バブルになれば何でも上がる。チューリップの球根ですらもバブルになったら空前の高値にまで買い上げられるし、そこらへんの石でも、イワシの頭でも、ネコの毛でも、仮想通貨でも、何でも上がる。そうやって過大に買い上げられたのがバブルであり、それはいつか弾ける。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
そこらへんの石でも、イワシの頭でも、ネコの毛でも……
イケダハヤトという気味の悪い有名人が、「IRON」やら「TITAN」なる仮想通貨(暗号資産)を「人類は錬金術を見つけてしまった」だとか「1年で元本が900倍になります」とか、馬鹿丸出しで持ち上げた翌日に大暴落して資産価値がゼロになるという事件が2021年6月16日にあった。
チューリップバブルよりもひどい新興の仮想通貨のバブルの真っ最中に「1年で元本が900倍になります」と煽って、乗った人の資産をゼロにさせるのがイケダハヤトなのだが、バブルの時期は誰もが強気になっていてバブルがバブルと認識されない。
イケダハヤトに煽られてバブルに乗った人々は、「仮想通貨はもっと値上がりするのは確実」「仮想通貨はバブルではない」「仮想通貨が暴落するというのは知識のない証券アナリスト」などと、仮想通貨のバブルに乗らない人間たちを嘲笑していた。
はっきり言うと、バブルになれば何でも上がる。チューリップの球根ですらもバブルになったら空前の高値にまで買い上げられるし、そこらへんの石でも、イワシの頭でも、ネコの毛でも、仮想通貨でも、何でも上がる。
バブルになったら、イケダハヤトみたいチンドン屋が「人類は錬金術を見つけてしまった」だとか「1年で元本が900倍になります」と煽って、無知な人々に「バスに乗り遅れるな」と買わせることができるのだ。
著名投資家のハワード・マークス氏は、常々こうした現象が起こることを指摘し、その流行については完全に距離を置く姿勢を取っていた。ハワード・マークスは仮想通貨もそうした現象のひとつと指摘していた。
それは、「ただの投機だ」というのがハワード・マークスの見立てだった。
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「価値のないもの」を熱狂的に煽り立てる手口
ハワード・マークスは仮想通貨については「ピラミッド・スキームだ」とも辛辣に言っている時期もあった。ピラミッド・スキームという意味が分からなければ「ネズミ講」だと考えればいい。
ピラミッド・スキームというのは、まずは「価値のないもの」を価値のあるように見せかける典型的な詐欺テクニックの一種である。
「価値のないもの」は、誰かが欲しがりそうなものであれば何でも良い。たとえば、暗号通貨でもチューリップの球根でもイワシの頭でも路傍の石でも「IRON」と名付けたアルゴリズムでもいい。
まず、詐欺師はその時代に合わせて何か「かっこいいもの」を用意する。そして、それを「儲かる、儲かる」と熱狂的に煽って人々を呼び寄せて、価値がないものをあたかも価値があるように錯覚させる。
最初は誰も信じないのでサクラを使って煽る。すると、熱狂に煽られた人たちが驚いて「その価値が分からないのは自分だけなのかもしれない」と思って、半信半疑でそれを買ってみる。
本当に価値がないものがちゃんと金になるのを知ると、半信半疑だった人はもっと驚いて、「これは金になる。儲かる」とまわりに言い出すようになる。
すると、その声に呼び寄せられた人たちがまた信者のようになって他人を「儲かる儲かる」と巻き込んでいく。巻き込まれた人はまた「これは儲かる」とさらに他人を巻き込む。
そして最後にイケダハヤトみたいな人間が、「人類は錬金術を見つけてしまった」だとか「1年で元本が900倍になります」とか言い出す。これに乗せられて馬鹿が大勢集まったのを見計らって、詐欺師はすべて売却して、騙された馬鹿を残して去っていく。それが「ピラミッド・スキーム」である。
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意味もなく上がっているものは、意味もなく下がっていく
イワシの頭でもチューリップの球根でも新興仮想通貨でも、最初は価値のないものだったはずのものが誰もが「価値がある」と信じることによって凄まじい値段がついていく。これをバブルと呼ぶ。
仮想通貨の仕組みが云々の前に、私たちは「それ自体がリターンを生み出さないものに過大な価格がつけられている」というバブルの現象をよく見つめなければならない。バブルは「意味のない熱狂」なのである。それが冷めると、そこで踊った人間が資産を失う。
ハワード・マークスやウォーレン・バフェットのような熟練した投資家は、長らく金融市場で生き残った経験から、「それだけの価値のないものが煽られて投機の対象になっているもの」は、それが何であれ注意深く避けて近寄らない。
「1年で元本が900倍になります」と誰かが煽っているようなものなら、なおさら近寄ることはない。意味もなく上がっているものは、意味もなく下がっていく。そこに人々が賭けるのは投機だからだ。
「IRON」やら「TITAN」なるモノも、それなりの価値があるかもしれないし、路傍の石も、イワシの頭も、ネコの毛も、何か有用な活用ができる人もいるはずなので一定の価値があるはずだ。
しかし、極度の期待と熱狂だけで上がっており、その熱狂で売り買いしているのであれば、バブルである。
誤解してはならないのは、仮想通貨がピラミッド・スキームだと言っている金融関係者の多くは、暗号通貨というフィンテック(金融技術)について否定しているわけではないということだ。
逆に、彼らは暗号通貨が存在しても問題ないと言っている。町の電気屋が独自に発行するポイントでも、ドラッグストアが発行するポイントでも、仮想通貨でも、それは存在していて問題ない。それは常識的な判断だ。
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仮想通貨は下層の人が飛びつくことが多いので「下層通貨」
何の価値があるのか分からないものを「ものすごい価値がある」と思い込んで買うというのは、何に賭けているのか。それは「煽り立てられて熱狂する馬鹿がまだまだ現れる」という方向に賭けているのである。
「煽られる馬鹿がもっといそうだ」と思えば、そこに賭ければ儲かるが、煽られる馬鹿が目を覚まして正気になった瞬間にそれは値崩れする。
客観的に見ると、イケダハヤトみたいな人間が煽っていたものも、そういう存在であったということだ。
世の中は、意外に自分がよく分からないものに煽られて熱狂の中で感情的な判断をする人が意外に多くいる。ちょっと有名な人が、「人類は錬金術を見つけてしまった」「1年で元本が900倍になります」と言っていると、「よく分からないけれども買っておこう」と考える人もいるのである。
だから、常識では判断できないようなバブルが、いろんな場所であっちこっちに生まれては消え、消えては生まれていく。最近は仮想通貨が流行りなので仮想通貨で釣るアジテーターも多い。
「仮想通貨は、下層の人が飛びつくことが多いので下層通貨だ」と揶揄する人もいる。本当にそうなのか知らないが、いずれにしても、アジテーター(扇動者)が馬鹿げた口上で煽り立てて乱高下する市場はなかなかリスキーではある。
この市場に飛び込む人は、自分のまわりに煽られて踊っているカモが大勢いるかどうかを確認すべきだ。熱気に煽られてトランス状態になっているカモが大勢いれば買いで、白けた人がポツリポツリと増えだしたら売りだ。
踊っているのが自分だけならば危険だ。それは、自分自身がカモだからである。
何にしろ、「人類は錬金術を見つけてしまった」「1年で元本が900倍になります」という人間が煽っているような金融商品を見たら、それが何であれ、全力で逃げるというのが正しいスタンスである。