日本社会全体を「時代遅れ」にしたままだと、日本そのものが沈没してしまう

日本社会全体を「時代遅れ」にしたままだと、日本そのものが沈没してしまう

人々はますます情報をスマートフォンで読むことを好むようになっている。紙はかさばる、情報が遅い、検索できない、資源の無駄になる。だから、今の中高年が老いても、紙に戻ることは絶対にない。人々はスマートフォンですべてを完結したいと思うようになっている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

当たり前だが、非効率の放置は日本のためにならない

インターネット時代になり、さらに2020年には強制的なリモートワークの時代になったことによって、家庭でも企業でも「紙出力」が激減している。リモートワークが標準化したらプリントした紙で稟議を回すというのはできなくなる。

リモートワーク化は、デジタル化であり、デジタル化は確実に「紙の廃止」に向かって進んでいく。重要書類はPDFで作成され、それがクラウドで保管されるようになっているのだ。

進化を阻んでいたのが「はんこ」の存在だった。しかし、2020年のコロナ禍の中で規制改革担当大臣の河野太郎氏は、大きな批判がある中でいよいよ「脱はんこ」に乗り出した。

『正当な理由がない行政手続きについては、「はんこをやめろ」ということを押し通そうと思う』

もちろん、はんこ業界は大反発であり、高齢の議員や印鑑の生産が盛んな山梨県の知事からも「印章関係者の健気や想いや切実さに対する敬意はおろか想像力すら微塵も感じられない」と激しく激怒されている。

しかし、だからと言って「はんこ文化」をそのままにしていると、日本社会の非効率化は解消しない。日本社会全体を「時代遅れ」にしたままだと、結果的に日本そのものを沈没させてしまう。当たり前だが、非効率の放置は日本のためにならないのだ。

欧米ではすでに「DocuSign」や「Adobe Sign」などの電子署名が普及するフェーズに入っていることもあり、日本も遅かれ早かれ電子署名に変わっていく。それこそ、スマートフォンで確認して、スマートフォンで電子署名して稟議を回すスタイルが当たり前になる。

紙の捺印は紙時代の慣習であり、いつまでもこうしたものにこだわっていると日本はイノベーションに進めない。多くの人が新聞を紙ではなくスマートフォンで読むようになったように、はんこの時代も今後は終わっていく。

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普通のカメラを持ち歩くのは無駄だし非効率

そして、こうした流れがどんどん進んでいくと、「プリンター」も「コピー」また非効率性の象徴とされ、それほど使われないものになっていく。かつて時代の最先端を走っていた「ファクス」が非効率性とされてメールに取って代わったように、プリンターもコピーも市場が縮小する。

もちろん、リモートワークの中ではプリンターは「一時的」に需要が増えることもあるかもしれない。そういうことはある。

しかし、今後の業務のほとんどがディスプレイ上で処理されるので、長い目で見るとプリンターの需要は極限まで減っていくと考えるのが正しい。

欧米では経営者や最高経営責任者でさえも、重要な要件をスマートフォンでチェックし、決済するようなスピード経営に転換している。机の上で紙にプリントされた文書を読んで会議を開いて決断や決済をするというようなスタイルでは、もう今の時代では間に合わないのである。

プリンターやコピーやファクスでシェアを押さえた日本企業だった。しかし、日本企業が押さえたこうしたジャンルは、すべて時代遅れと化した。

カメラに関してもスマートフォンがどんどん侵食しており、もうコンデジを持ち歩く人はほとんどいない。「スマートフォンがあるのだから、普通のカメラを持ち歩くのは無駄だし非効率」と人々は思うようになっているのだ。

写真も紙のアルバムにして見る人はもういない。それも非効率だからだ。今はほとんどの人がスマートフォンで撮って、クラウドに保存して、共有したい写真をSNSで上げて見てもらう。

女性の中には美しく撮れるまで一日に100枚近く自撮りする人すらもいる。それを紙に印刷しても見るのは自分だけだ。友人に見せるとしても、紙で印刷したものを見せるよりもSNSに上げたものをリンクで見てもらう方が早い。

SNSに上げたら、世界中の人たちが自分の写真にアクセスしてくれる。「いいね」という賞賛さえ与えてくれる。そうであれば、もはや彼女たちには紙で印刷するメリットなどまったくない。

もちろん、まだまだ一眼レフや高級コンデジの方が自然で美しい写真が撮れる。しかし、そのクオリティを求めるのはプロフェッショナルな専門家だけで、もはや素人はスマートフォンで手軽に写真を撮ってすぐにSNSに上げることに意義を見出しているのだ。

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今の中高年が老いても、紙に戻ることは絶対にない

スマートフォンは今までの企業や人々の行動のあり方をことごとく変えて「文明の再構築」を行っている。

考えてみれば、普通の人々でさえも様々な情報をスマートフォンで読んだり見たりするようになっているので、「スマートフォンがすべてを取り込んだ」と言っても過言ではない。

2020年は朝日新聞も大赤字を計上しているのだが、すでにすべての新聞社が「紙依存」では生き残れないということがはっきりしている。スマートフォンが使えない高齢者が駆逐されたら、ますます新聞の部数は減る。

人々はますます情報をスマートフォンで読むことを好むようになっている。紙はかさばる。紙は情報が遅い。紙は検索できない。紙は資源の無駄になる。だから、今の中高年が老いても、紙に戻ることは絶対にない。

スマートフォンは常に手の中にあるので、人々はスマートフォンですべてを完結したいと思うようになっている。スマートフォンの字が小さくて読めないという高齢層は紙に向かうのではなく、タブレットに向かっている。基本的にはスマートフォンの延長なのである。

紙は「非効率」と化した。

だからこそ、スマートフォンはすべてを取り込んで、紙媒体のビジネスモデルに依存していた新聞社・雑誌社・出版社などを一気に時代遅れにしてしまったのだ。老舗の雑誌も次々と廃刊に追い込まれている。

雑誌はかつては本を読まなくなった人たちを本屋に引き寄せる重要な役割を担っていたのだが、もう雑誌による集客はまったく期待できなくなってしまっている。

中小零細の本屋もことごとく潰れてしまっているのだが、今や大手の本屋もポツリポツリと街から姿を消している段階に入った。ここ10年来で見ても、書店が増えた年は一度もない。大型書店が生き残っているとは言えども、総坪数で見ても売り場面積は極度に減少している。

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政治家そのものが日本で最も非効率な存在なのか?

「脱・紙依存」は金融の分野にも押し寄せている。日本もようやく「紙幣や小銭」から脱却しつつあり、現金からキャッシュレスの時代に一歩を踏み出した。

今でも頑なに物理的な現金から離れられない時代遅れの高齢者がいるのだが、来たるべきキャッシュレス時代は、こうした高齢者が生存できる「場」をどんどん狭めていくことになるはずだ。

「紙幣や小銭」は流通に手間がかかり、合理的ではない。それよりも、スマートフォンで決済をした方が早く確実だ。

そのため、日本でもスマートフォンがなければ買い物すらもできないような時代に入っていき、紙幣は近い将来は完全に消え去っていくことになる。すべてはスマートフォンに集約されていくのである。

将来的にはスマートフォンの機能がやがて時計や眼鏡や何らかのウェアラブルに取り込まれていく可能性もあるが、いずれにしても「脱・紙依存」の流れは決して覆ることがない。それが未来の姿になる。

時代の流れも、ビジネスのチャンスも、求められる技能も知識も、すべてはスマートフォンとその周辺の技術になるのだから当然の話だ。かつて文明は紙に依存してきたが、今後の文明はインターネットとスマートフォンに依存していく。

だからこそ、時代に付いていくために、私たちは誰よりも早く「脱・紙依存」を成し遂げていなければならないし、誰よりも深くインターネットとスマートフォンの知識や技能を手に入れておかなければならない。

紙で本を読んで、紙の紙幣を使って、何かを紙で印刷しなければ気が済まない人は次の時代には淘汰される。こだわってもいいが、主流から外れて生き残れない。生き残るためには、割り切ってインターネットとスマートフォンに没頭すべきだ。

時代はこちら側にある。

2020年代は、これが完全に「当たり前」になるのだが、日本社会が依然として旧態依然とした「紙体質」から抜けられていないことに私は非常に大きな懸念を抱いている。「いったいどこまで時代遅れで非効率を引きずるつもりなのか」と恐怖すら感じている。

日本社会の非効率化を解消しないと日本は生き残れない。日本社会全体を「時代遅れ」にしたままだと、結果的に日本そのものを沈没させてしまう。何度も何度も言うが、非効率の放置は日本のためにならないのだ。

これを一番分かっていないのが高齢の政治家なのだと思うが、もしかしたら政治家そのものが日本で最も非効率な存在だから仕方がないのかもしれない。ひとまず、SNSで発信できていない政治家はみんな引退させた方がいいのかもしれない。

『デジタル化の教科書 DX/DIで変わる世界(西村 泰洋)』

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