道徳も、常識も、利他の心も嘲笑って銭ゲバのようにカネだけを追い求め、社員を低賃金で奴隷のようにこき使い、自分たちは大豪邸に住んでふんぞり返っているクズのような経営者はビッグモーターの兼重宏行だけでない。今の社会はそういう経営者が生まれやすいのだ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
中古車販売会社「ビッグモーター」の体質
事故車にわざと余計な傷をつけたり、不要な部品交換をしたりして、自動車保険の保険金を不正に請求していた問題で、中古車販売会社「ビッグモーター」の不正体質が明るみに出ている。
あまりにもあこぎな不正に全日本国民が呆れかえったのだが、それと共にこの企業は兼重《かねしげ》ファミリーの独裁企業であり、社員を奴隷のようにこき使って社長だった兼重宏行は目黒区青葉台に60億円とも推定される大邸宅に住んでいたことで、改めて「利益至上主義」が浮き彫りになっている。
現代の資本主義は、どこの企業でも極限まで利益を求めるようになっているのだが、経営者・兼重宏行のやり方は、まさに「儲かるためには何でもしろ」という銭ゲバ体質が暴走した醜悪なものであった。
ビッグモーターで働く社員は、兼重ファミリーの雇われ奴隷みたいになっていて、ひたすら服従させられ、尊厳を奪われ、法に触れることでもファミリーの利益のために強制され、使い捨てされてきた。
名経営者と呼び名も高かった稲盛和夫氏は常に「利他の心(他人の幸福を願い他人をも利する精神)」を訴えていた。
こうした哲学を失って儲けばかりを極限的に追い求める経営者は、容易にダークサイドに堕ちて、顧客にも損失を与え、社員も奴隷化して不幸にしてしまうというのがビッグモーターの兼重宏行を見てもわかる。
結局、あこぎな非人道的な経営と利益至上主義の暴走で、兼重ファミリーはビッグモーターと一緒に自滅しそうだが、現在は「稼ぐが勝ち」の弱肉強食の資本主義なので、こうした事件は次々と起こるだろう。
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「コスト」を貪り食う社員は敵でしかない
道徳も、常識も、利他の心も嘲笑って銭ゲバのようにカネだけを追い求め、社員を低賃金で奴隷のようにこき使い、自分たちは大豪邸に住んでふんぞり返っているクズのような経営者はビッグモーターの兼重宏行だけでない。
こうした銭ゲバ経営者にとっては、そこで働く社員は「家族」とは思っていない。社員は自分たちの私腹を肥やすための奴隷であり、さらに言えば企業の売上を貪り食う「コスト」である。
自分たちの利益を極限まで引き上げるには、「コスト」を貪り食う社員は敵でしかない。だから、低賃金でひたすら強制労働させて、働きの悪い社員は降格させるか、会社から追い出すかする必要がある。
無謀なノルマを課す。
徹底的に服従させる。
朝から晩まで働かせる。
未達成の社員は罵倒する。
潰れた社員は捨てる。
それがビッグモーターの経営方針である。ビッグモーター内ではパワハラが蔓延し、上司が部下に対して「死刑」「クズ」「ガラクタ」と罵るLINEなども流出している。
社長ファミリーが「俺たちが贅沢するためにお前らは文句言わずにカネを稼げ」と強制していると、社内は自ずとそのようなパワハラまみれの空気になっていくのは当然のことである。
ちなみに、部下にパワハラをして大金を貢ぐ社員についてだけは高給を払って仕事に邁進させているので、よけいにパワハラ体質が極まっていく。
通常、このようなパワハラ体質の職場になると、まともな経営者は「コンプライアンス上、非常にまずいことになっている」と考えるが、銭ゲバ経営者は何も思わない。むしろ、それが正常だと思う。
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不正で儲かるのであれば黙認するのが銭ゲバ経営者
経営者が道徳を失って「ゼニを稼いでこい」とパワハラしていると、社員も利益を上げるために自ら不正に手を染めるようになっていく。
ビッグモーターが自動車保険の保険金不正請求を「会社ぐるみでやっていた」というのは、要するに稼がないと「クズ」「ガラクタ」と罵られるから、犯罪だろうが何だろうがやるしかなかったからである。
実際にそれをやって稼げば逆に評価されるので、不正はエスカレートする。不正だろうが何だろうが、売り上げを上げたら高給をもらえる仕組みなのだ。これでは良心が麻痺して当然だろう。
これについて兼重宏行は「不正が起きない内部統制のとれた組織をきちんと作って運営していれば、こういうことにはならなかった」と記者会見で頭を下げていたのだが、原因がそこではないのだ。
兼重宏行が銭ゲバで「もっと稼げ、クズ」とやっているから、不正を引き起こし、それを会社ぐるみで実行し、隠蔽する組織ができあがった。つまり、兼重宏行そのものが事件の元凶であり、組織はそれを忠実に実行したに過ぎない。
ビッグモーターで言うと、車体をわざと傷つけて保険会社に修理代金を過剰請求したり、必要のない部品交換をしたりしていたのだ。
兼重宏行は「経営陣からの不正の指示については、まったくない」と言い切っていた。100歩譲ってそれが本当だとしても、稼げない社員に対して口汚く罵倒して、上司もその場で降格するような経営をしていたら、追い詰められた社員が不正をするというのはわかるはずだ。
わかっていても、それで儲かるのであれば黙認するのが銭ゲバ経営者の特徴だ。
「バレたらすべて社員のせいにしてトカゲのしっぽ切りをすればいい」とでも軽く考えていたのかもしれない。実際、兼重宏行は「自分は何も知らなかった」と言わんばかりに、すべて社員のせいにしていた。
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今後も、ビッグモーターのような企業は次々と現れる
結局、道徳も利他の心も忘れて、とにかく「稼ぐが勝ち」とか「カネこそすべて」とか言っているような経営者は、「反社組織を作り出す」のである。そのわかりやすい典型的な例がビッグモーター事件であったように見える。
かつて日本の経営者は「社員は家族」「まっとうに稼ぐ」「信頼を大切にする」という常識があった。しかし、グローバル化する中で「日本式経営は古い」と否定されるようになり、欧米からは「ROE経営」が入ってきて日本企業もそれが指針となった。
「ROE経営」のROEというのは「自己資本利益率」を指すのだが、これは以前は「株主資本利益率」と言われていたものである。株主が投下した資本で会社はいくら儲かったのか、を示すのがROEである。
ROE経営というのは「株主が投下した資本で生み出される利益を増大させる」という方針が主軸になった経営である。とすれば経営者は「どの方向を見ているのか」がわかるはずだ。
ROE経営というのは端的に言うと「株主を富ませるための経営」なのである。ROE経営の中では社員はコストになる。社員は株主ではない。社員の賃金を削減できれば、その分コストは浮くので内部留保が増えて、それがひいては株主の利益になる。
ROE経営の中では、株主の利益を極大化させるために、社員は少なく、給料は低く、不景気が来たらいつでもリストラできるのが、株主にとって素晴らしい経営者と定義される。
日本もいつしかROE経営が当たり前になった。そうであれば、ビッグモーターの兼重宏行のような銭ゲバ経営者が失墜するまでは賞賛されていたとしても、なんら不思議ではない。
今後も、ビッグモーターのような企業は次々と現れると思うのは、そういう理由からでもある。