
高齢者が増えてどうしようもないところに、社会保障費の増大が止まらなくなっている。今頃になって少子化対策だとか言っても遅すぎる。増税や社会保険料の引き上げで何とかすると言っても、すでに国民の負担は爆発しそうなところにまで到達している。ヤバい状況である。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
高齢化の問題はこれから20年もっと深刻化していく
これから日本では最悪の社会問題が起こるとしたら、それは高齢者問題であると言える。2022年9月15日の統計で言うと、65歳以上の高齢者は3627万人となっており過去最高となっている。日本の人口は前年に比べると82万人も減少しているのに、高齢者は増えているのである。
75歳以上は後期高齢者と呼ばれるのだが、日本は後期高齢者の人口も多く、1937万人となっている。1年で一気に72万人も後期高齢者が増えた。それだけではない。80歳以上の高齢者も1235万人いる。1年間で41万人も増えた。
人口は減る。若年層も減る。子供も生まれない。しかし、高齢者だけが増える。これが日本の置かれている惨状である。
すでに高齢者は総人口に占める割合は29.1%となっている。これは「ほぼ」3人に1人が高齢者になったということでもある。ちなみに、高齢者は女性の方が多い。女性の方が寿命が長いということに起因する。75歳以上の後期高齢者の人口で見ても、総人口に占める割合は15%となっている。
しかも、高齢者人口は「今がピークではない」のである。これから20年もっと深刻化していくのだ。どうなるのか。以下のようになる。
2022年:3627万人
2030年:3716万人
2035年:3782万人
2040年:3921万人
2040年にもなると、日本の人口は現在のまま推移していくのであれば、1億1092万人となっている。日本はバイタリティも何もかも失ったまま、延々とこの高齢化の問題に苦しみ続ける国となるだろう。

ここから一気に社会保障費が膨らんでいくということ
子供が減って高齢者が増えるのだから、社会保障費は増大することになる。社会保障費とは、国や地方自治体が社会保障制度を通じて提供する福祉サービスや支援のために必要な費用のことを指す。
これは、高齢者・障害者・失業者・貧困層など、社会的なリスクや困難に直面している人々への支援を目的としているものだが、その中でも高齢者に支払うためのものが増大している。
具体的には、年金・医療費・介護費である。障害者支援費なども、もちろん増えているのは間違いないのだが、それよりも何よりも増え続ける高齢者に支払う年金と医療費の増大が凄まじいものになっている。
1970年代、社会保障費の給付は3兆5000億円であった。それが、1990年になると47兆4000億円となり、2000年になると78兆4000億円となり、2010年には105兆4000億円、そして2022年は131兆1000億円となっている。
いかに社会保障費が増大しているのか、数字だけでも分かるはずだ。
ちなみに日本の社会保障制度は、原則として「社会保険料で費用を負担する」のが基本となっている。そして、この社会保険料は「企業と個人」がそれぞれ負担することになっている。すなわち、現役世代に負担が集中する。
日本はすでに30年以上も成長していない。そんな中で若年層が減っていて高齢者がどんどん増えていく。とすれば、1人あたりの負担は増えるに決まっている。今、まさにそれが起きているのである。
2022年は、一部では「社会保障費の危機の始まり」であるとも言われているのだが、それは団塊の世代(1947年〜1949年に生まれの世代)が後期高齢者である75歳以上となりはじめるからである。
75歳以上にもなると、ほとんどの人が健康寿命を急激に失い始める。すなわち、一人あたりの医療費や介護費用が激増する。2022年から、彼らが後期高齢者になりはじめたということは、ここから一気に社会保障費が膨らんでいくということなのである。
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現役世代は、税金・社会保険料の取られ過ぎで苦しい
物価が上がっているのに年金は薄く薄く削減されている。医療費の負担も徐々に徐々に増えていく。高齢者の老後の生活コストが激増している。
しかし、すでに社会保障費は膨らむだけ膨らんでいるわけで、すべての高齢者に手厚い社会保障を提供することは不可能になりつつある。
日本経済がどんどん成長して、日本人の賃金もどんどん増えていったのであれば、現役世代の社会保険料が増えていったとしても、賃金自体が伸びているのだから、それで吸収できただろう。
しかし、日本経済はこの30年、政治の無策が続いたのでほとんど成長しない国となってしまった。それこそ、世界全体の中での日本のGDPは25年ほど前は18%も占めていたのに、現在では6%くらいにまで縮小している。
日本は今も過去の蓄えがあるのでかろうじて先進国の体面を保っていられるのだが、今後も先進国であり続けられるかどうかは未知である。最低賃金で言うと、日本はOECDの主要先進国の中では実質的に最下位である。
はっきり言うと、日本の非正規雇用の中で最底辺の人たちの賃金レベルは、もう先進国ではないレベルにまで落ち込んでいるということになる。
現役世代がそんな状況なので、現役世代がかなりの額を負担する社会保障費を「物価が上がっているから」「高齢者が増えているから」と、もっと引き上げるというのは、まさに現役世代が高齢層の奴隷になるのも同然の状況になってしまう。
今でさえ現役世代は「税金・社会保険料の取られ過ぎで苦しい」と悲鳴を上げている。それも無理はない。何しろ国民負担率は約48%となっているような時代なのだから、これ以上の負担増はさすがに厳しい。
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貧困高齢者はこれからの日本に起こる最悪の社会問題
政府はプライマリーバランスの黒字化を望んでいるので、緊縮財政をどんどん強化している。消費税は2019年に10%になったばかりなのだが、消費税は引き上げることができないのであれば「他の税を上げればいいではないか」と、消費税以外の、あらゆる税金の引き上げを検討している。
金融所得税を引き上げるとか、固定資産税を引き上げるとか、インボイス制度の導入で税率の上がらない消費増税をするとか、年金の支払いを65歳までにするとか、車検手数料値上げとか、国民健康保険2万円増額とか言い出している。
さらに「何でもいいから新しい税金を考えろ」と思っているのか、いろんな増税が次々と話題になったりする。今まで話題になったのは、「独身税」「死亡消費税」「森林環境税」「EVモーター出力課税」……である。少子高齢化だからと2022年までは「子ども税」も検討されていたのだ。
異次元の少子化対策と岸田政権は叫んでいるのだが、その財源をどうするのかということで揉めていて、結局のところは消費税を引き上げるしかないような話もちらほらと聞こえてくる。
高齢者が増えてどうしようもないところに、社会保障費の増大が止まらなくなっている。今頃になって少子化対策だとか言っても遅すぎる。これで「増税や社会保険料の引き上げで何とかする」と言っても、すでに国民の負担は爆発しそうなところにまで到達している。
では、高齢者はどうなっていくのか。
高齢者は物価高でも、年金の削減でも、増税でも、経済的ダメージを受けていくだろう。彼らのうちの少なからずは生活ができくなって路頭に迷う。貧困高齢者はこれからの日本に起こる「最悪の社会問題」となっていく。
極貧の高齢者を救済するには生活保護しかないのだが、この生活保護にしても税金なわけで、ツケが現役世代に回るだけである。
