グローバル資本主義の終焉がきつつある。その次に台頭するのは何かを考えるべき

グローバル資本主義の終焉がきつつある。その次に台頭するのは何かを考えるべき
ドナルド・トランプ

「グローバル資本主義」そのものに対する疑念や不信や反対が湧きあがっている。34年ほど続いたこのグローバル資本主義は、そろそろ終わろうとしつつあるのではないか。その次に台頭するのは何か。それは私たちがまだ想像したこともないようなものかもしれない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

バイデン大統領は敗北するかもしれないという分析

今年、2024年のアメリカでは大統領選挙の真っ最中なのだが、共和党はトランプ前大統領が対抗するニッキー・ヘイリーに大きな差をつけて圧倒的な力を示している。トランプ前大統領が名実共に共和党の大統領候補で一本化されると、2000年のジョー・バイデンvsドナルド・トランプの再来となる。

民主党のジョー・バイデン大統領は高齢と健康が問題視されており、支持率は1月の時点で38%と低迷している。

「11月、バイデンに解雇を言い渡す。出ていけという」とトランプは吠えている。通常、二期目の選挙は現職大統領が圧倒的に有利なはずなのだが、もしかしたらバイデン大統領は敗北するかもしれないという分析も増えてきた。国内外では「トランプ復活」に備える動きも出てきた。

この「バイデンvsトランプ」の中で、常にクローズアップされているのが「国境問題」である。バイデン大統領は人道主義であり、不法移民に対しても非常に優しい政策を取ったせいで、治安悪化に苦しむ中南米から大量の移民が殺到して、収集不可能な状態になってしまった。

トランプは「不法移民はアメリカの納税者の汗と貯蓄を食い物にしようとしている。ただちに、すべてを終わらせる」と、いっている。もし大統領に返り咲いたら、不法移民に対してはかなり強固な対応をしていくのは100%確実となった。

さらに、トランプは「米国第一主義」をさらに強化すると明言している。米国企業を法人税減税で富ませ、さらに米国民には所得税の減税で富ませる方針だ。

そして、アメリカに敵対する中国に対しては、さらなる関税引き上げで対抗して、アメリカ企業による中国への投資も制限すると述べている。

全体を見ると、何が起きているのか明白だ。ドナルド・トランプは筋金入りの「米国第一主義」であり、その観点で見ると「反グローバル主義」である。トランプが返り咲くと、場合によってはグローバル資本主義から「新しい時代」への転換となる可能性がある。

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1990年頃から始まったグローバル資本主義

1945年から1989年は「冷戦の時代」だった。社会主義と資本主義のイデオロギー対立が起きて、アメリカとソ連は激しく対抗して世界は二分された。

ベトナム戦争も、「アジアを共産化するわけにはいかない。いったん、どこかが共産化したらドミノ倒しのようにまわりの国々も共産化する」というドミノ理論の中で、民主主義を守るためにおきた代理戦争でもあった。

アメリカはこの戦争に負けた。しかし、1989年には非効率な国家運営で経済逼迫を起こしたソ連は自滅的に国家崩壊し、最終的には資本主義が共産主義を打ち負かしたのだった。

そして、1990年頃から始まったのが「グローバル資本主義」であった。グローバル企業が国境を超えた経済活動の活発化させ、政府は自由主義を推進し、金融はグローバルで密接に結びついて一体化して、資金が世界規模で迅速に移動するようになっていった。

そして、それにともなって人の動きも活発化するようになり、「グローバル資本主義」は新しい価値観を生み出すようになってきた。

しかし、1990年から本格化したグローバル資本主義は、2020年代の現在、大きな問題に直面している。グローバル企業や先進国が利益を独占し、途上国や労働者が取り残されることで、経済格差が拡大していった。

経済成長の恩恵を受けられない人々が貧困に陥り、途上国だけでなく、先進国でも生活困窮者が増加している。さらに、企業はグローバルな競争力に対抗するためにコスト削減を徹底化するようになっており、低賃金、長時間労働、劣悪な労働環境などが常態化するようになった。

そして、途上国の人々はより良い環境とインフラと福祉を求めて先進国に殺到するようになり、移民問題が深刻化するようになった。移民問題は文化摩擦、地域破壊、国家内の文明の衝突を引き起こし、対立と衝突と憎悪が先鋭化させる。

多文化共生という隠れ移民政策を行っている日本でも、民族間の対立や衝突が目立つようになってきた。

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EUという組織体は「グローバル資本主義」そのもの

そのため、「グローバル資本主義」そのものに対する疑念や不信や反対が湧きあがっているのが今の時代である。トランプ前大統領が支持される大きな要因がここにある。グローバル資本主義の弊害が「反グローバリズム」の大きなうねりを生み出しているのだ。

1945年から1989年までは冷戦の時代。
1990年から現在まではグローバル資本主義の時代。

34年ほど続いたこのグローバル資本主義は、そろそろ終わろうとしつつあるのではないかと私は考えている。

「グローバル資本主義」の終わりは、アメリカだけに現れている兆候ではない。EU(欧州連合)では、とっくの前から政府の寛容な移民政策に対する反発が政治を変えていて、マスコミが「極右」とレッテルを貼って排除する右派組織がどんどん誕生して反グローバリズムが定着しつつある。

ドイツでも移民にあまりにも寛容だったメルケル政権の反動として、『ドイツのための選択肢(AfD)』が最大の保守勢力として台頭し、機能するようになった。これについては、ドイツ在住のジャーナリストである川口マーン惠美さんにも話を聞いている。

凋落していくドイツ。なぜドイツはこうなってしまったのか、川口マーン惠美さんに聞く=鈴木傾城
https://www.mag2.com/p/money/1368213/4

イギリスがプレグジットでEUを脱退したのも、その根底には移民問題に対して国内で激しい反発があった。EU域内の人々は国境を越えて自由に移動できるため、イギリスにも多くの移民が流入して、公共サービスへの負担や失業率への懸念が国民の間で高まっていたのだ。

また、EU加盟国は、EUの法律に従う必要がある。EUという組織体は「グローバル資本主義」の思想によって形づくられたものなのだが、イギリス人はそれに反旗を翻したのである。プレグジットそのものが、反グローバリズムであった。

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「グローバル資本主義の次」に何が台頭するのか?

そして中国もまたグローバル資本主義に背を向けようとしつつある大国だ。中国はすでに1980年代後半から共産主義に限界を感じ、共産主義的な資本主義に転換していたのだが、そのときに掲げられたのが「先富論」だった。

これは、「先に富を得られる人が豊かになって、豊かになった人が社会に富を還元する」という考え方だったが、これに則って中国はひたすら資本主義にひた走って世界第2位の経済大国になるところまで成りあがった。

しかし、2021年8月、習近平国家主席はふたたび「共同富裕」を持ち出した。その背景には中国のあまりにも開きすぎた格差の是正にある。中国も上位1%の富裕層が国全体の資産の30%を保有するほど「いびつ」な社会になってしまっていたのだった。

この格差の是正のために「共同富裕」が持ち出され、さらに欧米のグローバル資本主義からも排除されつつある現状から、内需だけで国をまわす方向に向かいつつある。まさに、反グローバリズムの動きである。

折しもロシアもウクライナ侵攻によって欧米のグローバル資本主義から排除されており、国際社会の分断が明確になってきている。

世界を俯瞰すると、明確にグローバル資本主義が機能しなくなりつつあることがわかるはずだ。アメリカでドナルド・トランプが再登場したとき、グローバル資本主義は本格的に終焉を迎えていくのかもしれない。

ただ、気がかりなのは「グローバル資本主義の次」に何が台頭するのか見えてこないことだ。私はもしかしたら、「AI資本主義」のような、私たちがまだ考えたこともないようなものが生まれてくるのかもしれないと思っている。

AI技術が経済活動に深く浸透し、社会システム全体を変革する新たな経済体制を生み出し、それが新しい社会を作るのではないか。AIは、自動化、データ分析、意思決定支援などを通じて、生産性を大幅に向上させることができる。

政治・経済はより効率化し、AIをめぐって各国での経済・文化・国防での対立が起きていくようにも思える。私は、そろそろグローバル資本主義の次がどうなるのかに関心を移している。

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