景気の低迷、価格高騰、人材不足。飲食業界に革命を起こす起業家の登場が待たれる

景気の低迷、価格高騰、人材不足。飲食業界に革命を起こす起業家の登場が待たれる

ビジネスというのは、だいたい何をやっても厳しいののだが、飲食業界はとくにその厳しさが尋常ではない。「10年経つと9割はなくなる」のだが、実はそのうちの7割は3年以内に潰れている。しかも、今後の社会の見通しも悪い。飲食業界に革命を起こす起業家の登場が待たれる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

2023年に入ってからは飲食業の倒産が激増

2020年から2022年までのコロナ禍で飲食業は辛酸を嘗めるような苦闘を経験してきたのだが、やっとコロナ禍が収束してこれから何とかV字回復になっていくものだと誰もが漠然と思っていた。

しかし、実際はそうではない。東京商工リサーチの調査結果によると、2023年に入ってからは飲食業の倒産は逆に激増しており、飲食業倒産件数は9か月連続で前年同月を上回る悲惨な様相を呈している。

このままでいくと、2023年は過去最多だった2022年の倒産件数を超えるのは確実になる。業歴100年以上の「老舗企業」の倒産も2023年1〜6月期で38件と目立つ。今年はコロナ禍の2020年よりも、はるかに深刻な事態が裏側で進んでいるということだ。

よく「脱サラして喫茶店をはじめた」「脱サラしてラーメン屋をはじめた」「脱サラしてケーキ屋をはじめた」という話を聞くのだが、飲食店は、もともと脱サラした人たちが始めることが多い業種だ。

その理由として参入しやすい業種だから、ということもある。しかし、参入しやすいということはレッドオーシャンになりやすいということでもあり、生き残りには非常に厳しい業界でもある。

事実、街を見ていても、新しい店は次から次へとできるのだが、1年も経ったら新しい店が消えてなくなってまた違う店になっていたりする。たった1年ですらも持たせることができないのはまったく珍しくない。

10年経つと9割はなくなる。生き残るのは10%くらいしかない。これは、コロナ禍とは関係なく、飲食業とはもともとそういう業界なのである。

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3年経ったら飲食店の7割は入れ替わっている

ビジネスというのは、だいたい何をやっても厳しいののだが、飲食業界はとくにその厳しさが尋常ではない。「10年経つと9割はなくなる」のだが、実はそのうちの7割は3年以内に潰れている。

つまり、どこの繁華街でも、どこの商店街でも、3年経ったら飲食店の7割は入れ替わっているということを意味する。

田舎だと人口が少なくて潰れやすい。都会だと競争が激しくて潰れやすい。ロケーションの良いところでは家賃が高くて潰れやすい。ロケーションが悪いところだと客が来なくて潰れやすい。

飲食店は個人が店を開くことが多いが、店を開くには400万円だとか500万円では済まない。立地や規模、内装へのこだわりなどによって、必要な金額は変動するのだが、東京で100坪以上の店舗を新規に取得する場合として考えると、1000万円でもキツいだろう。

・物件取得費(保証金、礼金、仲介手数料など):200万円~500万円
・内装工事費:300万円~500万円
・厨房機器・備品費:200万円~300万円
・食材・調味料費:100万円~200万円
・開業準備費(広告宣伝費、人件費など):100万円~200万円

準備資金については、ケースバイケースで一概に上記の通りとは言えないが、結局は1000万円以上かかったとしても何ら不思議ではないのである。

店を開業するのに自費で1000万円を用意できる人は稀なので、金融機関からの融資を受けることが一般的である。自己資金は最低でも300万円くらいは用意したとして、残り700万円は借金となる。

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もともと厳しい環境にある飲食店がますます厳しく

3年以内で70%が潰れる理由は、客の入りが悪くても、家賃・人件費・借金は「待ってくれない」ので赤字の出血が止められないからだ。いったんはじめたら、100%黒字に持って行かなければ店は持たない。

2020年はコロナ禍で飲食業界の環境は地獄になった。恐らく政府が助成金や特別融資等(ゼロ・ゼロ融資)を出さなかったら、2021年時点で日本の飲食店の70%は潰れていたはずだ。

しかし、問題は今年2023年である。

やっとコロナ禍が収束して世の中が落ち着くのかと思ったら、ロシア・ウクライナの戦争や中国のサプライチェーンの混乱などがあって、どんどん食材価格が上がり、光熱費が上がり、人件費まで上がって、コストが膨れ上がってしまった。

いくらコスト削減と言っても、あらゆるコストが上がってしまったら価格に転嫁するしかない。

しかし、価格に転嫁したら客は「高い!」と言って店を敬遠するようになる。そんな中で、コロナ禍を生き延びるためのゼロ・ゼロ融資などの返済もはじまっているのだから、体力のない飲食店はひとたまりもない。

そんなわけで2023年には飲食店の淘汰が始まっている。もともと厳しい環境にある飲食店がますます厳しくなってきているということだ。

この波を乗り切ったら飲食店は楽になっていくのかと言えば、日本の場合は何とも言えないところがある。日本を成長させることがでいない政治家、止めることができない少子高齢化は、どれも飲食業界にとっては不穏な環境である。

おまけに最近は会社での「飲み会」なども減っており、昭和のときのような飲むコミュニケーションは減少する傾向にある。

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果たして、飲食業界に革命は起きるだろうか?

ただ、そんな中でもアイデアと熱意に溢れた起業家が飲食業界に飛び込んで、果敢に成功を目指して挑戦する。3年で7割の店が潰れるとしても、3割が残る。5年で8割が潰れるとしても2割が残る。10年で9割が潰れるとしても1割は残る。

この生き残る側に入るためには、興味深いことにデジタルとは無縁のように見えている飲食店も「デジタル」に進化していかなければならないと言われている。

現在、飲食業界は人件費と人手不足を解消するために外国人を雇って凌いでいる。居酒屋で働いている外国人はもう日常である。注文は外国人が取りに来て、日本料理を外国人が作って、皿洗いも外国人がやっている。人件費が安いからだ。

しかし、もう安い外国人でもコストが吸収できないことになっているわけで、それを根底から変化させるために、徹底的にデジタルを利用するしかないところにまで来ているというのだ。

注文もテーブルにあるデジタル機器で済ませ、料理もロボットが運び、料理もロボットが作り、皿洗いもロボットがやる。そういうデジタル志向でないと、あと10年で店がやっていけなくなる。

人材大手の研究機関によると、全産業で644万人が不足し、とくに飲食業界では400万人が不足するので、このままでは「人が確保できないから店がやっていけない」事態となってしまうのだ。

「それなら、外国人を600万人でも1000万人でも入れればいいではないか」という人もいるかもしれないが、日本を移民社会にしたらしたで、今度は社会的・文化的な軋轢があって国がめちゃくちゃになってしまう。

そうしたことを考えると、最後に辿り着くのは徹底的なデジタル化だろうと業界のウォッチャーは述べている。

景気の低迷、価格高騰、人材不足……。飲食業界に飛び込む日本の企業家には、こうした苦難をいかに乗り切るのかが問われている。並大抵のことではないと思うが、飲食業界に革命を起こす起業家の登場が待たれるところだ。

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