が大幅に上昇し、基調的物価が2%を超えて上昇するリスクが高まる場合、金融政策の変更も考える必要がある」と述べている。
仮に日銀が「低金利政策」と「金融緩和」をやめると、円安は是正されるかもしれない。しかし、そうすると企業の資金調達コストが上昇し、投資活動が抑制される。その結果、景気後退のリスクが高まっていく。
輸出企業へのダメージも想定されるので株式市場も下落していく。
「貯蓄よりも投資へ」と煽っていた日本政府は、それによって大批判にさらされることになる。さらに長期金利の上昇は、住宅ローンなどの返済負担を増加させるので、変動金利で住宅ローンを組んでいる7割が返済で苦しむことになる。
円安を円高にしたら脆弱な日本経済がますます脆弱になってしまう可能性があるわけで、ある意味、30年も経済を成長させることができなかった日本は「詰んでいる状態」にあるということもできる。
30年も日本の成長を描けなかった政治家が死ぬほど無能だったことが、この日本の苦境を生み出している。その政治がまだ変わることなく続いているのだから、どうしようもない。日本の将来に希望を持つのはなかなか厳しいのではないか。
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物価上昇の時代では、誰が有利で誰が不利なのか?
外国人がインバウンドで日本にやってくると「日本は安い」と驚嘆する。しかし、物価は「高いほう」に調整されるのが自然なので、為替レートがどうであれ、日本の物価はおのずと上昇してバランスを取ることになるはずだ。
物価の上昇がこれからも続くというのであれば、誰が有利で誰が不利なのか。
一番有利になるのは優良な金融資産を保有する富裕層である。株式資産や付加価値の高い不動産を保有している富裕層は、物価上昇によって資産増大の恩恵をしっかりと享受することができる。
現に、日本社会は経済格差がかなり開いているのだが、富裕層の資産がより膨らんでいるのは物価上昇によって金融資産の価格も上昇しているからに他ならない。一方で金融資産を持たない人たちや年金生活者は物価上昇によって苦境に落ちている。
労働者は物価が上がっているが、賃金も微々たるものだが何とか上がっているので年金生活者よりは少しマシな立場にある。特別に不利ではないのだが、賃金の上昇は資産の増大から見るとタカが知れているのでそれほど有利でもない。なんとか時代についていけているだけのレベルである。
これをまとめると、以下のとおりである。
・金融資産を持つ人は物価上昇で有利になる。
・労働者は有利でも不利でもない。
・貯金での生活者、年金生活者は不利になる。
日本は65歳以上の人口は3589万人で、 総人口に占める65歳以上人口の割合は28.4%になっているのだが、年金は物価が上昇しても劇的に上がらないし、彼らの貯金は目減りしていく一方となる。
物価上昇時代は「金持ちがより金持ちになり」「労働者は生かさず殺さずで生活できるだけで」「高齢層がどんどん苦境に落ちる」という状況を生み出すということになる。
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日本が「超格差社会」となるのは、もはや避けられない
これから日本で起こるのは「金持ちがより金持ちになり、貧困層がより貧困化する」という超格差社会であるといえる。貧困層の持つ資産は富裕層に移動して、悪い意味での「富の再分配」が行われる。
高齢層でも、金融資産を持つ高齢層と持たない高齢層の間では二分化されていく。実は、もうすでに高齢層の二極分化は起きている。
「高齢層はカネを持ってる」というのは一面では当たっているが、全体的に見ると外れている。まったく貯金がない単身世帯は28.5%もいる。さらに物価上昇や病気で預金がすぐに消えてしまいそうな300万円未満も含めると46.5%にもなる。
一方で、資産が1000万円以上の高齢層は33.9%いる。ただ、彼らの資産のほとんどは「現金」なので物価上昇の時代では目減りしていく資産である。
政府はこれを見て、「貯蓄から投資へ」と彼らを投資にいざなっているのだが、これは悪手になるかもしれない。
なぜなら、金融リテラシーのない単身世帯の高齢層が投資で失敗したら「人生が詰む」からだ。何人かのアナリストが「投資しないで」と呼びかけているのは優しさからである。
高齢者ほど株式投資の浸透率は低く金融リテラシーがない。こうした高齢層が投資で大失敗したら、もう挽回できるほどの時間が残されていない。しかし、何もしないでいても物価上昇がじわじわと「貯金だけ」の層から資産価値を減らしていく。結果的に、「富の移転」は避けられない。
私自身は、日本が超格差社会となるのは、もはや避けられないと見ている。莫大な貧困層の上に、一握りの富裕層が富を誇示する世界になる。どこかの途上国の話をしているのではない。日本の話をしている。