社会のどん底でどうにもならなくなった若者たちが、次々と重大事件を引き起こす

社会のどん底でどうにもならなくなった若者たちが、次々と重大事件を引き起こす

バブル崩壊から目立つようになってきているのが、社会のどん底でどうにもならなくなった若者たちが次々と重大事件を引き起こす姿である。これは一過性のことではない。日本政府は緊縮財政を採って日本を成長させることができなかったのだから、これからも事件は続くのだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

貧困の若者が重大事件を起こす事件が目立ってきた

2019年7月18日、京都アニメーションでガソリンが撒かれて放火され36人の死亡者、33人の負傷者を出した平成最悪となった殺人事件があった。

この事件の犯人は43歳の男だったが、県非常勤職員、新聞配達員、コンビニの店員等の仕事を転々とし、下着泥棒で逮捕され、金がなくなってコンビニ強盗して逮捕され、もはや人生に行き詰まって社会のどん底《ボトム》を這い回るしかない人生を送っていた人物だった。

2021年8月6日、東京の小田急電鉄小田原線車内で無差別刺傷事件が起きて、17人が負傷するという事件が起きた。この事件の犯人は36歳だったが、突如として電車内で刃物を振り回して20歳の女性に襲いかかっていた。

後でこの36歳の犯人は「勝ち組の女性を殺したいと考えるようになった」「俺はクソみたいな人生を送っているのに、幸せそうな人を見ると殺したくなる」とその心境を語っている。

この事件の犯人も、梱包会社、物流倉庫、温泉旅館の住み込み従業員、東村山のパソコン工場、コンビニ店員……等々の短期の派遣労働を点々として、人生に行き詰まっていた人物だった。

この小田急電鉄小田原線車内を見て、今度は京王線で模倣事件が起きたのだが、この事件を起こした犯人は24歳で、ジョーカーの格好をして事件に及んでいたので「ジョーカー事件」とも呼ばれるようになっていた。

この事件の犯人も、地元の高校を卒業後は介護ヘルパーやネットカフェの店員などの仕事を転々としていて、やっとのことで携帯電話関連会社に就職したが、そこでもうまくいかなくて辞めて無職になって、人生に行き詰まっていた。

そして、2022年7月8日。参議院選挙も終盤に差し掛かっていた中で、安倍晋三元首相が後から撃たれて殺されるという事件が発生したが、その事件の犯人も母親が韓国カルト統一教会にのめり込んで経済破綻し、本人も派遣社員としての仕事を転々として暮らすという生活をしていた人物だった。

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1993年、日本の社会でいったい何があったのか?

日本社会では、すでに20代〜30代の貧困は当たり前になっており、今さら「若者の貧困」で驚くような人はいなくなっている。日本ではすでに貧困は完全に定着したと言っても過言ではない。

若年層が経済的に苦しむようになったのは、1990年代からである。この時期に何があったのか。日本を覆い尽くしていたバブルの完全崩壊である。1990年にバブルが崩壊し、1993年にもなると土地バブル、株式バブルに踊っていた企業のほとんどが業績を急激に悪化させていった。

バブルが崩壊したばかりの1990年から1992年までは、まだ「ここで踏みとどまれば再び日本の陽は昇る」と考える経営者も多く存在していた。そのため、バブルが崩壊していく最中に、さらなる借り入れをして暴落した株式や土地を買い漁る強気な経営者もいた。

ところが、崩壊したバブルは戻らなかった。高値の不動産や株式をしこたま買い込んだ企業はたちまち莫大な負債に身動きが取れなくなり、経営が悪化していった。会社の資産や業績が急激に悪化していく中で、ほとんどの企業は自衛のためにに支出を引き締め、求人を取りやめたり、人減らしをするようになっていった。

そこで起きたのが「就職氷河期」である。

就職したくても仕事が見付からない。働きたくても企業が求人しなくなる。企業はバブル期に大量の人間を採用したのだが、この人員が莫大なコストになって、もはや新規の求人どころではなくなったのだ。

さらに、悪いことが起きていた。この頃からグローバル化による海外進出が本格的に始まっていて、日本企業は新興国との激しい価格競争に巻き込まれて賃金の高い日本人を雇う余裕がなくなっていった。

企業はどうしたのかというと、こぞって生産工場を国外に移して途上国の安い人材で製品を製造するようになり、国内の雇用を捨てた。

かくして、若年層は仕事を探しても見つからず親にパラサイト(寄生)しながら、アルバイトのような仕事で細々と生きていくしかなくなった。こうした若者を当時の社会はこのように罵った。

「負け組」……。

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働かないで自室に引きこもる人は時代が生み出した

誰が彼らを「負け犬」と言っていたのか。それは、バブルが崩壊する以前に就職していた人間たちである。1990年代は、まだ運良く会社に潜り込めた人間がいたので、「就職氷河期で仕事が見つからない人が犠牲になった」という理解がなかった。

特にバブル期であった1986年から1989年までに、引く手あまたで就職できた人たちにとっては、「就職できない」というのは実感できないことでもあった。

この世代は後に「バブル世代」と言われるようになるのだが、彼らにとっては「仕事が見つからない」というのは「遊び回っていたからだろう、自己責任だ」としか思えなかったのである。

しかし、超就職氷河期の波に飲まれて「負け犬」と指をさされた就職氷河期の若年層は、バブル世代の若年層と何が違ったわけではない。違ったのは、就職する時期になって日本の経済環境が大きく激変して、その不運な波をまともに食らったという部分だ。

彼らは翌年には状況が改善されているかもしれないと期待を寄せたが無駄だった。日本経済は回復せず、状況は後になればなるほど悪くなっていった。莫大な不良債権を抱えた銀行は必死になって貸し剥がしに近い資金回収に走っていたのだが、それでもバブル崩壊に対処できなかったのだ。

その結果、1997年以後は北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が次々と破綻した。株価崩壊で証券会社も立ちゆかなくなり、山一證券も三洋証券も吹き飛んでいった。結局、就職氷河期の若年層は助からなかったのだ。

引きこもりやニートは、2000年代に入ってから日本の社会問題となったのだが、働かないで自室に引きこもる人たちはこの世代から生まれている。それは、時代が生み出していたのである。

ちなみに、日本政府は政権を何度も何度も変えながらも日本経済を成長させる方策はまったく採らず、経済縮小(デフレ)させる緊縮財政を強烈に押し進めたので、実質賃金は下がる一方と化して貧困が全世帯に蔓延した。

2010年代に入ると、バブル世代もまたリストラの対象となって路頭に迷うことになる。つまり、就職氷河期の若年層を「負け犬」と言っていた世代も、2010年代には「負け犬」になったということだ。

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この「負のスパイラル」は何を生み出すのか?

もちろん、就職氷河期の若年層でも何とか就職活動に成功した人もいる。彼らは自分たちが幸運だったことを感謝し、給料が安かったり昇進しなかったりしても淡々と働いた。

就職に失敗したら、非正規雇用で働くか、引きこもりになるしかないのだが、実際に自分たちの回りを見回すと同年代の若者がそのようになっていた。「雇ってもらう」というのがどれだけ厳しいことなのかを就職活動で骨身に染みた彼らは「正社員」という地位にしがみついた。

その結果、世帯間の格差も広がっていった。何とか就職できて地道に働いて賃金をもらえる人と、低賃金の非正規雇用者や無賃金の引きこもりやニートに、貯金や資産形成に差が生まれるのは当然のことである。

その差が埋めがたいものとして社会問題化するようになったのが2005年頃からだった。この頃になると、「就職できなかった若者たちは本人の責任ではなく社会にも問題があったのだ」という認識が浸透するようになっていた。

それまでは「働けない、食べていけないのは努力が足りないからだ、自己責任だ」という突き放した声も多かったのだが、やっと社会は「時代が働けない若者を生み出していた」ということに気付いた。

しかし、気付いた時はもうすでに遅く、若年層の人生は破壊されていた。彼らはまともな仕事を得ることもできないまま30代や40代になり、ますます仕事が見つからなくなっていたのだ。

そしてバブル崩壊から30年以上も経ち、目立つようになってきているのが、もはや社会のどん底《ボトム》でどうにもならなくなった若者たちが、次々と重大事件を引き起こす姿なのである。

これは一過性のことなのだろうか? いや、そうではない。長らく定着した経済縮小(デフレ)と貧困蔓延と格差拡大が問題の根幹に横たわっているのだから、これからもどん底《ボトム》の若者たちが重大事件を次々と引き起こすのは当たり前のことなのである。

ボトム・オブ・ジャパン
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