少子高齢化の放置で高齢者の貧困化は進み、対処しなかった日本は地獄を見る

少子高齢化の放置で高齢者の貧困化は進み、対処しなかった日本は地獄を見る

高齢者は増税・年金減額にはこぞって反対するだろうが、今のままでは増税も年金減額も避けがたい。始めは小さく始まるだろう。しかし、増税・年金減額が一度社会システムに取り入れられると、理由をつけてそれが拡大されていく。これは高齢者たちにとっては死活問題になっていく。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

福祉のカット、年金の削減や先延ばし、増税、インフレ

コロナ禍で貧困層が膨らんでおり、政府の喫緊の対策は「分配」になっているのだが、日本の貧困層の増加は別にコロナ禍で始まったわけではない。

それは、1990年代のバブル崩壊から、じわじわと真綿で首を絞めるように始まっていたのだ。

東京都港区は「金持ちが暮らすところ」というイメージがあるのだが、明治学院大学社会学部の河合克義教授の調査によれば、「高齢者夫婦の4世帯に1世帯は年収250万円未満で、生活保護水準に近い生活をしている」と明らかにしている。

金持ちが住んでいると思われている地区でも、生活保護水準の生活に追いやられている人たちが珍しくなくなっているのだが、この傾向は加速する。

なぜなら、日本は世界でも類を見ない少子高齢化が加速しても政府はまったく対策を取ろうとせず、さらに国民も政府もこの問題には無頓着で、まるで他人事のように暮らしているからだ。

1990年から少子高齢化は始まっていた。以後はずっと「このままこの問題を放置していたら日本は危ない」と警鐘は鳴らされていたが、政治は対応しなかった。

少子高齢化が進むと、年金・医療・介護に要する金がどんどん増えて社会保障費を増大させる。だから政府は年金を減らし、医療費の自己負担額を増やし、税金をどこまでも上げてもがいている。

そのすべては国民にツケを払わせるものだ。福祉のカット、年金の削減や先延ばし、増税……。こうしたものはすべて弱者をより追い込んでいく動きなのである。高齢層のみならず、すべての貧困層が追い詰められる。

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これは高齢者たちにとっては死活問題になるはずだ

経済的苦境は末端である貧困層に襲いかかっていく。生活保護受給者数も増え続けていることを見ても分かる通り、貧困層の多くは現状維持すらできていない。

特に、生活保護受給者の大きな層をなしているのは高齢層である。セーフティーネットが消え、生活保護にも年金にも問題を抱え、今後も増税も必ず実施され、高齢層はさらに追い込まれていく。

今まで高齢層は、年金問題ひとつにしても先延ばしによって負担を若者に押しつけていた。しかし、若者の税負担も限界に達している。これからは粛々と年金は減額されていき、医療負担も増大し、受給年齢も引き上げられていくことになる。

年金減額は目に見える削減なので、政府批判は殺到する。そのため、政府はこれを避けるためにまずは年金受給年齢を後にずらそうと必死だ。年金受給年齢は55歳が60歳になり、60歳が65歳になり、やがて65歳が70歳になっていくだろう。

高齢者がさらに増えて年金減額や受給年齢の後ずらしになっていくと、やがて高齢者自身は助かるかどうか分からないところまでいく。日本の本当の意味の高齢者貧困地獄は、そこからスタートする。

高齢者は増税・年金減額にはこぞって反対するだろうが、今のままでは増税も年金減額も避けがたい。

始めは小さく始まるだろう。しかし、増税・年金減額が一度社会システムに取り入れられると、理由をつけてそれが拡大されていく。これは高齢者たちにとっては死活問題になるはずだ。

今でさえ日本は増税大国になっている。暴動が起きないのが不思議なくらいだ。

税金は消費税だけではない。所得税、住民税、固定資産税、国民年金、介護保険料、復興税、自動車税、ガソリン税、酒税、タバコ税、贈与税、相続税も取られている。これからもっと税金が増える。

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少子高齢化と若者の貧困格差が放置されて社会全体が枯れた

今後、貧困に落ちてどうしようもなくなる高齢者が爆発的に増えて社会問題化していくことになるだろう。

そもそも、今でも生活保護申請を膨れ上がらせているのは高齢者なのである。年金以外の収入がない高齢者から、国民年金で細々と生きて行く高齢者までが追い詰められている。

貧困の中で高齢になってしまったら、そこから経済苦を何とかしようにも歳のために働くこともできない。老人ホームに入るにしても金がいる。安いアパートに入るにしても断られ、介護施設にも入れない。

そうやって、金もなく行き場もない高齢者が山のように増え続けていく。かつては、子供が親の面倒を見るのが当然だった。今はそうではない。子が甲斐甲斐しく親を看るような時代ではなくなってしまった。

子供は親のセーフティーネットにならない。そもそも、子供の方が親よりも貧しかったりする。

貧困高齢者は年金では足りずに貯金を取り崩し、貯金も足りずに貧困に落ち、国も地域も子供もアテにならずに社会から孤立し、やがて孤独死する運命が待つ。

日本人は1990年のバブル崩壊から、少しずつ経済的な苦境に落とされ続けて来た。「日本人は金持ち」だと言われていたのだが、ふと気が付くと国民の多くが中間層からどん底《ボトム》に落ちて苦しんでいる。

自然にそうなったわけではない。政府が無策だったので少子高齢化と若者の貧困格差が放置されて社会全体の活性化とバイタリティが喪失した。そこに消費税も含めて各種の過酷な税金を課して国民を痛めつけているので、内需も枯れていった。

1990年から起きている貧困の社会問題は今もいっこうに解決していない。

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孤独死した高齢者の凄まじく荒んだ部屋の意味

日本の自殺者が50代と60代に集中しているのは、リストラ・失業・病気で貧困に転がり落ちると、もう這い上がれないことに気付いた絶望から生まれている。そして団塊の世代の高齢者も、福祉や年金の劣化の中で困窮に追い込まれている。

若年層を貧困に追いやり、中年層をリストラに追いやってきた社会は、年金暮らし高齢者に襲いかかっていき、いまや日本の全世代で大量の貧困層を生み出しているのだ。

2017年の国勢調査の結果で見ると、一人暮らしの高齢者は562万6000人となっている。今後10年以内にこの数字はもっと増えて約700万人が一人暮らしの高齢者となる。

高齢者が貧困化すると家の中に閉じこもる傾向になり、健康を害しても病院に行かず、やがて足腰も衰えてゴミを捨てることもままならなくなり、ゴミ屋敷のような状態の中で息絶えていくことになる。

孤独死した高齢者の部屋は凄まじく荒んでいることが多いのだが、それこそが日本の未来の心象風景である。増大していく孤独死を見ても分かる通り、高齢者の地獄は確実に日本にやってきている。

いかに日本が危機的なことになっているのか、もっと現実的に把握すべきである。

本当であれば、日本の少子高齢化という問題こそを「国家存続の危機」と定義づけて、政府はこの解消のために全身全力で取り組まなければならないのだが、ここに注力する政治家はほとんどいない。

日本は多子化社会にしなければならないのに政府は何もしないで放置し、挙げ句の果てに労働力が不足したと言って騒いで隠れ移民政策なんかを進めている。

高齢者の地獄は、止まらない高齢化と共に確実に日本を蝕んでいくことになる。

『どん底に落ちた養分たち――パチンコ依存者はいかに破滅していくか(鈴木 傾城)』
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