半導体はさまざまな製品の「頭脳」として不可欠な存在であり、デジタル社会の進展とともに、これからも絶対に外せないセクターである。生成AIの台頭によって成長がブーストされているのだが、生成AIに火が付いたのは2023年で「まだ、はじまったばかり」なのだ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
「生成AI需要の急増」は半端なものではない
今、半導体セクターは注目の的となっているのだが、その理由はいうまでもなく生成AI(人工知能)の台頭による半導体の需要が拡大し続けているからだ。生成AIには大量の計算リソースが必要で、高性能な半導体が不可欠なのだ。
とくに注目されているのは画像処理半導体の世界的大手エヌビディアである。この企業は生成AIブームに大きく恩恵を受けており、「生成AI需要の急増に対して供給を大幅に増やしている」とCEOジェンスン・フアンも述べている。
エヌヴィディアの売上高は2024会計年度第4四半期の決算で221億300万ドルを叩き出しているのだが、これは前年同期の3.7倍だった。これを見ても「生成AI需要の急増」が半端なものではないことがわかるはずだ。
現在、株価は900ドル前後で停滞しているのだが、このAI特需を見ていると、株価1000ドル超えなど普通にクリアして、1100、1200、1300ドルと伸びていくだろう。私自身は5年後には、エヌヴィディアの株価が1500ドル超えになっていたとしても驚かない。
それほど、今のAI特需は大きいからだ。今の私たちがインターネットやスマートフォンがない時代など考えられないのと同じように、今後の社会はAIがない時代など考えられないとなるだろう。
そして、考えなければならないのは、このAI需要をエヌヴィディア一社では到底まかないきれないことだ。たしかにエヌヴィディアは現在、世界最高峰のGPUメーカーなのだが、今後はAIを中心に多くの半導体メーカーが独自の競争力を持ったチップを開発してくることになる。
アップルは先日、iPad Proの新型モデルにM4チップを搭載してきたのだが、これはAI向けチップとして設計されたものであり、アップル製品は今後のAI時代にM4チップで対抗していくことになる。
AMDもインテルもAIチップで巻き返しを図っており、現在はソフトバンクGの子会社となっているARMもAI部門を立ち上げ、2025年春にはプロトタイプを完成させると発表している。
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SMH(ヴァンエック・半導体株ETF)
エヌヴィディア、AMD、インテル、クアルコム、そしてARM、さらに多くの半導体メーカーがAIに照準を合わせて全力で開発競争に向かっている。そして、AIの需要の強さから見ると、これらの半導体メーカーの多くに恩恵がもたらされる可能性がある。
さらに、半導体を実際に製造するファンドリービジネスをやっているTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)も、より巨大な企業へとなっていくだろう。
現在、2023年からの驚異的な「爆上げ」によって、だいたいどの企業も株価が一服しているのだが、AI特需がこれからも続くとしたら、半導体セクターの企業を丸ごと手に入れるというアイデアは悪くない。
それにふさわしいETFが、SMH(ヴァンエック・半導体株ETF)である。ETF【SMH】の構成銘柄の上位10位は以下のようになっている。
NVIDIA Corp(20.64%)
Taiwan Semiconductor(12.73%)
Broadcom(7.75%)
Texas Instruments(5.01 %)
Qualcomm(4.99 %)
ASML(4.69 %)
Micron Technology(4.51 %)
Applied Materials(4.51 %)
Lam Research(4.29 %)
Analog Devices(3.80 %)
この上位10銘柄で72.92%を占めているのだが、半導体セクター全体を網羅して時代の波をつかむのであれば、ETF【SMH】は悪くない選択肢でもある。
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半導体セクターは今後も伸びるのか、衰退していくのか?
ETF【SMH】に含まれている企業で、日本人に馴染みがない企業もいくつかある。
ASMLは半導体チップの製造に不可欠な露光装置の分野で世界的なリーダー企業である。とくに、次世代の半導体微細化を実現するEUV(極紫外線)露光装置の市場を独占しており、半導体セクターには欠かせない。
アプライド マテリアルズ(Applied Materials)も、半導体チップを製造する装置の開発・製造を主力事業としている企業で、半導体の性能向上や消費電力削減、歩留まり改善などの技術開発に注力している。
ラム・リサーチ(Lam Research)も半導体分野では世界トップクラスの装置メーカーであり、すでに「原子レベル」での製造を可能にする革新的な装置の開発に注力している。半導体の微細化はすでに原子レベルにまで到達していることに、技術の凄まじさがわかるはずだ。
アナログ・デバイセズ(Analog Devices)も古くから半導体製造にかかわってきた企業であり、125,000社以上の顧客企業に75,000種類以上の製品を供給する企業として異彩を放っている。
ETF【SMH】には、こうした企業がすべて含まれているわけで、このETFを長期保有するのであれば、考えることは1つ。「半導体セクターは今後も伸びるのか、衰退していくのか?」である。
高度な半導体(ロジック半導体)がなければ何も進まない。AIだけでなく、スマートフォン、クラウド、自動運転など、デジタル化の進展に伴い、半導体の需要は今後も拡大する一方である。
さらに半導体は電子機器の「頭脳」になるものだけでなく、エアコン、テレビ、自動車など、電力制御が必要な製品に不可欠なパワー半導体も必要だ。半導体セクターは今後も伸び続けるしかないセクターである。
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「半導体が足りない」と業界が悲鳴を上げている状態
半導体セクターが今後も伸び続けるという確信があるのであれば、ETF【SMH】は買いである。「いや、半導体なんかもう社会は必要としていない」と思うのであれば、ETF【SMH】は売りである。
現在、ETF【SMH】の株価は停滞しているのだが、それは2023年11月から2024年3月までの4ヶ月間で一気に上昇したので「あまりにも成長を先取りしすぎた」と考えた投資家が逡巡しているからに他ならない。
たしかに半導体セクターはあまりにも過大な期待がかけられ過ぎていて、ETF【SMH】を構成するそれぞれの銘柄は一気に上がりすぎた局面はある。そういう意味で数ヶ月の調整は必要であったかもしれない。
しかし、「もう半導体は供給過多でこれ以上必要ない」という局面なのかというと、まったくそうではない。マイクロソフトも、グーグルも、メタも、アマゾンも、とにかく高性能な半導体が必要なので、どんどん半導体に投資している。
「半導体が足りない」と業界が悲鳴を上げているのだ。
半導体はさまざまな製品の「頭脳」として不可欠な存在であり、デジタル社会の進展とともに、これからも絶対に外せないセクターである。生成AIの台頭によって成長がブーストされているのだが、生成AIに火が付いたのは2023年で「まだ、はじまったばかり」なのだ。
生成AIも、ますます賢くなる。折しもOpenAIは2024年5月14日に新モデル「GPT-4o」を発表したばかりだが、人間と同じような自然な会話ができて、プログラムも書けて、50か国以上の言語が解釈できて、人間の感情が読み取れて、人間にアドバイスできるような進化をしている。
もちろん、これを動かすには超高精度な半導体が必須である。今後も半導体セクターの活況は続くと考えるほうが自然だ。そう思うのであれば、多少、市場価格が停滞しようが何だろうが、ETF【SMH】は買いだという判断になるだろう。