仮想通貨は投機家と失敗国家の通貨。失敗国家の人間ではないのなら必要ない?

仮想通貨は投機家と失敗国家の通貨。失敗国家の人間ではないのなら必要ない?

自国の経済が脆弱な時、政府は仮想通貨が「怖い」のだ。なぜか。それは「マネーロンダリングの温床になる」からである。ここ最近の事例で言うと、ルーブル防衛をするロシア政府が、まさにマネーロンダリングの防止のために仮想通貨による取引を強化させている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

「誰も仮想通貨の正当な価値が分からない」という点

仮想通貨「Terra(LUNA)」が、たった一晩で99.99%の暴落をして、これを保有していた約20万人の投資家が阿鼻叫喚の地獄に転がり落ちているのだが、こうした事態を受けて他の仮想通貨も軒並み暴落している。

実は、この事件がなくても仮想通貨市場は今年に入ってから下落・下落・下落を繰り返しており、市場の状況はまったく芳しくない。仮想通貨への信頼が揺らいでいる。ゴールドの代替となるという意見もあったが、現実はそういう状況になっていない。

仮想通貨の市場は凄まじく値動きが荒く、いったん暴騰すればどこまでも暴騰するが、いったん暴落すればどこまでも暴落する。

なぜ仮想通貨はこれほど値動きが激しいのかというと、相場の健全性を守るための保護もなければ、投資家の保護もないからでもある。だから、ストップ高もないしストップ安もない。

だから、仮想通貨Terraのように、朝起きたら資産の99%が吹っ飛んでいたみたいな出来事が平気で起こるのだ。ちょうど1年前2021年6月16日にはイケダハヤトという著名人が持ち上げていた仮想通貨「TITAN(チタン)」も、やはり一日で価値ゼロになったこともあった。

仮想通貨は、有り体に言えば鉄火場(ギャンブル市場)なので、一攫千金を狙った人間がイナゴのように市場に押し寄せている。そのため、値動きは半端なく強烈なものになっていくのである。

そして、仮想通貨の値動きの荒さは、もう一つ「重要な理由」がある。

それは、「誰も仮想通貨の正当な価値が分からない」という点にある。仮想通貨というのは、いったい何を持ってその価値を計ればいいのか、確かなモノサシを誰も持っていない。だから、価格が凄まじく動く。

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自国の経済が脆弱な時、政府は仮想通貨が「怖い」のだ

仮想通貨に関しては、今も 「ドルや円のような法定通貨に取って変わる」と言う人もいるし、「通貨というよりもゴールドのようになる」と言う人もいる。

今ではもう、あまりそのような夢を語る人は少なくなっているのだが、それでも一部には強固な仮想通貨「信者」がいて、カルト的に仮想通貨至上主義を語る人もいる。

一方で、あるいは「仮想通貨は詐欺だ」と吐き捨てる人もいるし、「仮想通貨は各国政府の規制によって無価値になる」と考える人もいる。たとえば、稀代の投資家であるウォーレン・バフェットもそのような考え方を持つ人のひとりだ。

私は、仮想通貨は法定通貨としてよりも、マネーロンダリングとしてはそれなりに役に立つ通貨ではないかという認識は持っている。まったく役に立たないのではなく、マネーロンダリングくらいには使える、という意味だ。

エルサルバドルは2021年にビットコインを世界で初めて法定通貨にしたのだが、途上国では積極的に仮想通貨を法定通貨にしようとする国もあることはある。自国通貨に信用がないので、「開き直り」で仮想通貨を法定通貨にするという動きであると言える。仮想通貨をそういう使い方をする国もある。

しかし一方で仮想通貨に関連する活動を「違法」と位置付け、徹底的に取り締まる国もある。仮想通貨がマネーロンダリングやテロ資金の温床になるのを恐れる国は禁止に入る。そのような国は50ヵ国ほどある。

自国の経済が脆弱な時、政府は仮想通貨が「怖い」のだ。なぜか。それは「マネーロンダリングの温床になる」からである。ここ最近の事例で言うと、ルーブル防衛をするロシア政府が、まさにマネーロンダリングの防止のために仮想通貨による取引を強化させている。

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「仮想通貨は投機家と途上国の人間の通貨」と言われる理由

国家が危機に瀕して通貨価値がゼロになりそうな国の国民は、国民はとにかくドルのような強い信用のある通貨に変換したいと思う。自国通貨が無価値になるのであれば、一刻も早く自国通貨を「捨てたい」と思うのだ。

それを察知して、政府は自国通貨をドルなどの外国通貨にエクスチェンジするのを防止する。

それもそうだ。国民全員がそんなことをしたら、途上国の政府が発行する通貨はますます下落して無価値になる。だから、途上国の政府は国民がドルのような強い通貨を手に入れられないように「通貨規制」を必死でする。

そこで国民は、じかに自国通貨からドルに返還するのではなく、政府の規制から逃れるためのリプレースメント(代替品)を噛ます。

それが仮想通貨なのである。まず自国通貨を仮想通貨に変換して政府の規制を逃れてから、後で外国通貨に変えるのだ。

自国通貨
 ↓
仮想通貨(ここで存在を消す)
 ↓
ドル等の他国通貨

ドルはいつの時代でも「崩壊する、もう崩壊する」と言われ続けているのだが、それでも世界が動乱に入ったら、もっとも頼りにされるのがドルである。現在、世界で最も強大な国家はアメリカであり、そのアメリカが発行するドルは世界で最も信用のある通貨なのだ。

政府がそれを避けようとしたら、国民は窮余の策でリプレースメント(代替品)としての仮想通貨を噛ます。だから、「仮想通貨は法定通貨としてよりも、マネーロンダリングとしてはそれなりに役に立つ通貨ではないか」と私は思っている。

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失敗国家の人間ではないのなら仮想通貨は必要ない?

中国もここ数年で仮想通貨に対する規制は非常に厳しくしているのだが、それもマネーロンダリングの手段としての仮想通貨の利用を避けるためでもあった。そして、今のロシア政府がやっているルーブル防衛はまさに、それである。

マネーロンダリングの防止だ。

ロシア政府はルーブルを他の通貨と交換できないようにありとあらゆる縛りをかけて価値を維持している。そんな状況なので、仮想通貨という「抜け道」を無防備に放置するわけがない。

他国の紙幣と交換するのが難しければ、仮想通貨に移して資産を保全するか、もしくは「ルーブル→仮想通貨→ドル」という流れで外貨を手に入れようとする国民の動きをロシア政府は完全に封じ込めるのは当たり前なのである。

仮想通貨は、まぎれもなく「自国通貨が信用できない」と思っている人間がドルを手に入れるための「抜け道」であり、国民による必死の生き残り策のために使われるのである。

「仮想通貨は投機家と失敗国家の通貨」と言われる理由は、こうした現状を指して言われている。ただ、「マネーロンダリングの手段としては使える」という意味で仮想通貨は無意味ではない。

仮想通貨自体は暴騰・暴落を繰り返したり、「Terra(LUNA)」や「TITAN(チタン)」の蒸発を見ても分かる通り、洗練された存在であるというわけではない。仮想通貨が真の意味で「通貨」になるには、まだまだイノベーションが足りない。

資産として仮想通貨を考えるのは、まだまだ時期尚早だろう。失敗国家の人間ではないのなら、金融資産として仮想通貨を考える必要はまったくない。

今のところは……。

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