
「個性や自由や自分らしさ」は他人と自分をバラバラにする。それが大切になると、家族と一緒にいることもできなくなる。家族の個性と自分の個性はまったく違うからだ。自分らしさの方が大切だと過剰なまでに思うようになると、家族の価値観もズレはじめ、バラバラにならざるを得ない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
「人間を孤立させた方が得する」のでそうやっている
日本で進んでいるのは「家族の解体」であることに薄々と気付いている人も多い。大家族は解体して核家族になり、核家族も成り立たなくなって単身化へとなっていった。フェミニストも家族破壊に力を入れている。(マネーボイス:女を追い込むフェミ。男女平等を叫びシングルマザーを困窮させた女性解放論者どもの罪=鈴木傾城 )
総務省の国勢調査によると日本人の「生涯未婚率」は、2015年の段階で男性約23%、女性約14%になっていることが分かっている。生涯未婚率とは「50歳まで一度も結婚したことがない人」を指す。彼らはずっと単身世帯である。
離婚率も35%なので、3組に1組は離婚している。さらに高齢化によってパートナーの死別によって単身世帯となる。あと、20年も経つと単身世帯は約4割を占めることになる。
現代社会の中では、人はどんどん孤立する方向に向かって突き進んでいく。実のところ、この流れはフェミニストの家族破壊運動だけがもたらしたものではない。裏側にもっと大きな存在がある。
「企業」である。
企業は悪意があって家族破壊に歩を進めているわけではない。「人間を孤立させた方が得する」のでそうやっている。ほとんどの企業は国民が大家族になってくれるよりも、核家族になってくれた方が得をするのだ。
そして核家族になるよりも、完全にひとりひとりがバラバラになってくれた方がもっと得をする。単身世帯になってくれればくれるほど良い。
なぜか。理由は、ただひとつ。その方が儲かるからだ。企業はそれが儲かるのであれば、その方向に誘導する。資本主義とは企業の都合の良い方向に社会が変わる。企業はそれだけのパワーがあるからだ。
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10人の大家族が各1人に解体されると企業は10倍の商機が生まれる
たとえば冷蔵庫やクーラーを売るとする。大家族であればひとつの冷蔵庫、ひとつのクーラーしか売れない。しかし、核家族になれば、家族ごとに冷蔵庫やクーラーが売れる。
その家族さえも解体されてバラバラになってくれると、個人個人が違うところに住み、それぞれ冷蔵庫やクーラーを買うことになる。
大家族10人が1つの冷蔵庫を共有するよりも、ひとりひとりがバラバラになってくれて、それぞれが冷蔵庫やクーラーを10台買ってくれた方が企業にとっては都合がいい。
10人の大家族が各1人に解体されると、単純に言うと企業は10倍の商機が生まれるのである。電子レンジ、オーブン、調理道具、テレビ、テーブル、家具、数々の雑貨。人間がバラバラになればなるほど企業は儲かる。
こうしたものを売りつける企業は、間違いなく「家族が解体されていく方向」を望むだろう。
不動産産業も家族が解体されて、人間が孤立化してくれた方が儲かる。家族がバラバラになってくれれば、そのひとりひとりが散らばって違うところに住まいを借りて、家賃を払ってくれるからである。
日本人がみんなバラバラになってくれれば、アパートやマンション等の不動産経営をしているオーナーたちはみんな大喜びだろう。ひとりひとりからバラバラに家賃が取れるようになるからだ。
単身世帯が増えるというのは、儲かることなのだ。
では、シェアハウスはどうか。現在、日本の都会部に広がっているのはシェアハウスという「共同住まい」である。シェアハウスは一見するとバラバラの人間を寄せ集めたものだから、孤立化とは逆の方向を行っているように見える。
しかし、そうではない。実態はバラバラの人間を寄せ集めているだけなので、ひとりひとりが家賃を払う仕組みになっている。一緒に暮らしていても孤立化した集団だから、個人個人から家賃を徴収できるのだ。
家はひとつなのに、住んでいる全員から金が取れる。オーナーは大喜びだ。
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気が付けば「ひとりで暮らし、ひとりで生きる」社会に
家族がバラバラになるというのは、資本主義的に見ると商機が増えるという意味で望ましい。だから、資本主義が優先されている現代社会においては、無意識の中で人間を孤立させる方向に向かっていく。
ひとつひとつの企業は別に「家族を解体させてもっと儲けよう」と壮大な陰謀を持っていたわけではない。しかし、単身世帯が増えた方が企業は儲かるので、単身世帯をことさら「良いもの」のようにコマーシャルでも描く。
それぞれの企業がそのように単身世帯を描き、それぞれの企業が儲かる方向に世の中のあり方を変えようとしたら、人々がそれに影響を受けないはずがない。それが積もって「単身世帯が増えて社会が変わっていた」という結果になったとして驚く人はいないはずだ。
テレビやコマーシャルで何かが宣伝されたら翌日にはその製品がなくなるほど影響を受ける人々が、単身世帯に関して「まったく影響を受けなかった」というのは逆にあり得ない。
私たちが孤立化すればするほど企業は儲かるのだ。現代社会において私たちの意識を支配しているのは紛れもなく企業なので、私たちは知らずして企業に孤立化への道を誘導されている。だから、気が付けば「ひとりで暮らし、ひとりで生きる」ようになっているのである。
今の日本はもう「家族」という形さえも成り立たなくなるほど孤立化している。そのため、最近はあちこちの集合住宅で「孤独死」が当たり前になってきている。高齢者は社会から完全に孤立した。
いや、孤独死するのは高齢者だけではない。若年層も単独世帯が多いので、ひとり暮らしのアパートやマンションで何かがあると孤独死してしまう。
インターネットの世界では「シェアする」「共有する」「つながる」という言葉が大流行しており、孤立よりも結びつきが重視されている。ところが、リアルな社会では「別れる」「孤立する」「断絶する」が流行しているのだ。
リアルな社会が断絶に向かっているから、逆にインターネットの世界ではシェアが「売り物」になっている。リアルな世界で満たされないものを、人々はインターネットで満たそうとしている。
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「個性や自由や自分らしさ」こそが他人と自分をバラバラにする
企業は「俺たちが儲かるから、お前たちはバラバラになれ」と命令するわけではない。そんな独裁主義的なやり方はしない。企業は「新しいライフスタイル」を魅力的に描くことによって、人々を誘導する。
では、家族をバラバラに解体するために、それぞれの企業はどんな「素晴らしいライフスタイル」を提案してくれたのか。たとえば彼らは私たちに「個性と自由を尊重する」というライフスタイルを提案してくれた。「自分らしさ」が何よりも大切であると強く私たちに訴えてくれた。
なるほど、それは悪いことではない。人はみんな個性を持っている。自分らしさを大切にするというのは、誰も否定できない考え方である。
ところが、その「個性や自由や自分らしさ」こそが他人と自分をバラバラにするのは言うまでもない。それが大切になると、家族と一緒にいることもできなくなる。家族の個性と自分の個性はまったく違うものだからだ。
自分らしさの方が大切だと過剰なまでに思うようになると、家族の価値観ともズレはじめ、バラバラにならざるを得ない。個人個人が「個性」を発揮して家族内で衝突し、「自由」を発揮して家族から外れていく。
家族は「個性と自由と自分らしさ」によって、自然とバラバラになっていく。
「自由」というのは、離婚する自由も含まれる。それが良いか悪いかは別にして、現代は誰でも自分らしさを追求できない場合は、家族を「捨てる自由」があるのだ。
かつて「子はかすがい」と言われていたが、今では子供がいても離婚は容易だ。だから、どんどん家族は解体しており、シングルマザーも珍しい存在ではなくなっている。熟年離婚も増えた。配偶者と一緒にいると「自分らしく」あることができないからだ。
高齢化によって配偶者が亡くなって単身世帯になる人も増加している。かつてはこうした人たちは子供たちと一緒に暮らすのが普通だったが、今では子供たちも親と一緒に暮らすこともない。親を単身で過ごさせるか老人ホームに放り込む。
親よりも自分のライフスタイルが重要だからだ。
かくして私たちは企業の提案するライフスタイルに乗って自分らしさを追求できるようになった代わりに、単身世帯の増加、離婚の増加、孤独死の増加という社会現象に巻き込まれるようになった。
単身世帯が増えたというのは、そのような文脈でも見る必要がある。
