かつて世界を席巻した日本のハイテク企業も時価総額ランキング50位にも入らない

かつて世界を席巻した日本のハイテク企業も時価総額ランキング50位にも入らない

日本企業は今もまだ素晴らしい技術を保持しているのだが、それで世界が取れないというのであれば、「世界を制覇するだけの資質を持った経営者が少ない」ことを意味している。要するに日本社会は「今の時代に合っていない」のである。政治は駄目でも企業だけは残って欲しいものだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

世界に名を轟かせていた日本のハイテク企業

スマートフォンと言えば現代社会の知的集約ガジェットであり、もっとも重要なハイテク製品でもある。全世界がここで熾烈な戦いを繰り広げている。

ところが、ソニー、松下電器(現在のパナソニック)、サンヨー、東芝、日立、富士通、シャープなどの「多国籍企業」がひしめき、かつては家電大国・ハイテク大国であったはずの日本企業は、スマートフォンの市場で本当に精彩を欠いている。

たしかにスマートフォンの部品や素材に関しては、日本企業の技術は今も非常に大きな役割を果たしている。ところが、スマートフォンという単体の超重要ガジェットでは、世界的にまるっきり見る影もない。それは、非常に悲しいことである。

日本のハイテク企業が成功していたら、世界の時価総額ランキングでもその企業が上位に位置していたはずだろう。2023年の時価総額企業ランキングを見ると、以下のようになっている。

1位:アップル★
2位:マイクロソフト★
3位:サウジアラムコ
4位:アルファベット★
5位:アマゾン・ドット・コム★
6位:エヌビディア★
7位:テスラ
8位:メタ・プラットフォームズ★
9位:バークシャー・ハサウェイ
10位:イーライリリー

上位10社のうち、9社はアメリカ企業で、そのうちの6社はハイテク企業である(テスラは除外)。かつては世界に名を轟かせていた日本のハイテク企業は、もう影も形もない。

【金融・経済・投資】鈴木傾城が発行する「ダークネス・メルマガ編」はこちら(初月無料)

未来永劫にその地位にいられるわけではない

ちなみに時価総額企業ランキングで言えば、韓国のサムスン・エレクトロニクスは22位にランキングされている。中国のテンセント(騰訊控股)は19位、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)は16位である。

日本企業がやっと顔を出すのは33位のトヨタ自動車であり、日本でもっとも重要なハイテク企業であるソニーは50位にも入っていない。

東芝は不正会計と原子力事業の失敗で事業がガタガタになり、海外のハゲタカファンドに狙われて、大混乱した挙げ句に国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)に実質的な身売りをして株式市場から姿を消す。

富士通はスマートフォン市場に乗り遅れて、ネット接続会社ニフティを切り離し、パソコン事業はレノボ・グループの傘下に入らざるを得ないような苦境に落ちて、本社機能も川崎に移すことになる。

シャープも「世界の亀山」と自画自賛して液晶テレビを作っていたが、液晶パネルの価格下落が起きてから一気に経営悪化、2008年から地獄のような株価暴落を経て、最後は台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収される憂き目を見た。

これらの企業は時価総額企業ランキングに載る前に、企業の存続すらもできなかった。まさに「凋落」である。

どんなに成功した企業でも、未来永劫にその地位にいられるわけではないというのが分かる。「成功しているのが当然」という慢心が経営者や社員の意識に定着したとき、そこから凋落に向けて坂道を転がり落ちる。

慢心が取り憑くと、まわりが見えなくなってイノベーションから取り残される。慢心が取り憑くと、他人の忠告が聞こえなくなり、データが見えなくなり、手痛い失敗も問題ないとやり過ごすようになる。

そして、「自分たちは偉大なブランドを持っているし、過去も成功していたのだから、これからも何をやっても成功する」とばかりに、無謀で無鉄砲な新規事業や、間違えた選択と集中や、売上向上を図ったりする。

【ここでしか読めない!】『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』のバックナンバーの購入はこちらから。

「自分たちは一流企業だ」という傲慢に取り憑かれる

慢心が取り憑くと、経営もルーズになり、赤字の事業についても「そのうちに何とかなるだろう」と放置するし、時代が変わっても新しい時代に対応することもなく現状維持に汲々とする。

こうした状態が数年続くと、やがて時代に遅れ、ブランド力が衰退し、技術でも格下企業に追い抜かれることになる。

しかし、そうなったとしても、社内では幹部から社員までもが「自分たちは一流企業だ」という傲慢に取り憑かれているので、危機感はあっても大改善をするところにまでは至らない。

改善するどころか、むしろ問題を覆い隠すように、悪いデータを矮小化し、良いデータを誇大化し、経営幹部なんかはどこかの新聞の「私の履歴書」みたいなもので自慢話を滔々と語ってまわりを辟易させるようになる。

しかし、足元では経営が弱体化していき、このままでは会社が傾くことが明らかになっていく。そうすると経営者はどうするのか。

追い詰められて、賭けに走る。

無謀な選択と集中を行って何かに過大投資したり、逆に会社の資産をすべて使ってM&A(企業買収)に走ったりして、華々しく動きながら会社の資産を一気に食いつぶし、負債の山を築くのである。

こうして、無能経営者の馬鹿げた賭けが頓挫して、ブランドを持っていた企業は、そのブランド力を使い果たして、いよいよ凋落を隠せなくなってしまう。かくして一流企業は競争力もブランド力もなくなり、長期に渡って停滞し、忘れられていく。

ダークネスの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』

せめて企業だけでも復活の狼煙を上げてほしい

日本企業の創業者は戦後の何もないところから苦心惨憺して実績を積み上げていった。

こうした過程を踏んで企業を巨大化させてきた創業者の多くは「今は成功していても、明日は一瞬で吹き飛ぶかもしれない」という危機感が常にあって、成功の中にあっても用心を怠らなかった。

ところが、こういった創業者の時代が終わり、「成功しているから」群がってきた一流大学卒業の経営幹部や社員が大量に入り込んで行くようになると、「慢心」が社内に蔓延するようになっていく。

そして、大手という立場に安住し、決断のできないトップが時代に取り残され、方向転換しようにも図体の巨大さから何もできず、最後には資産すべてを賭けで食いつぶして会社を凋落させてしまうのだ。

日本企業は今もまだ素晴らしい技術を保持しているのだが、それで世界が取れないというのであれば、「世界を制覇するだけの資質を持った経営者が少ない」ことを意味している。

日本は従順なサラリーマンを作る教育は優れているが、起業家や事業家を作り出す教育制度にはなっていないし、そういう社会風土でもないというのが今の日本の現状を見ていてもわかる。

要するに日本社会はいろんな点で「今の時代に合っていない」のである。それがボディーブローのように日本社会を弱体化させている。

政治の世界も、事業の世界も、日本は「昭和」のまま取り残されてしまっており、社会的ダイナミズムを喪失して凋落しているようだ。「時代に取り残されるばかりとなった企業」は、どんな強固なブランドがあったとしても捨てられる。

政治だけでなく、企業もまた凋落していくようでは日本の未来は限りなく暗い。政治の世界はもう自浄作用もなく絶望的なので、せめて日本企業だけでも復活の狼煙《のろし》を上げてほしいものだ。

邪悪な世界のもがき方
『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』

鈴木傾城のDarknessメルマガ編

CTA-IMAGE 有料メルマガ「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」では、投資・経済・金融の話をより深く追求して書いています。弱肉強食の資本主義の中で、自分で自分を助けるための手法を考えていきたい方、鈴木傾城の文章を継続的に触れたい方は、どうぞご登録ください。

経営カテゴリの最新記事