いよいよ日本は、一段下の国力低下と貧困に見舞われていくのが決定的になった?

いよいよ日本は、一段下の国力低下と貧困に見舞われていくのが決定的になった?

「コロナ禍さえ落ち着いたら世の中は戻る」という意見もあるが、私は最近になって、それはもう甘い見通しになっているのではないかと考えるようになってきた。もしかしたら今後の日本経済は、1990年代のバブル崩壊による社会の変質と同じような状況になるのではないか……。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

日本経済は「低迷したまま元に戻らない」のでは?

2022年7月。新型コロナウイルスのオミクロン株亜種「BA.5」の蔓延で第7波が来襲し、全国で新規感染者が約20万人を超える状況になっている。そこに、今度は感染力3倍という新たな亜種「ケンタウロス」なるものも広がっている。

何度ワクチンを打てどもまったく状況は改善しない中で「ワクチン無用論」も声高になっていき、状況は混沌としていく一方と化している。

こうしたコロナ禍の悪化は、円高や物価上昇によってダメージを受けている日本経済をより悪化させていくのは決定的になった。アメリカもリセッション(景気後退)が間近に迫っている様相だが、日本も壮絶な悪影響から逃れられないだろう。

「コロナ禍さえ落ち着いたら世の中は戻る」という意見もあるが、私は最近になって、それはもう甘い見通しになっているのではないかと考えるようになってきた。

もしかしたら今後の日本経済は、1990年代のバブル崩壊による社会の変質と同じような状況になるのではないか……。要するに、日本経済は「低迷したまま元に戻らない」ような状態になるのではないか。

2020年から起きたコロナ禍からすでに2年半経った。その中で、中小零細企業は大ダメージを受けたまま、再び第7波の大波をかぶる。そして、消費税10%の毒も回れば、物価上昇の苦境もかぶる。

現在の社会情勢がもたらしている実体経済の悪化と不景気は、下手したら「長期低迷の入口だった」という不幸を生み出してもおかしくない。

あたかも、1990年にバブルが崩壊して、以後の日本経済が一向に元に戻らなかったように……。

1990年代の前半は、バブルが崩壊したとは言えどもまだ「元に戻るかも」という一縷の望みを人々は持っていた。

しかし、1990年代後半になると社会は完全にバブル崩壊を認識した。過大な借金に押しつぶされて自殺していく人たちが増えたのもこの頃だった。自殺者は年間3万人を超えていき、その異様さは世界でも際立っていた。

自殺者の多くは無理な借金を抱えて首が絞まったことで追い込まれていたのだが、それでも、いずれまた日本は経済大国として「陽はまた昇る」と考える人々も少なくなかった。

日本経済は華々しく復活すると断言する経済評論家もたくさんいた。しかし、違っていた。彼らは時代が変わったことが見えていなかった。日本は2000年に入っても陽が昇らなかった。むしろ国力は落ちていく一方になっていた。

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マスコミが「新しい働き方」と囃し立てていた非正規雇用

2000年に入ってからは、若年層の貧困が問題になった。この若年層の貧困は、製造企業が若年層を非正規で雇うようになってから生まれた現象だ。非正規は使い捨ての労働形態である。

これによって企業は売上や需給に応じて労働者を好きなときに切り捨てることができるようになったのである。

この「非正規雇用」という雇用形態は、働く側も警戒されるどころか、むしろ嬉々として受け入れられた。非正規雇用には「ハケン」「フリーター」という、いかにも時代の最先端のようなカタカナがあてがわれ、当初マスコミは「新しい働き方」と囃し立てていたからだ。

なぜこれが「新しい働き方」と言われたのかというと、「好きな時間、好きな期間だけ働けて、あとは趣味や自分探しの時間に使える」と喧伝されたからである。確かに働く側から見るとそうかもしれない。

しかし、物事には別の側面もある。雇用は常に「雇う側」に主導権があるので、労働条件は企業側から見なければならない。企業側から見た「ハケン」「フリーター」というのは、企業が「好きな時間、好きな期間だけ雇って、あとは使い捨てにする」という意味なのである。

果たして2005年前後から急激に問題になっていったのは、若年層の貧困と格差だった。若年層は正社員で働こうと思っても働けなくなっていた。

若年層は、企業が求める期間だけ雇用され、あとは使い捨てにされるようになったのだ。「景気の調整弁」と企業は表現したが、これは分かりやすく言えば「使い捨て」ということなのだ。「使い捨て」では安定した収入が得られるわけもなく、将来設計も立てられるはずがない。

最初は若年層の中でも、学歴のない若者や高学歴でも働くよりも趣味を優先していた若者が窮地に追い込まれていたので、人々は彼らの苦境を「自己責任」「負け犬」と捉えた。

同時に正社員という身分でいる人たちは自分たちを「勝ち組」であると定義した。しかし、正社員は勝ち組であるという意識は次の社会的激震で吹き飛んでしまうことになった。

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2009年になると日本人はさらに最悪の選択をした

正社員が「勝ち組」だというのは、ただの勘違いに過ぎなかった。その勘違いを吹き飛ばしたのが2008年9月15日に起きたリーマンショックによる大不況だった。グローバル経済は崩壊寸前になり、多くの企業がこの大きな波に飲み込まれていった。

不況はアメリカ発だったが、日本はアメリカ以上の苦境に追い込まれていく。

リーマンショックはグローバル化した国際社会に襲いかかった凄まじい金融収縮だった。サブプライムローンに過大なリスクを賭けていた欧米の金融機関は次々と窮地に陥り、金が回らなくなり、実体経済も急激に縮小した。

不動産価格も株価も大暴落し、売上も利益も激減、これによって欧米の企業では激しいリストラが吹き荒れた。この衝撃的な経済の激震は一瞬にして日本をも飲み込み、日本企業も軒並み売上を落としていくことになる。日本の株式市場も欧米と共に暴落して立ち直れなかった。

この混乱の中で、2009年になると日本人はさらに最悪の選択をすることになる。

マスコミはこの大混乱の中で「民主党に政権を取らせなければならない」と凄まじい勢いで世論操作をしたのだ。そして、多くの日本人はマスコミに乗せられて、2009年9月に民主党政権を樹立させてしまうのである。

民主党政権は政治的素人集団だっただけでなく、売国政治家の集団でもあった。そのため、彼らは日本企業の力を削ぐために故意に円高を放置して日本企業の国際的競争力を喪失させた。

さらに売国の評論家たちが「円は50円になる、10円になる」と煽り立ててマスコミも円高が素晴らしいかのようにそれを取り上げて日本人を混乱させた。そこに2011年3月11日には東日本大震災が襲いかかり、すでに経済的に疲弊した日本企業はさらに追い込まれていく。

民主党政権は何もできない、何もしない政治集団だったので、追い込まれた日本企業は、いよいよリストラをするしか手がなくなった。

正社員が「勝ち組」という時代もここに終わった。一流企業の正社員であっても、自分の会社が傾くと片っ端からリストラされて路頭に迷う時代がやってきたのだ。一流企業に入れば安泰という時代は終わった。

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雇用を排除する動きが猛烈に行われ、そこにコロナも直撃

「真面目に働くことによって明るい未来が拓く」という今までの資本主義の基幹を為していた牧歌的な考え方は、時代が進めば進むほど過去のものになっていった。

現代の資本主義は、全世界を巻き込んだ凄まじい競争を強いる弱肉強食の資本主義である。企業は競争に打ち勝つために、素早く巨大化し、素早く時代に対応し、利益を極大化させることが望まれている。

利益を極大化させるためには、余計なコストがかかる雇用を必要最小限にするのが手っ取り早い。人間を雇うというのは、企業から見ると凄まじいコストだからだ。

年500万円の人間を20年雇用したら、その1人だけで1億円のコストがかかる。実際にはこれに福利厚生から事務所代から雑費等含めて、かなりの出費がある。

単純に言えば、人は雇わなければ雇わないほどコストは削減される。そのために企業は、ありとあらゆる方法で雇用を削減する方法を考え出す。

それが非正規雇用の拡充であったり、アウトソーシングであったり、途上国の工場移転であったり、IT化であったり、ネットワーク化であったり、ロボット化であったり、人工知能であったりする。

現在は「雇用を排除する動き」が猛烈な勢いで行われ、加速している時代である。そこにコロナが直撃しているのだ。この2年半を見てきて分かる通り、景気が悪化すればするほど、企業はますます「雇用を排除する動き」を急ぐ。

2019年に10%になった消費税も景気を悪化させている。政府も緊縮財政を意識しており、社会保障費をどんどん削ろうとしている。そして、資源高・エネルギー高を受けて物価が上がり、円安がそれをブーストさせている。

アメリカはインフレ退治に躍起となっており、政策金利はどんどん引き上げられている。中国はゼロコロナに固執して成長率を落としている。ロシアとウクライナの戦争も泥沼化している。グローバル経済も傷ついている。周辺国との対立も激しくなる。

だから、コロナ禍が終われば何事もなかったかのように日本経済が以前に戻ると考えるよりも、日本経済は「低迷したまま元に戻らない」ような状態になると考えた方がいいのではないか。

「コロナ禍が落ち着けば元に戻るはず」という楽観論は忘れた方がいいのかもしれない。コロナ禍が終わっても一向に景気が戻らない、むしろ深刻度はますます深まっていくと考える方が現実に即しているのではないか……。

私は今、そのように思うようになっている。いよいよ日本は「一段下」の国力低下と貧困に見舞われていくのは決定的になったように見えるのだ。

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