「クアッド」構想が浮かび上がらせるのは「誰が日本の敵なのか」という事実

「クアッド」構想が浮かび上がらせるのは「誰が日本の敵なのか」という事実

中国は危険な国家だ。非合法な手段であっても躊躇わずに使用して他国を侵略・支配してしまう。一帯一路戦略も経済植民地化の手段である。日米豪印はこの中国を阻止しようと「クアッド」で動き始めている。そのため、「クアッド」を支持するか反対するかで「アメリカ側か中国側か」が明確になる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

一帯一路で乗っ取られた国

中国は世界を支配するために2013年から「一帯一路戦略」を推し進めている。これは簡単に言うと、「現代版シルクロード」であると言える。中国とヨーロッパを陸路と海上航路でつなぎ、これによって貿易を活発化させるというものだ。

これは、一帯一路を受け入れる側の国にとっても魅力的なものに見えた。しかし、ワナがあった。中国はその国に負債を負わせてインフラ整備をしたのだが、その負債は非常に大きくて、その国が返せるかどうか分からないほどのものだった。

これは「債務のワナ」だった。

中国は、一帯一路を受け入れたあちこちの国を「インフラを作ってやる」という甘い言葉で釣って経済植民地にしてしまったのである。過剰な債務を通じて、その国を実質的に支配に置く。それが中国のやったことだった。

この「債務のワナ」の犠牲になった国は多い。

犠牲になった国は多い。スリランカも、ラオスも、モンゴルも、パキスタンも、トルクメニスタンも、マレーシアもみんなワナにかかった。

さらに他にも中国が経済植民地にしてしまった国に、エチオピア、ベネズエラ、モルディブ、バヌアツ、ジブチなどがある。

エチオピアの債務額はGDPの59%となっている。その債務のほとんどは中国だ。そのため、エチオピアという国は「アフリカの中国」と揶揄されるようになっている。返せないのを見越して借金させて、その国を乗っ取る。まさに「国家版のサラ金屋」である。

スリランカでは、債務の返済ができなくなって自国にあるハンバントタ港を奪い取られて、中国専用の港のようになってしまった。スリランカはこの港を自国のために使うことができないが、中国はまるで自分の領土の港のように好きに使うことができる。

これが一帯一路戦略だった。

【金融・経済・投資】鈴木傾城が発行する「ダークネス・メルマガ編」はこちら(初月無料)

「クアッド=東アジア版NATO」

中国が「世界支配を進めている」というのは、もう誰の目にも明らかになっている。これに対してほとんど危機感がないのは日本人だけだが、さすがに安倍政権はアメリカとの連携から、「このままでは日本もまた中国に属国化される」という危機感を持っていた。

そこで対抗して生まれた構想が「セキュリティダイヤモンド構想」である。「自由で開かれたインド太平洋」のために4ヵ国が連携して中国に対抗しようという構想だ。

この4ヵ国とは「日本・アメリカ・オーストラリア・インド」を指す。「自由で開かれた」とわざわざ銘打っているのは、中国が太平洋に進出すると「不自由」で「閉じられた」空間になるからだ。

中国は着々と一帯一路戦略を広げて経済的植民地を増やしてきた。トランプ政権になってからこの中国の動きが危機的に捉えられるようになり、アメリカはいよいよ2017年12月に「中国は戦略的競争相手である」と発表するまでになった。

そして、安倍首相が提唱したこの「セキュリティダイヤモンド構想」は日米共通の戦略となっていく。

2019年6月、アメリカの国防総省はこの構想を公式化し、9月にはニューヨークで初の外相会議が行われた。「クアッド外相会議」とそれは呼ばれた。

そして、2020年8月。スティーブン・ビーガン国務副長官は「クアッド」を「東アジア版NATO(北大西洋条約機構)」にする構想を口にした。NATOは歴史的にロシアを封じ込めるための軍事的同盟だったのだが、「クアッド」は明確に中国を封じ込めるための戦略である。

もちろん、中国は自国の活動が監視・制限・制約される「クアッド=東アジア版NATO」には激しく反発しており、「地域的な発展を損なうことになる」「結局は失敗する」「排他的な仕組みにすべきではない」と叫んでいる。

中国側の切り崩し工作も行われており、オーストラリアやインドはこの「クアッド」に対して立場がゆらゆらと揺れ動く。

これらの国は中国の台頭と侵略には大きな警戒心を持っているのだが、だからと言って全面的にアメリカを信用しているわけでもない。「クアッド」は、まだまだ強固な同盟関係にはなっていない。

【ここでしか読めない!】『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』のバックナンバーの購入はこちらから。

クアッド構想を否定した国

2019年まで、インドは中国に配慮して表立ってこの「クアッド=東アジア版NATO」を容認していなかった。

インドもまた中国とは経済的にも深く結びついており、中国を刺激するのはインドにとって得策ではない面もあった。

しかし、状況を一変させたのが2020年6月のガルワン渓谷地域の軍事衝突だった。この国境を巡る兵士による小競り合いと衝突が続いてインド軍兵士が20人も殺されるという事件が起きた。

それ以前にも中国は、インド領であるドクラム高原を自分たちの領土だと言い出し始めてインドを警戒させていた。

中国の膨張主義はウイグル・チベット・内モンゴル自治区・台湾・ベトナム・フィリピンを苦しめており、日本もまた尖閣諸島・沖縄侵略・北海道領土爆買いで苦しめられているのだが、インドにも触手を伸ばしていたのだ。

インド軍兵士を20人も殺されたインド側は激怒して、インド内の中国企業を排除したり、中国のアプリケーションを使用禁止にしたりしたのだが、さらに今まで中国に配慮して立場を明確にしなかった「クアッド」にも前のめりになった。

「クアッド」にはベトナムやニュージーランドや台湾も深い関心を示している。アメリカは、こうした国々も含めて「クアッド・プラス」構想も検討している。

しかし、「クアッド」に対して、はっきりと否定的な感想を国にする国もある。それは韓国だった。

康京和(カン・ギョンファ)は「他国の利益を自動的に排除するいかなることも、良いアイデアではないと考える」と述べて、韓国は「クアッド=東アジア版NATO」に加わらない姿勢を見せた。

康京和がここで言った「他国」というのは、もちろん中国のことだ。韓国はもはやアメリカ側の国ではなく、中国側の国であることが如実に表れた姿勢だった。独裁政権が国を支配する北朝鮮は最初から「クアッド」構想に入るような国ではない。

ダークネスの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』

「誰が敵なのか、誰が侵略者なのか」

「クアッド」構想は実質的に膨張主義を取る中国を封じ込めるための日米豪印の国際戦略である。そのため、「クアッド」に加盟するか支持するか、それとも反対するかで「アメリカ側か、中国側か」が明確になる。

中国は危険な国家だ。非合法な手段であっても躊躇わずに使用して他国を侵略・支配してしまう。日米豪印はこの中国を阻止しようと「クアッド」で動き始めているのだが、韓国はそうではない。

つまり、中国と同様に韓国もまた日米にとっては信用できない国であるということがこれによって明確になった。北朝鮮はもともと日米と敵対している独裁国家である。

結局、「クアッド」が浮かび上がらせたのは、以前からすべての日本人が理解していた以下の事実だった。

「中国・韓国・北朝鮮こそが日本の敵だ」

2020年代は、中国共産党政権が全人類の敵であることを世界が理解し、壮大な対中戦争が起こりかねない時代となる。

最終的には、かつてのように米ソ冷戦のようになるのか、それとも世界中のあちこちで米中代理戦争が起きて、それが最終的には第三次世界大戦を引き起こすものになるのかは分からない。

しかし、そのようになりかねない事態を中国は引き起こそうとしている。その時、日本にとっては、中国と共に韓国と北朝鮮もまた「敵」となることは忘れてはいけないことだろう。

今の日本人は「誰が敵なのか」「誰が侵略者なのか」すらも、しっかりと把握できないくらい愚民化されてしまっている。気づいても、それを口に出すことすらもできない国なのだ。

敵が敵だと認識できないのは危険過ぎる。侵略者に侵略されていると気づかないようではすべて奪われる。日本人は、まず敵を敵と認識できる初歩的なところから現状認識を進めなければならないはずだ。

『アメリカは中国を破産させる(日高義樹)』

鈴木傾城のDarknessメルマガ編

CTA-IMAGE 有料メルマガ「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」では、投資・経済・金融の話をより深く追求して書いています。弱肉強食の資本主義の中で、自分で自分を助けるための手法を考えていきたい方、鈴木傾城の文章を継続的に触れたい方は、どうぞご登録ください。

一般カテゴリの最新記事