水原一平が落ちたギャンブル依存。すべて失っても止まらないのがギャンブル依存だ

水原一平が落ちたギャンブル依存。すべて失っても止まらないのがギャンブル依存だ

野球選手の通訳という立場がありながら、ギャンブル依存で人生を棒に振った水原一平を見て「著名人の通訳といういい仕事をしているのだから、ギャンブルなんかしなければいいのに」と普通の人は思う。しかし、そういう常識や理性が働かないのがギャンブル依存症だ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

総額6億8000万円も負けてクビになった通訳

ドジャースの日本人野球選手・大谷翔平の通訳を務めた水原一平という男が、ギャンブルにハマって選手のカネを勝手に引き出し、総額6億8000万円も負けてクビになったニュースが世界中を駆け巡って衝撃を与えている。

事件が発覚する3年間からスポーツ賭博にのめり込んでいたようで、「泥沼にハマってしまい、自分で掘った穴から抜け出すためにもっと大きな金額を賭け、雪だるま式に負け続けた」と本人は述べている。

これによって、日本でもギャンブル依存症がにわかにクローズアップされている。

ギャンブル依存症については、私も『どん底に落ちた養分たち』で本にまとめたのだが、この問題は本当に根深いものがある。

この本にも書いているのだが、私がはじめて会ったパチンコ依存の女性はストレスがたまるとパチンコで憂さを晴らすタイプだったのだが、パチンコで負ければよりストレスがたまって夫婦の貯金をパチンコで使い果たし、夫にバレて「パチンコをやめるか離婚するかのどちらかを選べ」といわれていた。

彼女は「パチンコをやめる」と約束したものの、ふたたびパチンコをはじめて生活費がなくなるとスーパーで万引きをするようになっていたのだった。取材のあとには私にも金の無心をした。

風俗嬢にもギャンブルにハマっている女性がいて、風俗の写メ日記にバクチのことを延々と上げている風俗嬢もいる。彼女は「200万円くらい負けている」といっていたが、それでも何とかなっていたのは風俗での稼ぎがあったからだ。

普通、若い女性が200万円も負けたら人生が終わっている。

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金を追って金を失う。失うのに儲かると思い込む

野球選手の専属の通訳という立場がありながら、ギャンブル依存症で人生を棒に振った水原一平の愚かな生き様を見て「著名人の通訳というワリのいい仕事もあって、世間一般から見るとそれなりに高給だったのだから、ギャンブルなんかしなければいいのに」と普通の人は思う。

それもそうだ。ギャンブルなんかやって良いことなんかひとつもない。ギャンブルは勝てない世界である。しかし、そういう常識や理性が働かないのがギャンブル依存症なのだ。

しかし、いったんギャンブルにのめり込むととまらなくなる。理性が効かなくなるのだ。ギャンブルは興奮と快楽をもたらし、脳内で放出されるドーパミンがギャンブルに依存させるからだ。

その興奮は一攫千金の興奮だ。勝てばあぶく銭が簡単に手に入るかもしれない。大きな勝利が得られるかもしれない。そうすれば、日常のストレスが一気に解放されるかもしれない。

ギャンブルの勝利はたしかに不確実だ。報酬が手に入るかどうかわからない。報酬どころか賭けたカネをすべて失うかもしれない。しかし、その瀬戸際で勝負して勝つことで極度にエキサイトできる。

負けたら腸がねじれるほど悔しい。損もかさむ。だから、悔しさと損を解消するために、もっとギャンブルにのめり込むしかない。水原一平が述懐したとおり「泥沼にハマってしまい、自分で掘った穴から抜け出すためにもっと大きな金額を賭ける」ようになっていくのだ。

それは、まさにブレーキが壊れた車を暴走させているような世界である。『どん底に落ちた養分たち』ではこのように表現した。

『金を追って金を失う。失うのに儲かると思い込む。それがまさしく「ギャンブル依存」の特徴でもある』

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カネを貸してくれるところなら、もはや躊躇しない

ある人はギャンブル依存について、「金がないから、小遣いを稼ぐために大金を失う」と表現していた。ギャンブラーは別に負けようと思って勝負しているわけではない。勝とうと思って勝負している。しかし、どんどんカネを失っていく。

それでも勝負していると、たまたま小さく勝つ局面もある。そのときはすでに大金を失っているのだが、本人はそれでも「儲かった」と思う。本当は儲かっていないのだが、儲かったと思うところがギャンブル脳でもある。

大きく負けたら「負けを取り返す」とのめり込み、勝ったら「もっと勝てる」とのめり込む。そこまでいくと、だいたいは借金が自分の想定以上に膨れ上がってしまっているので、ギャンブルから抜け出すのは不可能になっている。

「ギャンブルで負けたカネはギャンブルで取り返せ」という気持ちになっているからだ。しかし、それをやればやるほど借金はもっと過激に増えていくのである。

通訳をしていた水原一平は身近に自分を信じてくれている選手がいて、そこからカネを窃盗していたが、ギャンブルにハマった人たちはカネがなくなると、家族のカネを窃盗し、親のカネを窃盗し、友人に借金をするようになる。

もちろん、消費者金融でカネを借りたり、闇金でカネを借りるギャンブル依存症者もいくらでもいる。

カネを貸してくれるところなら、もはや躊躇しない。それも、一か所で借りて返し終わったらまた借りるというものではなく、何ヶ所からも借りて、借金を借金で返すような借り方をする。

A社から借りたカネが返せないので、B社から借りてA社に返し、B社から借りたカネはC社から借りて返し、C社から借りたカネはD社から借りて返し……と続けていく。まさに借金の自転車操業である。

しかし、最近は多重債務が法的に禁じられるようになっているので、しかたなく闇金でカネを借りるようになる。私が話を聞いた所沢の男性は、年利1095%の闇金でカネを借りていた。その闇金は「うちは良心的」といっていたという。

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 やめるのは口でいうほど簡単なことではない

ギャンブル依存症は最終的には借金まみれになって人生が詰む。『どん底に落ちた養分たち』で取り上げた、借金まみれになった依存者のひとりは借金していると感覚が狂ってくることを私に話してくれた。

「借金って最初は怖いんですけど、慣れてくるとカード入れてカネが出てきたら、自分のカネが増えたって気持ちになっていくんですよね。借りてるカネのはずなんですけど、そうじゃなくて『やった、カネが増えたぜ』という気持ちですよ。錯覚ですよ、はっきりいって。でも、そういう気になるんです」

そうやって、どんどん借金が増えていくと、もはやある時点で返せなくなってしまうことに気づく。そうすると、どういう心境になるのか。

「借金があるんですよ。普通に働いていたら返せるかどうかわからない。だから、イチかバチか勝負して大勝ちするしかない」

「給料は二週間後なのに、もう手持ちの金が一万円しかない。だったらギャンブルで増やすしかないじゃないですか」

そういう心境になる。それで、借金まみれになった人はますます借金でギャンブルにのめり込んでいく。

結局、借金が返せなくなるとどうなるのか。ある人は店に火を付け、ある人は自分に火を付け、ある人は他人からカネを盗んで逮捕され、ある人は仕事も家族も何もかも捨てて行方不明になる。

ギャンブル依存者の末路は明るいものではない。カネも信用も仕事も家族も友人も、何もかも失っても、とまらない。とめられない。それがギャンブル依存なのだ。

ちなみに、依存症はそれが何であれ、やめるのは口でいうほど簡単なことではない。水原一平はクビになって、今後は社会的には抹殺されたような状態になるのだろうが、ギャンブル依存を治さない限り、何とか社会に復帰しても同じことの繰り返しになるだろう。

『どん底に落ちた養分たち――パチンコ依存者はいかに破滅していくか(鈴木 傾城)』
『どん底に落ちた養分たち――パチンコ依存者はいかに破滅していくか(鈴木 傾城)』

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