「ドルが紙くずになる」前に「円が紙くずになる」ほうを心配しなければならない

「ドルが紙くずになる」前に「円が紙くずになる」ほうを心配しなければならない

最近、またドルが通貨基軸から脱落するとか、紙くずになるとか言い出している人がいる。そんなことにはならない。我々が生きている間、ドルは基軸通貨であり続ける。そんなことよりも、日本人が心配しなければならないのは、「円」という自国通貨の凋落のほうではないか。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

「ドルが紙くずになる」と言っていた人間たち

私が資産をすべてドルに転換した2012年。日本では途轍もなく奇想天外なことを主張している人がいた。「ドルが紙くずになって別の通貨になる」と言うのである。たしか「新通貨が用意されている」とか根拠ゼロの話を得意げに言っていた。

世界最強の通貨基軸であるドルが崩壊するなんて常識で考えてもありえないのだが、滑稽なことに、彼らは大まじめにそれを主張していた。そして、円をすべてドルに転換した私に向かって「そんなことをしていると破産する」と言い出した。

10年経ってみて何が起きたのかというと、私のドル資産はそのまま2倍以上の価値になって、「ドルが紙くずになる」と言っていた人間はみんな行方をくらました。彼らは頭がおかしかったということだ。

その間、「アメリカの時代は終わって中国の時代がくる」「中国の通貨である元がドルに変わって基軸通貨になる」と抱腹絶倒の妄想話をしていた人もいた。最近はそういう人も正気に戻ったのか、何も言わなくなった。

やれやれと思っていたら、今度は「仮想通貨が世界を支配するのでドルは紙くずになる」と言い出しはじめる現実無視の人が5年くらい前から出てくるようになった。

「仮想通貨がドルに取って変わる」と彼らは信じ込んで、彼らはあらゆる種類の仮想通貨を貯金はたいて買い込んでいた。X(旧Twitter)のアイコンや名前も仮想通貨絡みのものにして、仮想通貨の話を朝から晩までしていた。

私が「仮想通貨なんかドルの代わりにならない」と言ったら、「お前は時代遅れで何も分かってない」という批判を浴びせられた。

それでどうなったのかというと、世の中は相変わらずドルは基軸通貨のままで「仮想通貨が世界通貨になる」みたいなことを主張する人はあまり見なくなった。死んだのだろうか?

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誰もがドルを欲しがっているから価値が上がっている

やれやれと思っていたら、最近になってまた「アメリカの基軸通貨は揺らいでいる。これからは新しいBRICSが発行する通貨がドルの代わりになる」とか「もうアメリカは終わりだからドルも終わる」と言い出している。

ドルが終わるも何も、今は再び「ドル一強」の時代になって日本人も円安で苦しんでいる現実を彼らは見えていないのだろうか。ちなみに、ドルが他の複数の通貨に対して「強いのか弱いのか」を一目で見ることができるのが「ICEドル・インデックス(DXY)」である。

このチャートを確認すると、ドルの価値は最近は上昇しているのが見て取れる。ドルは見捨てられるどころか「強くなっている」のだ。30年前と比べても現在のドルは強い。

BRICSがドル離れを引き起こしていると主張する人もいるが、ドル・インデックスからはまったくそんな兆候は読み取れない。むしろ、誰もがドルを欲しがっているから価値が上がっている。

世界の外為市場取引額の通貨別シェアを見ても状況は変わらない。ドルは世界のどの通貨に比べても圧倒的に取り引きされており、過去5年間で見てもぶっちぎりの上位で安定的推移を見せている。

外為市場取引の44.2%はドルである。二番手ユーロの15.3%を圧倒的に引き離して「世界に君臨している」と言ってもいい。中国の元なんか外為市場取引では3.5%しかなくてドルの取引量とは比較にならない。

これで「ドルの時代は終わった」とか言っている人は頭がおかしいのか、世の中をよく知らないのかと心配になってしまうほどだ。

「いや、今は新興国がドルを手放している事実がある」という人もいるのだが、そんなのは当たり前だ。自国の通貨が安くなってドルが高くなっているのだから、ドルを売って利益を出して自国通貨を防衛しなければならない。

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グローバルサウスがドル決済から距離を置く?

「ロシアは最近ドル決済をやめて人民元決済をするようになった」という事実もあるのだが、それは今の状況を鑑みたらこれも当たり前の話だ。

ロシアはアメリカにグローバル経済から蹴り出されたので、もうドルが手に入らない。それでも国際的に取り引きをしようと思ったら、ドル以外の通貨で決済するしかない。そのため、ロシアは人民元に引き寄せられている。

そういうわけで、新興国もロシアも現在はドルを手放す「国内事情」があって、自分たちの都合でドルを売ったり、ドル以外の決済を使ったりしている。

しかし、理由を仔細に見ると「ドルが終わりだからそうしているわけではない」のがわかる。新興国もロシアも基軸通貨であるドルが喉から手が出るほど欲しいのだ。その状況は変わっていない。

最近、新興国(グローバルサウス)がドル決済から距離を置くことを模索しているのだが、それはなぜかと言うと、「あまりにもドルが強すぎて怖い」からに他ならない。このドル離れの動きを見て、やはり「ほら、ドル離れが起きている。ドルは終わりだ」と言い出す人もいるのだが、それもない。

グローバルサウスは新興国の集まりであり、それぞれの国は内情がまったく違う。とても脆弱な結びつきであり、結束してもドルに対抗できる集団になれない。グローバル経済になんらかの波乱があったら、彼らもすぐにバラバラになって「ドルが欲しい」という話になる。

最近はアメリカと距離を置いて中国と付き合い始めているサウジアラビアも、中国が逆に衰退したらどのみちアメリカに戻るしかない。中国はもはや経済的なピークは過ぎてしまっており、これから人民元の影響力は減退する。

とすれば、サウジアラビアも最後にはドルに戻るしかない。

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「ドルが紙くずになる」前に「円が紙くずになる」?

ただ、ドルを取り巻く為替相場は常に上にも下にも揺れ動く。最近はドル一強になっているのだが、今後は景気後退などで利下げが始まるとどうなるのかというと、投資家は高金利通貨になびいていくので、当然「ドル安」となる。

しかし、ドル安が来たと言っても、それは金融政策がもたらしたものであって「ドルの崩壊」がきているからではない。結局のところ、アメリカが資本主義の総本山であり、世界最強の軍事国家であるうちはドルは紙くずになりそうにない。

アメリカは今もなお圧倒的な軍事力と圧倒的な経済力を持って世界に君臨しているのだから、我々が生きている間はこの状況は続くと考えてもいい。

もし、ドルが基軸通貨でなくなるとしたら、アメリカ以外の国が凄まじいイノベーションで世界を変えて世界の富が一気にアメリカからそちらに移転した後の話である。しかし、今のところそんな兆しはまったくない。

仮にアメリカが今よりも凋落していったとしても、アメリカはドルの基軸通貨の地位を守ろうとするわけで、その攻防だけでも数十年続くだろう。結局、今の時点で「ドルが紙くずになる」みたいなことを話している人間は、ただ単に無知をさらけ出しているだけであると断言できる。

ドルは紙くずにならない。少なくとも、我々が生きている間はドルは基軸通貨であり続ける。

そんなことよりも、日本人が心配しなければならないのは、「円」という自国通貨の凋落のほうではないか。

少子高齢化も解決できずにひたすら萎縮していき、イノベーションを起こすどころか取り残される一方で、政治力も外交力も極端に弱く、対外的に正式な軍隊を持つことも叶わず、文化も衰退しているこの国の通貨は今の地位を維持できるのだろうか。

私に言わせれば「ドルが紙くずになる」前に「円が紙くずになる」ほうを心配しないといけないのではないかと思うほどだ。

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