業界の注目を浴びているファーストカジュアルレストランチェーンがある。アメリカを中心に店舗を展開するチポトレ・メキシカン・グリル(Chipotle Mexican Grill)だ。熾烈な競争の中にあるレストラン業界の中で、なぜチポトレは躍進することができたのか?(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
チポトレ・メキシカン・グリルの躍進と株価上昇
5年間で348%も株価が上昇し、業界の注目を浴びているファーストカジュアルレストランチェーンがある。アメリカを中心に店舗を展開するチポトレ・メキシカン・グリル(Chipotle Mexican Grill)だ。
1993年にコロラド州デンバーで設立され、現在はアメリカ国内外に約1800店舗を展開している。チポトレの名前は、ナワトル語で「燻製唐辛子」を意味する「チポトレ」に由来しているという。
ニューヨーク証券取引所に上場したのが2006年だった。調達した資金で、チポトレは店舗網を大きく拡大していく。現在では、アメリカ国内の主要都市のみならず、カナダ、イギリス、フランス、ドイツなどでグローバル展開している。
現在のCEO(最高経営責任者)はブライアン・ニコル氏だが、彼が就任した2018年から売上と純利益は毎年のように伸びており、現在の時価総額は$90.18B(約14兆428億8200万円)、売上高は通期で$9.87B(約1兆5792億円)、当期純利益 (通期)は$1.23B(約1968億円)となっている。
当期純利益から見ると、2020年まで6%台であったものが、2024年には約12%にまで伸びているので、ここ数年の躍進がすごい。
マクドナルドの時価総額は約30兆2240億円なので、企業の規模的にはマクドナルドの約半分に到達しているのがわかる。
創設者はスティーブ・エルス。彼はシェフとしての訓練を受けたあと、カジュアルな雰囲気で高品質な食材を使用したメキシコ料理を提供するレストランを開くことを目指した。
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消費者から高い支持を得るようになっていった
チポトレはファーストカジュアルの業態に分類されるのだが、これはファーストフードの手軽さとフルサービスレストランの高品質を兼ね備えたチポトレ特有のスタイルである。
注文はカウンターで行われる。顧客は自分の好みに合わせて、料理をカスタマイズできる。この形式は食事のスピードと品質を両立させるもので、とくに忙しい都市部での人気を支えている。
チポトレのメニューはシンプルだが、カスタマイズ性に富んでいる。主なメニューアイテムには、ブリトー、タコス、ボウル(米やサラダをベースにしたもの)、キサディーヤなどがある。
注文はその場で調理され、顧客は自分の好みに合わせて肉、野菜、豆類、サルサ、チーズ、サワークリーム、グアカモーレなどのトッピングを選ぶことができる。これらはすべて新鮮な食材を使用している。
じつは、チポトレは2015年に食中毒事件を起こしており、イメージが失墜したことがあった。
ここからチポトレは売上が落ちても品質の安全性に集中し、「Food With Integrity(誠実な食)」という理念で食材の調達から調理までの全過程で高い倫理基準を維持することに邁進した。
ただ安全なだけでなく、抗生物質やホルモン剤を使用しない家畜からの肉、新鮮で有機栽培の野菜、環境に配慮した調達方法などを取り入れている。このような高品質な食材を使っていることもアピールするようになった。
昨今の欧米は健康志向ブームだ。高品質な食材を使うことで健康志向に乗り、チポトレは消費者から高い支持を得るようになっていったのだった。
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徹底的な「テクノロジーの活用」と「広告戦略」
2020年以後、チポトレが急激に売上を伸ばし、株価を飛躍的に上昇させたのは、以前から行っていた「柔軟なメニュー構成」と「適切な価格設定」と「高品質な商品の提供」と共に付け加えられたものがあった。
それは、徹底的な「テクノロジーの活用」と「広告戦略」である。
チポトレは最新のテクノロジーを積極的に導入し、業務効率化と新規顧客の開拓を行っている。
AIを活用した厨房管理システム、ロボット化による業務自動化などもいち早く取り入れ、需要予測に基づいて食材の準備を最適化し、在庫管理システムの追跡機能(トラッキング)を強化した。
さらに、チポトレは積極的に2030年までにCO2排出量を50%削減する目標も掲げている。こうした動きは、チポトレが「誠実な企業である」という姿勢を強調するものとなって企業好感度が上がった。
実際に広告では、チポトレが「誠実な食」を追及する企業であること、そして「環境に配慮」した企業であることが強調されている。一方で、若者にも訴求するために、ゲームやメタバース体験で、ゲーム内の通貨を実際の商品と交換できるプロモーションを打ったりしている。
新しい決済システムも矢継ぎ早に取り入れ、特典プログラムを導入し、顧客ロイヤルティを高める戦略も進めている。チポトレは単なるレストランチェーンではなく、ハイテクで武装したレストランチェーンとなったのだ。
これを、強烈なスピード感で行っている。
現在のCEO(最高経営責任者)であるブライアン・ニコル氏のこうした包括的な戦略が組み合わさって、チポトレは競争の激しいファストフード市場で成功を収め、それが株価に反映されるようになってきているのだった。
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チポトレは「生き残り、勝ち続ける」か?
2024年3月の時点で、2500近くのファンドがチポトレ(CMG)の株式を保有している。半年前から見ても10%以上の増加率であった。チポトレの株価を「買い」だと評価する投資家が増えていることを意味している。
現在、チポトレの過去4四半期の利益成長率の平均は約27%であり、これは業界の平均14%よりも圧倒的に大きい。チポトレが属しているレストラン業界の54の銘柄の中でもトップである。
そして、チポトレは6月26日、同社初の50対1の株式分割を行ったのだが、これによって個人投資家も買いやすくなる。次の決算も良い数字が出てくれば、そこで個人投資家も巻き込んでさらに株価が上がっていく可能性もある。
ただ、レストラン業界は熾烈な戦場であり、食中毒事件が起きたら株価は暴落するし、またパンデミックのような事態になれば客足は消えるし、顧客の嗜好が変わればやはり売上は急に落ちたりする。
チポトレがマクドナルドのような何があっても生き残り、勝ち続ける企業になるかどうかは、まだ未知数だ。しかし、現在のCEOの元でハイテクでデータを徹底分析して効率化と改善を繰り返して成長率を引き上げていくチポトレは「生き残り、勝ち続ける」と考える投資家が多い。
興味深い企業でもある。
ちなみに、このチポトレはアメリカの都心部中心で店舗を展開しており、日本には進出していない。日本人にはメキシコ料理はまったく馴染みがないものであり、チポトレの存在も知らない人のほうが大半だと思う。東南アジアにも進出していない。
私自身は投資の対象としてはチポトレは見ることがありそうだが、アメリカにいく予定はまったくないので、残念ながら食べる機会はなさそうだ。一度くらいはチポトレで食べてみたい気持ちはある。