安倍元首相が凶弾に倒れて社会が激震したのを、何も持たない層はじっと見ている

安倍元首相が凶弾に倒れて社会が激震したのを、何も持たない層はじっと見ている

安倍晋三元首相は凶弾に倒れた。もはや失うモノがない弱者は、この出来事をじっと見つめているはずだ。「そうか、憎む相手にテロを行えばルサンチマン(復讐感情)を晴らせ、社会を激震刺せることができる」と気づいたはずだ。とすれば、これから社会のどん底にいる人間たちが、社会に牙をむくのである。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

金持ちがそれを「見せつける」社会になっている

安倍晋三元首相は凶弾に倒れた。そして日本社会は、たった1人の「何も持たない男」が引き起こした事件で激震に見舞われている。

もはや失うモノがない弱者は今、この出来事をじっと見つめているはずだ。「そうか、憎む相手にテロを行えばルサンチマン(復讐感情)を晴らせ、社会を激震させることができる」と気づいたはずだ。

とすれば、これから何が起こるのか誰でも分かるはずだ。社会のどん底にいる人間たちが、社会に牙をむくのである。憎むべき相手に、自分たちを虐げている相手に、そして社会全体に……。

私はいずれ、金持ちが復讐の主なターゲットになると確信している。

折しも世界中で経済格差が深刻化しており、この流れは日本にも波及している。ビジネスに邁進し、ビジネスを成功させることができる人間とそうでない人間の差は、資産形成において天と地ほどの差になっている。

ビジネスの成功者は上場によって数百億から数千億を一気に手に入れることになるのだが、もともとビジネスに関心がない人間は年間300万円だとか400万円の収入で一生を生きていくことになる。

資産総額は65歳を迎えた時点で2000万円あれば良い方だが、ほとんどはそこに到達することもない。

しかし、それほど巨額のカネがなくても楽しく愉快に暮らせるし、ほとんどの人は別に莫大な資産がなくても困っていない。実のところ、世の中の大半は、カネがなくても平穏に暮らしたいと思っている人で占められている。

今までは、世の中に棲み分けができていて、金持ちは金持ちの世界で排他的な共同体を作り上げて、それは排他的サークルに入れない人たちには見えないものだった。

しかし、いまやインターネットやSNSによって、金持ちがそれを「見せつける」社会になっている。大金持ちは臆面もなくそれをひけひらかして、いかに自分が富を持っているのかを自ら可視化する。

さらに貧困層に向かって上から目線で「カネがない奴は価値がない」とか「カネがない男は終わり」とか「カネを稼げない男は馬鹿」とか「ホームレスよりも猫の命の方が大事」みたいな品性下劣な煽りや嘲笑を投げつける。そして、そうした言動が「勝ち組だから」と賞賛される社会になっている。

【金融・経済・投資】鈴木傾城が発行する「ダークネス・メルマガ編」はこちら(初月無料)

ビジネス的思考を持った人間の「価値観」

富裕層は富裕層の世界があり、中間層は中間層の世界があり、貧困層は貧困層の世界がある。それぞれ、違う価値観で好きなように生きているのだから、お互いに何も干渉する必要はない。

しかし、インターネットとSNSはそうした世界を可視化させて、お互いを「つなげた」ので、違う価値観が急激に出会い、対立し、衝突することになる。SNSこそがまさに分断を煽る装置なのである。

理想論としては、違う価値観が出会った時は、お互いに相手を認め合ってそれぞれの良さを確認し合うことが最適なのだが、現実は理想論のようになるわけではない。違う価値観はしばしば相手に自分の価値観を押し付け、相手を苛立たせ、そして対立と衝突を生み出すことになる。

SNSは「違う国」「違う人種」「違う宗教」「違うイデオロギー」の人間をことごとく「つなげた」のだが、それによって生まれたのは、相手に対する嫌悪や不信感や憎悪という感情だった。

理解し合うのではなく、反撥し合うのである。互いに違う価値観を罵詈雑言によって攻撃する世界になったのだ。

この対立は「金持ち」と「その他」にも顕著に表れるようになっている。資本主義の中でビジネス的に成功した金持ちにとって、月給14万で地道に働いている人など「終わっている」という価値観しかない。

「カネこそすべて」なのだから、カネがない人間は「終わっている」としか思えない。それがビジネス的思考を持った人間の「価値観」である。しかし、すべての人は「カネこそすべて」という価値観を持っているわけでは断じてない。

カネよりも公園で子供たちと遊んでいるのが幸せという人もいるし、浜辺で貝殻や石を拾ったり山で虫を捕ったりするのが幸せという人もいるし、飼っている犬と散歩をしているのが幸せという人もいる。

子供と遊んだり、浜辺で貝殻や石を拾ったりするのはカネにならない。しかし、それが幸せという人もいる。彼らは「カネこそすべて」という価値観では生きていない。しかし、弱肉強食の資本主義の中で彼らはこっぴどく嘲笑される。

【ここでしか読めない!】『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』のバックナンバーの購入はこちらから。

底知れぬフラストレーションが渦巻く

原始時代は強靭な肉体を持った人間が有利な世界だったので、遺伝的に強靭な肉体を持った人間が褒めそやされて、逆に「強靭な肉体を持たない人間は価値がない」という話になっていただろう。

中世のヨーロッパでは、いかに神を深く信奉できるのかが重要だったので、「信仰を持たない人間は価値がない」という話になっていただろう。現代は資本主義なので、「カネを持たない人間は価値がない」という話になっている。

「カネがモノを言う世界なのだから、カネを稼げばいいではないか」という成功者特有の考え方は資本主義に最適化された考え方であり生き方である。しかし、その価値観は全員に共有されるわけではないし、しかもその価値観を身に付けても誰もが成功者になるわけではない。

しかし、経済的な成功者のみが極度に恩恵を受けるようになり、傲慢になり、「カネがない人間は終わっている」みたいな言い方をするようになると、そこから生まれてくるのは価値観が違う者同士の激しい嫌悪と対立と憎悪である。

現在、資本主義はますます苛烈になっており、勝者総取りの世界になろうとしている。成功者は莫大な富を手に入れるのだが、現代の資本主義に最適化されない人間はますます困窮していくことになるのだ。

その結果、現代の「負け組」に追いやられた人たちの中から、やがて底知れぬフラストレーションが渦巻くようになり、それがひとつの憎悪として形成され、その憎悪は極度に成功した人間たちに向かっていく。

憎悪の行く先には何があるのか。言うまでもない。「破壊してやる」「殺してやる」という感情である。

ダークネスの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』

「殺してやる」という強い意志となって結実する

安倍晋三元首相は、金持ちの象徴として殺されたわけではない。また動機に関しても、個人的な恨みで殺されたわけではない。しかし、安倍氏は大きな影響力と知名度を持った人間であった。

それを、社会の底辺に埋もれて誰にも見捨てられていた「何も持たない人間」が撃ち殺して社会を激震させた。社会は政治活動ではなくテロで変えられるとどん底の人たちは理解した。

だからこそ、資本主義がいびつになればなるほど、次のターゲットは金持ちになっていくと決定づけられているのである。

社会に鬱積を抱えた持たざる人たちは、最終的には貧困層が激しい憎悪を「富をひけひらかしている金持ち」に持つようになり、物理的な襲撃の対象にしていく。こうした例は欧米の一部地域や南米などですでに起きている。

南米は格差が極度化された世界なのだが、南米の金持ちは貧困層に襲撃されないように家のまわりを高い塀と高圧電流で守り、さらに武装したガードマンを付け、子供たちも誘拐されないようにボディーガードを付ける。

金持ちたちは襲撃の対象とされているので、隔離されたゲートシティを作りながら必死で身を守っているのである。うかうかしていると殺される。ここに弱肉強食の資本主義の行き着く未来が見える。

金持ちが自らの富をSNSで得意げになって見せつけ、上から目線で「カネがない奴は価値がない」とか「カネがない男は終わり」とか「カネを稼げない男は馬鹿」というような煽りや嘲笑を投げつける。

それによって何も持たない層の心の中では憎悪が培養され、やがて「ヤツらを殺してやる」という強い意志となって結実することになる。

「金持ちをひとり残らず血祭りに上げて今の社会をひっくり返してやる」という新しいイデオロギーが力を持つようになると、それは革命(レボリューション)へと突き進むこともあり得る。

テロが社会を激震させるというのは、安倍晋三元首相がテロで倒れて自民党の存続すらも危ういものになりつつある姿で、どん底の人間たちは「学習」した。

弱肉強食の資本主義は暴走しているので、どこかの時点で99%の持たざる層は、1%の金持ちを「敵」と見なして血祭りに上げる行動を起こすことになるだろう。「金持ちは敵だ」「金持ちから奪え」「金持ちを殺せ」が合言葉になって実行される。

日本人はまだ「金持ちを殺してやる」という憎悪を持つ人は皆無か、いても目立たない。しかし、いずれはそうした憎悪を持つ人間が忽然と表側に現れて、上から目線で何か言っている金持ちから殺害対象にしていくことになる。

憎悪はすでに社会の底辺で育っているというのは確信できる。底辺から誰かが現れて、必ず事件が起きる。

今のままで推移すると、そうなるのは必然だ。

犯罪の世間学: なぜ日本では略奪も暴動もおきないのか(佐藤 直樹)。日本独特の秩序で法のルール以前に私たちを縛る「世間」が、その排他性を強めて犯罪を生み出している。1990年代以降の犯罪の厳罰化、2000年代以降の殺害事件や脅迫事件を「世間」の視点から読み解き、息苦しさや閉塞感が増す日本の「空気」に迫る時代診断の書。

鈴木傾城のDarknessメルマガ編

CTA-IMAGE 有料メルマガ「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」では、投資・経済・金融の話をより深く追求して書いています。弱肉強食の資本主義の中で、自分で自分を助けるための手法を考えていきたい方、鈴木傾城の文章を継続的に触れたい方は、どうぞご登録ください。

貧困カテゴリの最新記事