詐欺が横行する世界でまず最初に覚えなければならない真の金融リテラシーとは?

詐欺が横行する世界でまず最初に覚えなければならない真の金融リテラシーとは?

投資セミナーなどを開いて、それらしい話をして「投資したら倍になる」「元本保証」「絶対に儲かる」とか言い出すと、120%詐欺の話なのだが、それでも世の中には次々とカモが現れて彼らにカネを託すのだから興味深い。こういうのを見ていると、真の金融リテラシーとは何かに気づく。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

「株価が倍になる」と聞いたこともない会社に出資させる

宝飾品加工製造会社を運用していた34歳の実業家とその仲間が出資法違反で逮捕されている。この若き実業家は経営者たちに「株価が倍になる」とコンゴに鉱山を保有する会社の株の購入を勧めていたのだが、約27億円も集めて返還しないでトラブルになっていた。

「この企業の株を買っておけば、いずれ買収されるので株価は倍になる」
「もしそうならなくても我々が出資したカネは保障する」

そのように元本保証して現金を集めていたのだが、結局はこの34歳の詐欺師に騙されたカネは帰ってこなかった。集めたカネがどこに行ったのか全容解明はこれからだが、この男は集めたカネで夜の街を豪遊していたのはわかっている。

この男は他にも投資コンサルティング会社をやっていたが、支払わなければならない料金を滞納したりして訴えられており、関わっている事業のすべてでトラブルが発生している始末だった。

「平均年収2000万越えの有名企業出身」とか自慢もしていたのだが、実はその企業に在籍中にも同僚と金銭トラブルを抱えていて悪評プンプンだった。

逮捕される何年も前からこの男の被害に遭った人たちが「被害者の会」も作っていたくらいなので、もともと性根の腐ったワルであったということが判明している。しかし、ハンサムで見た目が誠実そうな感じなので、彼と関わった人たちはみんなうさん臭い話に騙された。

「株価が倍になる」とか言って聞いたこともない会社に出資を勧められたら詐欺に決まっているのだが、不思議なことにみんな次々と騙される。

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「投資したら倍になる」「元本保証」「絶対に儲かる」

投資セミナーなどを開いて、それらしい話をして「投資したら倍になる」「元本保証」「絶対に儲かる」とか言い出すと、120%詐欺の話なのだが、それでも世の中には次々とカモが現れて彼らにカネを託すのだから興味深い。

最近は仮想通貨(暗号通貨)の詐欺も一般化している。「何とか暗号通貨プロジェクトで金持ちになれる」とか「この暗号通貨を買えば10倍になる」とか言って、カモを募る詐欺師も雨後の筍のごとく出現して若者を騙しまくっている。

最近では鳥栖市の50代の男性がSNSで投資関連グループに誘われて入り、「この暗号資産の投資をすれば絶対に儲かる」と言われて信用して930万円を騙し取られたという事件もあった。

この事件では騙された男性が「騙された」と思ったのではなくて、話を聞いた知人が「騙されている」と気づいて発覚した。この知人がいなければ、被害者男性はもっとカネを毟り取られていただろう。

インターネットが中高年や高齢者にも行き渡り、SNSもすっかり定着した今では、自分のアカウントにいきなり海外の人間から「こんにちは、私は日本に興味あります」とDM(ダイレクトメッセージ)が入ることも多い。

そういうのに相手にして、そこから「あなたが好きになりました」とロマンス詐欺に導かれる事件も問題になっている。このロマンス詐欺もだいたいは「この仮想通貨を買ってくれ」みたいな話になる。仮想通貨では相手を追うことができないので犯罪が露見しにくいからだ。

こうした詐欺事件をつぶさに見ていると、被害者は「投資で失敗した」のではなくて「人を安易に信用して失敗した」ということが見えてくる。投資が問題なのではなかった。それ以前に詐欺師にうまく丸め込まれる性格が問題だったのである。

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金を出せ=詐欺師=全力で離れなければならない人

「人を信じる」というのは美しいことなのだが、「見境なく人を信じる」というのはただの愚か者でしかない。

現代の弱肉強食の資本主義では「金こそすべて」という思想が渦巻いている。この「金こそすべて」を極限まで突き詰めているのが詐欺師やカルトやセミナービジネスやネットワークビジネスである。

私は東南アジアのアンダーグラウンドに長くいたので、私のまわりは詐欺師だらけで私も何度も詐欺師にアプローチをかけられている。だから、よく分かるのだが、詐欺師はいかにも詐欺師みたいな胡散臭い姿でやってくるわけではない。

まったくの逆で、成功している詐欺師であればあるほど、清潔感に溢れて、優しくて、気が利いて、言葉もていねいで、物腰も柔らかい。しかも知的で頭の回転が良く、話す内容にも非常に説得力がある。そのため、自ら「信じたくなる」のである。

裏の世界や底辺の世界では性根の腐った人間のクズが山ほどいるが、そうした人間はだいたい格好からして威嚇型である。遠くからも見て分かる。避けようと思ったら避けられる。

避けられないのが、一緒にいると居心地の良い人なのである。

詐欺師は信用されるために最初だけは誠心誠意いろいろ親切にしてくれる。だから、詐欺師が最も理解ある人のように見えてしまう。そして、詐欺師が仕掛けてきた時は、「疑うのは悪い、信用してみよう」という気持ちになってしまう。疑うのが申し訳なくなるのだ。

では「仕掛け」は見抜けるのか? 私は「金を出せ」という話になった瞬間に、冷めた目で相手を見る癖が付いてしまっている。詐欺師の目的は99%は金なので、「金を出せ」という話になったら、どういう状況であれ目の前の相手に対する信用をいったん遮断する。

途中まで騙されても、「金を出せ=詐欺師=全力で離れなければならない人」と私は自分の中でルール付けしている。

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まず最初に覚えなければならない金融リテラシーとは?

日本人は「海外で騙されやすい民族」であるのはよく知られている。それは、日本の社会があまりにも誠実な人が多いからでもある。

日本社会が詐欺と騙しが横行する社会であれば、「他人は信用するな」という警戒心が極度に磨かれる。しかし、悪人がいない社会ではそうした警戒心は磨かれないし働かない。だから、治安の良い社会であればあるほど騙されやすい。

私は警戒心が高い方だが、それでも海外では私の警戒心を上回るほど他人を信用させるスキルを持った詐欺師に遭遇することもしばしばある。しかし、私が最後の最後まで致命的なことにならなかったのは、「金を出せ=詐欺師」という原則を自分に叩き込んでいたからでもある。

「疑ったら悪い」とか、「今まで良くしてくれたから信じて上げるべきだ」とか、「人を裏切るよりも裏切られた方が良い」とか、「もし目の前の人が本当に善人だったら申し訳ない」とか、そういう感情は一切持たない。

「金を出せ」というシチュエーションになった時点で、「ハメられた」と考えるようにして、目の前の人物を自分から遠ざけることに全力を尽くす。

私も日本人なので、騙されやすい気質がある。しかし、「金を出せ」という状況になったら徹底的に逃げる努力をする。私が他の日本人と違うのは、それを徹底していたことにあると考えている。

そういう目で投資詐欺事件などを見ていると、「金を出せ=詐欺師=全力で離れなければならない人」という考え方を条件反射のように叩き込むのが、真の金融リテラシーなのではないのかと思ったりする。

「心地良いセールス文句は疑う」
「絶対に儲かると言われたら疑う」
「カネを出せと言われたら疑う」
「暗号通貨に投資と言われたら疑う」
「都合の良い話は疑う」
「大勢で説得されたら疑う」

現代の弱肉強食の資本主義の中で、詐欺が横行している。そうであるならば、まず最初に覚えなければならない真の金融リテラシーとは、「自分が詐欺師のカモにされないこと」である。

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