「デファクト・スタンダードによる囲い込み」を最重要戦略として使い続けるアメリカ企業

「デファクト・スタンダードによる囲い込み」を最重要戦略として使い続けるアメリカ企業

デファクト・スタンダードでユーザーを囲い込み、さまざまな製品やサービスを提供し、エコシステムが生まれると、囲い込みはますます強固なものになっていく。その状態を確立した後は、製品価格を少しずつ引き上げても、サービスを改悪しても、ユーザーは逃げることはできない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

デファクト・スタンダードによる支配が強烈だった製品

Microsoftが米ゲーム大手Activision Blizzardを買収するという報道でゲーム業界が激震している。買収金額は8兆円近くで、これはMicrosoftにとっても過去最大のM&Aである。

今、メタバース(仮想空間)の分野が急激に勃興しようとしており、フェイスブックも企業名すら「メタ」と変えてしまったが、Microsoftもこの分野に本気で勝ち残ろうとしているのが分かる。

Microsoftが狙っているのは、この企業の歴史を見れば分かる。業界標準(デファクト・スタンダード)である。

Microsoftのデファクト・スタンダードを取りに行く戦略は、もちろん創業者であるビル・ゲイツが得意としていた戦略で、これが今でもMicrosoftの企業文化として受け継がれているのが分かる。

現在でも世界トップの資産家であるビル・ゲイツは、今でこそ慈善家として知られるようになっているのだが、かつてはMicrosoftの創始者としてIBMやAppleと凄じい競争を繰り広げて勝ち抜いてきた経営者だった。

このMicrosoftの決定的な市場独占は、まさにWindowsの成功によって成し遂げられたと言える。

ところで、全世界を掌握したWindowsというOSは、決して「最高のOS」でもなかったし「独創的なOS」でもなかった。堅牢性で言えばUNIXに劣っていたし、グラフィカル・ユーザー・インターフェイスはAppleのOSの真似だった。

しかし、Windowsはマーケティングに成功して優位性をつかんだところで、もはや他が追いつけないほどの圧倒的な独占を手に入れて、それがビル・ゲイツを世界最強かつ裕福な経営者に押し上げた。

Microsoftは最初に確固とした事実上の標準(デファクト・スタンダード)のポジションを手に入れたことによって、その後は独占が独占を生む効果を手に入れたのだ。デファクト・スタンダードによる支配を世界で最も効率的に行ったのがMicrosoftだったのである。

Windowsは当初から「出来の悪さ」が批判されていた。さらに、OSを改変すればするほど重くなり、バグが増え続けていった。それでも人々はWindowsを使い続けた。事実上の標準だったので、そこから逃れられなかったのだ。

アメリカ企業が今でも最強なのは、まさに「デファクト・スタンダード」こそが国家繁栄の基礎であることを政治家も企業家も知っているからだ。だから、アメリカのすべての多国籍企業はデファクト・スタンダードを取りにいく。

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最初に優位なポジションを取って囲い込みを行う

世界中のオフィスでWindowsが最初に取り入れられて、それが事実上の標準(デファクト・スタンダード)と化すると、人々は圧倒的なユーザーを抱えたWindowsを覚えるのが自分の仕事の経歴に役立つと考えるようになっていった。

AppleのMacintoshやIBMのOS/2のような「誰も使っていないOS」を使うのは汎用性がなかったし、どこでも役立つわけでもなかったからだ。

いくらMacintoshがWindowsよりも優れていると思っても、オフィスがWindowsであればWindowsが使える方が単純に有利だったのだ。

Microsoftは最初に優位なポジションを取ったことで、人々を「囲い込む」ことが可能になり、それがさらに次のビジネスにもつながっていった。それが「WS-Word」や「Excel」と言ったオフィス・シリーズである。

Windowsで囲い込み、そこからワープロや表計算といった仕事で欠かせないソフトを提供することで、Microsoftはさらなる「囲い込み」を成し遂げた。

人気があるためにMicrosoftの出すワープロや表計算が標準になると、今度は他社との互換性を維持するためにすべての企業がそれを使わざるを得なくなったのだ。

たとえ、WS-Wordよりもワードパーフェクトや一太郎と言った製品の方が機能的にも優れているとしても、世の中の標準がMicrosoftのオフィス製品となった以上は、その囲い込みの中に入らないとビジネスすらもできなくなってしまった。

会社でも個人でも、みんなMicrosoft製品を使うようになると、もはや他社の製品の性能がいくら素晴らしくても決してMicrosoftのシェアを崩せない。「囲い込み」は、以後のハイテク産業の最重要戦略として現在も機能している。

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最初に優位なポジションを手に入れて囲い込む

いったん「囲い込み」に成功したら、他社が単体的に見るといかに優れた機能の製品を出しても、ユーザーはそれだけで移行しない。世間一般がデファクト・スタンダードの製品を使っている限り、そこからの逸脱にはリスクを伴うからだ。

AppleはパソコンのOS戦争に敗れて次第に市場から捨てられていき、1997年にはついに破綻寸前にまで追い込まれる事態になったのはよく知られている事実だ。

このAppleを復活させたのは帰って来た創業者であるスディーブ・ジョブズだが、ジョブズはすでにMicrosoftが囲い込んだパソコン市場から離れ、iPodやiPhoneという未知の市場を開拓した。

そして、Microsoftが使った「最初にポジションを取って優位性を手に入れて、ユーザーを囲い込む」という戦略をスマートフォンの分野で徹底的に推し進め、iPhoneの中で様々なサービスを推し進めて「囲い込み」に余念がない。

現在、全世界のネットショッピングを支配しているのはAmazonだが、このAmazonもまた最初に莫大な現金をすべて設備投資に費やしてデファクト・スタンダードを取りに行った企業である。

利益よりも拡張を追求し、他社が絶対に追いついてこれないほどのスケールで設備投資して最初に優位なポジションを手に入れてから、次々とサービスを展開させてユーザーの「囲い込み」をする。

利益を積み上げていくのではなく、採算度外視でシェアを取ってから、後で利益を上げるという戦略だ。この「後で利益を上げる」という戦略のコアになっているのが、まさに「デファクト・スタンダード戦略」なのである。

Googleも検索の分野で、そしてFacebookもまたSNSの分野で、シェアを取ってからユーザーを強力に囲い込み、あとで利益を享受するという「デファクト・スタンダードを取りに行く戦略」をそのままなぞっている。

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「囲い込み」というビジネスモデルは崩壊するか?

デファクト・スタンダードでユーザーを囲い込み、さまざまな製品やサービスを提供し、サードパーティでも多種多様な製品が出てきてエコシステムが生まれると、ユーザーの囲い込みはますます強固なものになっていく。

その状態を確立した後は、製品価格を少しずつ引き上げていっても、サービスを改悪しても、ユーザーはもはや逃げることもない。逃げようとしても、すでにどっぷりと囲い込みの中にいるので逃げられないというのが現実だ。

アメリカのハイテク企業はこの「デファクト・スタンダードによる囲い込み」を多用している。これがアメリカ企業の支配の源泉である。

Microsoftが成功させた「デファクト・スタンダードによる囲い込み」の空前の成功は、それこそが富の独占になることを世界に知らしめ、そして最も効果的なビジネスモデルとしてアメリカの超巨大ハイテク企業に踏襲されていった。

しかし、この「囲い込み」の戦略はあまりにも効率的にハイテク産業で機能するようになっているので、いよいよ「巨大ハイテク産業が、中央集権的に世界を支配するのは正しいことなのか?」という声があちこちから上がるようにもなっている。

人々はふと選択の自由がないことに気付き、疑問を感じるようになっているのだ。

ただ、それが分かっていても他に選択肢がない。疑問に思っても、「囲い込み」からは容易に抜けられなくなっている。そんな状況に、人々はうっすらと恐怖をも感じるようになっている。

しかし、これからはAI(人工知能)で私たちの行動さえも解析されることによって、ますますアメリカの巨大ハイテク企業に囲い込まれることになる。そして、現代社会を支配しているハイテクの分野で私たちはアメリカ企業の支配から逃れられない。

すでに日本の企業はデファクト・スタンダードを取り損ねており、ハイテクの世界では競争に勝つことができない。

「デファクト・スタンダードによる囲い込み」をこれからも最重要戦略として使い続けるアメリカ企業は世界中の富を吸い上げ続けることになるのだろう。この中に、日本企業は影も形もない。

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