2020年代に入って社会はますます弱肉強食の資本主義になっている。この中で経済的などん底に転落していく人も多い。うかうかしていると誰でも苦境に落ちる。そんな中で転落しないで生きていくためには、どうすればいいのか。何か特別なマジックが必要なわけではない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
人々が社会から転落していくリスクが今後も続くということ
岸田首相は「新しい資本主義」と言ってうやむやにし、「令和の所得倍増」と言ってうやむやにし、「金融所得倍増」と言ってうやむやにし、「資産倍増」と言ってうやむやにし、今度は「異次元の少子化対策」と言い出して何かしようとしている。
そんな中で、物価高や電気代高騰が人々の首を締め上げるようになってきており、とても「令和の所得倍増」どころではない。実質賃金はむしろ、毎月連続して下落基調にある。
大企業では賃金の引き上げが為されていると報道されているのだが、日本において大企業が占める割合は3%であり、残りの97%は中小企業である。そして、その中小企業では賃金を引き上げる余裕はほとんど残されていない。
帝国データバンクによると、賃金の引き上げができない企業が従業員をつなぎ止めることができず、退職や離職が増えて倒産する企業も増え出していることが報告されている。建設業でもサービス業でもそうした動きが起きている。
中小・零細・個人事業主が追い込まれている。さらに言えば、コロナ禍の中で打ち出されたゼロゼロ融資も終了した。ゼロゼロ融資というのは、中小企業の資金繰り支援策として政府が実施した実質無利子・無担保の融資を指すのだが、これの返済がすでに始まっている。
しかし、コロナ禍が収束してきた中で今度は物価高・電気代の高騰が襲いかかってきている。そして欧米では利上げが続いて企業活動の動きが停滞しつつあり、とうとう銀行破綻も起きて「景気後退《リセッション》入りか」とも身構えられている。
景気後退が起こったら、真っ先にクビを切られるのは非正規雇用者であるのは言うまでもない。非正規雇用者はすでに日本では4割近い人数である。コロナ禍は落ち着きつつあるが、人々が社会から転落していくリスクが今後も続くということだ。
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30年も経済成長をさせることができない無能たち
日本は30年以上も成長できなかった国であり、今の政治形態が続いている限りは、これからもずっと低成長が続く。他国が経済成長しているのに、日本だけ成長していないのであれば、それは後退しているも同然である。
日本が他の東アジア国家に比べても経済規模で見劣りするようになっているのは、まさに今の政治家が「30年も経済成長をさせることができない無能」だったからに他ならない。
その結果として貧困に落ちる日本人も増えて、いまや貧困は日本最大の社会問題となってしまったのだった。
かつて日本は「一億総中流」とも言われたくらい中流層が厚い層を成していて、それが内需を支えていた。しかし、その中流がバブル崩壊以後の30年の凋落の中で、加速度的に下流に転落していくようになっていた。
まだ、下流に転落していない人であっても、自分はいつ社会のどん底に転落してしまうのか不安を抱えながら生きている。
人々が社会から転落していく要因はいくつもある。このどれもが、それほど奇異なものではなく、日常でよく見聞きするものであることに注目して欲しい。誰もが、自分の身に起きる可能性がある。
1. リストラ。倒産。
2. 学歴不足
3. 劣悪な労働環境。初職の挫折。不安定就労。
4. 病気。本人の精神疾患。家族の病気。
5. 若年妊娠・シングルマザー。
6. 頻繁な転職。
7. ドラッグ、犯罪の露見、犯罪歴。
8. 結婚の失敗、家庭崩壊。
9. 親との断絶、住居不安定。
10. ギャンブル、借金。過大な住宅ローン。
11. 小規模な事業経営の不振。
12. 社会の景気悪化、景気後退。
13. 年金不足、社会保障制度の劣化。
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資本主義的に弱い人々が転落していくリスク
今の政治家に日本社会を成長させる能力がないのであれば、私たちは個人はこれからも経済的に苦しい戦いになってしまう可能性がある。国が凋落していくのであれば、経済のパイが小さくなっていくのだから、その小さいパイの奪い合いとなる。
そのため、社会は極度に弱肉強食化し、資本主義的に弱い人々が社会のどん底に転落していくことになる。
人は、誰もが完璧に生きているわけではない。いろいろな問題を抱えながら、慎ましく生きている人の方が多い。
非正規雇用や派遣労働者で生きている人は資本主義的に弱い人々かもしれないが、日本社会はそういう人たちを大勢作り出した。そして、社会は彼らを都合良く低賃金・悪条件で雇ってみたり、クビを切ったりしてきた。
景気や企業の動向に翻弄されて生きている彼らは資本主義的に弱い立場になって当然である。
誰が非正規雇用や派遣労働者になるのか。それは低学歴を余儀なくされた若者であったり、最初から使い捨ての立場で雇われることが多い女性であったり、体力を失ってしまった高齢者であったりする。
日本では働く女性の半数が非正規雇用者であり、若い女性の3人に1人は相対的貧困の状態にある。シングルマザーのような立場になった女性に至っては半数が貧困状態なのである。
極度に弱肉強食化した社会は、人々を過酷な労働に追いやったり、大きなプレッシャーを与えることになる。そうなると、アルコール依存となったり、精神的に潰されてうつ病になったりするケースも増えていく。
耐えられなくなって会社を辞めると、社会的に孤立していき、大きな孤独感を抱えてセルフネグレクトに至ったりする。そうやって、資本主義的に弱い人々が転落していくリスクが高まっているのが今の時代なのである。
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自分が壊れたら定期収入も自己研鑽も日常生活もマイナス
私たちは、これから極度に過酷になっていく日本社会の中で生きなければならないのだが、そのためには自分のできることを何とか積み上げていくしか道はない。転落しないために私たちができることをしていくしかない。
自分の就労能力を引き上げるというのは、誰もが真っ先に考えなければならないことである。職業において必要なスキルを習得するために資格を取得するとか、新しい技術を身につけることも必要だろう。
どのみち、日本政府はアテにならないし、企業も人材をコストと考えて安く使って切り捨てることばかり考えているので、かつての終身雇用の時代とは話が違う。自分の教育は自分でやらないといけない時代になっているのだ。
その上で、この過酷な社会で転落しないために、次の3つも意識しておくといいのかもしれない。
1. 定期的な健康管理をする。
2. 節約と投資をする。
3. 社会的なつながりを大切にする。
健康管理は大切だ。自分が壊れたら、定期収入も自己研鑽も日常生活もすべてマイナスになってしまう。健康な時は健康について考えることはないが、健康はすべてを支えているので転落しないための、本当に大きな要素であるとも言える。
そして、この物価高と収入不安定化の社会に自己セーフティーネットとして機能する貯金を増やす必要がある。そのために節約は必要な技能である。さらに、社会的なつながりを大切にするために、人的なネットワークも広げていく必要があるだろう。
弱肉強食の資本主義が加速する中、転落しないで生きていくためには、何か特別なマジックが必要なわけではない。トリックは要らない。当たり前のことをきちんと積み上げて、日常をていねいに生きればいい。
世の中が悪化していくのであれば、生き方をベーシック(基本)に戻すことが転落への予防となる。