欧米流の切り捨て経営。「日本企業だから従業員を大事にする」はもう過去の話

欧米流の切り捨て経営。「日本企業だから従業員を大事にする」はもう過去の話

日本企業もグローバル化していく中で、外国人の株主、外国人の経営者、外国企業との提携が当たり前になっていき、ROE重視の経営に変化した。日本人はまだ甘い希望を持っているかもしれないが、「日本企業だから従業員を大事にする」というわけではなくなった。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

誰が大統領になろうが首相になろうが世の中は変わららない

アメリカで誰が大統領になろうが、日本で誰が首相になろうが、今の資本主義社会は強固に続き、経済格差は開いていく。そして、「金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏人に」という社会が先鋭化する。

コロナ禍の中でも状況は変わっていない。むしろ、富裕層はコロナ禍で資産を爆増させているのである。

国際NGOオックスファムは2021年2月には「世界のトップ富豪10人が、新型コロナウイルスのパンデミック中に合わせて5400億ドル(約56兆6000億円)相当の資産を増やした」と発表している。

トマ・ピケティが言うように、資本が生み出す配当や複利は労働賃金を超越し、いったん生まれた冨の集中化は極度なまでの格差を生み出す。その格差はますます広がっていき、膨大な底辺が極貧に落ちる。

富の偏在は今も継続している。10年から20年のうちに冨の集中はさらに進む。あと30年もすると、冨の一極集中が完全に完成する。

そこまで行くまでに貧困層の怒りと絶望が巨大な社会変革を生み出して、富裕層を血祭りに上げるような事件も起きるだろう。いつ、そうした社会変革が起きるのかは分からない。

しかし、いずれにしても現在の「弱肉強食の資本主義」は、持たざる者による激しい怒りさらされる日が必ず来る。

全世界の冨を0.01%の超富裕層がすべて手にした時、この超富裕層は「標的」になるのだが、それまではずっと経済格差と不公平は放置され続ける。だからこそ貧困層はみんな政治に白けている。「誰が大統領になろうが首相になろうが世の中は変わららない」と達観しているのである。

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必死で働いても副業をしても食べて行けない人たち

私たちはまだ、けなげに働いたら毎月食べていける。どんな仕事でもいいから、真面目に働いたらそれなりに暮らせる。それは「当たり前」だと、ほんの10年ほどまで私たちは思っていた。

しかし、この10年の間に「ワーキング・プア」という言葉が一般化したことからも分かるように、必死で働いても副業をしても食べて行けない人たちが大量に出現するようになった。

企業はコスト削減のために社員をどんどん切り捨てて非正規雇用の労働者に切り替え、彼らには必要最小限の賃金しか与えないようになったからだ。そうやってコスト削減して手に入れた利益はどうなるのか。

会社に内部留保されるか、もしくは株主に配当として配られる。内部留保や配当は「会社の利益」が元になるので、今後の経営はいかに「利益」を出すかが唯一無二の指標となっていく。これがROE経営と呼ばれるものである。

ROEとは、「株主資本利益率(Return On Equity)」を意味している。その会社が株主資本を使っていくら儲けたかを示す指標である。弱肉強食の資本主義は、言って見れば「株主資本利益率(Return On Equity)」史上主義から生まれているのだ。

アメリカの多国籍企業はとっくの昔からROE重視であり、会社が株主のためにあるという考え方は徹底化されていた。

このアメリカ式の資本主義が全世界のスタンダードになったわけだから、日本企業もグローバル化していく中でROE重視の経営になっていったのは当然のことである。

つまり、現在の資本主義社会は「株主重視=ROE主義」であり、優良企業の株主にならないと生きていけない社会となったのだ。

労働者? 労働者とは、ROE経営の中では単なる「コスト」である。コストは常に削減される。つまり、労働者は繰り返し給料削減やリストラの対象になる。

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労働者は捨てられる運命であると気付いても手遅れ

弱肉強食の資本主義はROE経営が生み出す。ROE経営はグローバル化した資本主義社会の「中核」となるものである。今後の資本主義は、さらに「株主重視」に傾倒していく。

「株主重視」になれば、当然のことながら「労働者軽視」になっていく。

株主は自分たちの取り分をさらに増やすために、「もっと利益を、もっとコスト削減を」と経営者に強く迫る。そのため、経営者はコストの中で最も大きな部分である「人件費」の削減を恒常的に行うようになるのだ。

それが、労働条件の悪化を加速させていき、ワーキングプアを大量に生み出す元凶となる。

必死で働いるのに食べていけないという状況になっても、最初は往々にして「本人のせい」にされる。なぜなら、社会は全員が一緒に貧困に落ちるのではなく、まだらに落ちていくからだ。

若者、高齢者、障害者、女性……。社会の弱い部分からポトリ、ポトリと貧困に落ちていく。

しかしその時点では、まだ働いて食べていける人がたくさんいるので、「本人の生き方、働き方」が悪いようにしか見えない。だから、自己責任論がずっと続く。

しかし、ワーキングプアの波が弱者ではなかったはずの30代40代の男性にまで広がった時、はじめて人々は「これは個人が悪いのではない、社会的構造だったのだ」と気付いて愕然とするのだ。

この時点で、労働者は捨てられる運命であると気付いても遅い。もう手遅れだ。政治家もこの状況を変えてくれるわけではない。

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日本も終身雇用・年功序列が霧散霧消して労働者は使い捨て

日本も終身雇用・年功序列が霧散霧消して労働者は使い捨てとなった。そして、企業はROE重視の経営を取り入れるようになり、経営は「株主のため」にされるようになっている。

それがますますコスト削減の締め付けの強化につながっていき、労働者はさらに「働いても食べていけない」という絶望のどん底に落とされる。

では、この世界で報われるのは誰か。それは「株主」である

主要企業の株主は利益の分け前を要求し、経営者に株価の上昇と配当の増額を求め、それを実現させる力があるからだ。

今までの日本企業は社員を終身雇用で雇うためにコスト削減には消極的で、必然的にROEが低い経営を余儀なくされていた。コストが増大であると分かっていても社員を守っていたのだ。

しかし、日本企業もグローバル化していく中で、外国人の株主、外国人の経営者、外国企業との提携が当たり前になっていき、ROE重視の経営に変化した。

日本人はまだ甘い希望を持っているかもしれないが、日本企業だから従業員を大事にするというわけではなくなったのだ。日本の経営者も欧米を真似してROE重視の「切り捨て」経営を取り入れ、欧米の企業のように振る舞っている。

今、私たちは「格差が広がる社会」であると認識している。しかし、ROE重視の経営が生み出す結果については誰も何も考えていないので、株主が報われて労働者が貧困化する社会はますます先鋭的になっていく。

企業の「利益」にアクセスできない人間、分かりやすく言えば「株主ではない人間」は、弱肉強食の資本主義からは何も得ることができない。

単なる労働者にしか過ぎない人間は、コスト削減の対象でしかなく、壮絶なまでの貧困状態に突き落とされてしまう。10年から20年のうちに、冨の集中はさらに進むというのはそういう意味である。

トマ・ピケティ『21世紀の資本』。資本が生み出す配当や複利は労働賃金を超越し、いったん生まれた冨の集中化は極度なまでの格差を生み出すという現象を、詳細なデータで人々に突きつけた書。

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